【稽古場レポート】地平線『タイピスト』07/03演劇フリースペース・サブテレニアン

 俳優の野坂弘さんによる演劇ユニット「地平線」の第2回公演の稽古場に伺いました。
 ⇒第1回公演の稽古場レポート ⇒第1回公演のレビュー

 『タイピスト』は米国劇作家マレー・シスガルさんによる1963年の戯曲です。男女二人芝居で、出演は二木咲子さん峰﨑亮介さん。主宰の野坂さんは演出を手掛けます。

 俳優2人と演出の野坂さん、翻訳の中西良介さん、衣装の岩男海史さん、宣伝美術の荒巻まりのさんは、全員が新国立劇場演劇研修所の修了生! 息の合った座組みの創作現場は想像以上に風通しが良く、ほどよい緊張感と期待感が満ちていました。

 ●地平線#2『タイピスト』⇒公式サイト
  07/12-16演劇フリースペース・サブテレニアン
  出演:二木咲子、峰﨑亮介
  脚本:マレー・シスガル 翻訳:中西良介 演出:野坂弘
  一般3500円 学生2800円 Uひろむ割(U28)3200円 当日は各+500円
  ⇒チケット予約 ※完売回は桟敷席を販売中!

≪あらすじ≫ 公式サイトより
-最近、自分に問いかけるんだ、本当にしたいことは何?って
-本当にやりたいことがわかってる人なんているの?
母親と暮らしながら家計を支えるシルヴィア。
夜学に通いながら法律家を目指すポール。
男女二人だけの小さな部署で、彼らはそれぞれが想い描く理想へなんとか近づこうと働き続ける、タイピストとして。
しかしその日々は、刻々と過ぎていき……。
人生の成功と失敗。その間にあるたくさんの皮肉やユーモアを愛ある視点で描 いた、クスッと笑えてドキッとする、ちょっとブラックな大人たちの喜劇。
≪ここまで≫

 稽古場は公演会場でもある演劇フリースペース・サブテレニアンでした。初日10日前から本番の空間で稽古できるなんて贅沢ですね~。簡易な装置があり小道具、衣装がほぼ本番仕様という環境で、場面稽古、通し稽古を拝見できました。

 シルヴィア(二木)とポール(峰﨑)は狭い部屋に2人きり。仕事は黙々とタイプをし続ける単純作業で、経営者は2人に対して個性や創造性などを求めてはいません。精神的、身体的にハードな職場で、男女が本音をぶつけ合う様子が笑いを生みます。

 野坂:馬鹿みたいに希望を捨てない2人を、観客が笑う構造になっている。彼らのよくわからないポジティブさを拾っていきたい。
 野坂:テーマは時間、スピードとも言えると思う。時間を限られたことで人間が失ってきたこと、見過ごされてきたことを見つめ直す。

 舞台上の俳優はその場で互いに生々しく交流することが大前提です。二木さんと峰﨑さんは明晰にセリフを語りながら、積極的に相手にかかわっていくので、スリリングなやりとりが生まれていました。

 野坂:自分のための言葉になったらアウト。相手に渡す“思い”の方に意識を持って行ってほしい。
 野坂:相手からもらったものを、ちゃんとそのままのサイズで、過小評価せず、(相手に)返す。内容が何であろうと、意味が明確で、存在が確かで、それそのものであること。それが観客をわくわくさせるんだよね。

 野坂さんはカンパニーデラシネラ『椿姫』で「CoRich舞台芸術まつり!2017春」の演技賞を受賞(⇒特別インタビュー)。スズキ拓朗さん率いるダンス・カンパニーCHAiroiPLINにも出演するダンサーでもあります。今作は写実演技のストレートプレイですが、動作も慎重に選択していきます。

 野坂:(演技の)意図は見えたので、動作との調和を取りたい。
 野坂:誰かに、何かを、大切に渡すとしたら。絶対にこぼれないように渡した直後の動作が重要。動き出す時に、観客に与える情報はしぼりたい。

 1950~60年代のアメリカが舞台のお話ですので、登場人物の常識感覚は今の日本とは異なります。現代に上演する意味を問い、それが伝わる作品にするためのディスカッションも行われました。

 野坂:男性のポールが化石のよう(な考えの持ち主)だと伝われば、現代にやる意味が出てくる。男女の対立を描くジェンダー論に終わらず、2人ともが馬鹿なんだということを見せたい(笑)。
 野坂:「排ガス、騒音、汚職」というセリフについて。もっといろんなことを言葉の分母に含めていきたい。「騒音」は車の音だけじゃなく、たとえばツイッターの心無いリプライも含まれるはず。

 舞台にいるのはシルヴィア(二木)とポール(峰﨑)だけ。小さな部屋で起こる小さな騒動が、やがて人間社会の縮図を映し出していきます。そのためにはやはり、俳優がそこで生きることなんですよね。
 
 野坂:チャンスがあれば飛び込んで。モメント(変化の瞬間)を逃さず、2人で楽しんで、やりたいことはやってください。
 野坂:ただ、居ればいい。個々の空間に、ただ居る時間が作れたら、勝ちだし、それが演劇の価値。

 二木さんは1期生、野坂さんと峰﨑さんは7期生で、出演する2人はそれぞれに野坂さんとの共演経験があります(新国立劇場『君が人生の時』&『あわれ彼女は娼婦』、KAAT神奈川芸術劇場『三文オペラ』など)。共通の演劇言語を持つ演劇人が、あ・うんの呼吸で軽々と新しいことにチャレンジしていく様子は痛快でさえありました。期待を高めて初日に伺おうと思います!

 ⇒ご予約はこちらからどうぞ♪

 ■終演後のトーク

 ■演出の野坂弘さんのコメント

 決して戻らない時間の中で、人生の財産とは何なのか?
 日々にスピードが求められる中で、わたしたちは動体視力と反射神経ばかりが過敏になり、向き合う時間の豊かさに鈍感になりがちだと感じます。
 労働/生活が、時に豊かさへの感覚の麻痺を要求する不条理。
 環境/立場を口実に、本当にやりたい事を過小評価する人の弱さ。
 今作『タイピスト』は、そんな人生の矛盾を独特なユーモアと愛をもって描いています。
 2人のタイピストの一生を通して、その問いかけに耳を傾けていただけたら幸いです。

 ■翻訳、ドラマトゥルク、音楽、衣装、宣伝美術

地平線#2『タイピスト』07/12-16演劇フリースペース・サブテレニアン
出演:二木咲子、峰﨑亮介
脚本:マレー・シスガル 翻訳/中西良介 (Triglav) 演出:野坂弘
ドラマトゥルク:那木慧
舞台監督・照明:黒太剛亮(黒猿)
音楽・音響:松田幹
劇中歌:清水ゆり(CHAiroiPLIN)
美術製作:遠藤哲司
衣裳:岩男海史
宣伝美術:荒巻まりの
トレーラー:吉澤慎吾
写真:冨塚直志
【発売日】2018/05/23
前売 一般 3500円
前売 学生 2800円
前売 Uひろむ割(U28)3200円*
<主宰・野坂弘の実年齢以下の方々が対象。同世代や次世代の方々にもっと劇場へ来てもらいたい!という地平線の想いがつまった特別割引!>
・当日は各+500円
https://chiheisen-typists.tumblr.com/
http://stage.corich.jp/stage/92462

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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