岩松了さんが1992年に初演された自身のお芝居を26年振りに演出し、出演もされます。上演時間は約2時間10分。
映画でもよく拝見する俳優が舞台で大暴れ。麻生久美子さんが出演された岩松さんの映画「たみおのしあわせ」↓はとても好きです。
売り上げランキング: 75,687
≪あらすじ≫ 公式サイトより
1992年、市ヶ尾の坂――。
何かが消えていこうとしていた
夏の終わり。
1992年、市ヶ尾の坂で暮らす三人兄弟がいた。
田園都市計画の名の下、無くなることを余儀なくされている兄弟の家。
状況に抗うすべとてなく懸命に生きていこうとする母なき兄弟と、三人と触れ合うことになった母になることが出来ぬ美貌の人妻。
さらにその夫、家政婦などが絡み、一見何でもない日常の中に潜む、謎とエロスが交差する危うい関係が浮かび上がる。
三兄弟はそれぞれに若妻を慕い、お互いをけん制する。
若妻は幼い5歳の男の子を育てており育児のことで、悩んでいるらしい。
若妻の家に雇われている家政婦・安藤も頻繁に彼らの家を訪れ、意味ありげな言動で彼らを惑わす。
そしてついにはミステリアスな「家族合わせ」の像が浮かび上がる、絵合わせのような家族劇。
≪ここまで≫
舞台は和室で下手よりにカウンターと背が高い目の丸イス数脚、上手に長ソファと古くて大きなレコードデッキ。私にとっては懐かしい風景ですが、具象美術でありながら抽象的な匂いがプンプンします。たとえばなぜ畳の上にカウンター!?(笑) 舞台に用意されている不思議要素が常に想像力を刺激してくれます。使用される音楽は選曲も効果もハイセンスだと思いました。
父母を亡くし思い出の品に囲まれて暮らす三兄弟は、近所の美しい人妻カオル(麻生久美子)に夢中。リアリズム演技かと思いきや熱血コントやナンセンスなやりとりが繰り出されて、観客は翻弄されます。大森南朋さんには登場場面から魅了されました。過剰ともいえる役作りは演劇的虚構性を豊かに支えるものでもあると思います。
「市ヶ尾の坂」再演が明日開幕、岩松了「場所と時間を感じられる作品に」 https://t.co/9zhGh9g3rp pic.twitter.com/8BPkvuRFdT
— ステージナタリー (@stage_natalie) 2018年5月16日
【演劇ニュース】大森南朋、麻生久美子、三浦貴大らを迎えて26年ぶり再演 岩松了作・演出『市ヶ尾の坂』明日開幕 https://t.co/Md6ZefauBi pic.twitter.com/FFYmkxPxNA
— シアターガイド (@theaterguide) 2018年5月16日
SPICEさんで6月7日にコミネスで上演の『市ヶ尾の坂』インタビューが掲載されています。https://t.co/te3hZYvxCU
— 白河文化交流館コミネス (@shirakawa_hall) 2018年5月21日
ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。
三兄弟は人妻に母の面影を見て恋慕している様子。包丁や殴り合いなどの岩松作品らしい暴力のメタファーは健在で、笑いながら仲良くふざける場面が続いても、人間に根源的に備わっているのであろう野心や殺意、性欲を含む欲望などが隠喩されていてセクシーです。
次男が「子育てに自信がある人なんてよくない。誰だって自信がないに決まってる。自信がないから(親子で)ともに自信を育てていくんだ」といった主張をしていました。人間関係の核心を突く発言だからこそ、やや不穏当ですっとんきょうな言い方(演技方法)を選んだのではないかと思いました(演出として)。言葉の意味と行動をフィットさせずに、アンバランスにすることでズレを生じさせて、観客に揺さぶりをかけるというか。
三男がカオルの血のつながらない息子のために、あざみ野(たぶん)のミニーハウスというファンシーグッズ屋さんで、息子が好きなドナルドダックのバッヂを買って来ました。ディズニー・グッズはまだ珍しかった時期かしら。私も見つけると嬉しかったんですよね。でも1992年が舞台なので、東京ディズニーランドは既に開園(1983年)していますね。
三男が落ちていたカオルのイヤリングを彼女の鞄に入れたところ、鞄の中にドナルドダックのバッヂを見つけてしまいます。息子に渡したと言ったのは嘘だったんだ…と三男は落胆。ホットミルクを作りに行っていたカオルが戻ってくると、彼女の鞄を開けたことを隠そうして長男は右往左往し、ものすごく変なポーズで鞄を抱いたまま静止するはめに。大笑いしました。こういうドタバタ喜劇を成立させられるのも凄いと思います。
最後の幕でカオルは「ミニーハウスに行った」と言い、駅周辺や店の様子を具体的に語りますが、本当のところはわかりません。小泉今日子さんは岩松作品について「わからないことは色っぽい」と評されたように記憶しています。私も秘密と謎が満ちている舞台は官能的だと思います。
※26年前の初演キャスト(こちらより):竹中直人、荻野目慶子、田口トモロヲ、 片桐はいり、温水洋一、岩松了
『市が尾の坂』、名作という言葉しか見つからない。ささやかな欲望しか持たない人々の右往左往が、なぜこうも一瞬一瞬、エロスを孕んでいくのか。これを書いた時、岩松了は40歳だったという驚き。とりあえず39歳以下の劇作家と劇作家希望者には全員観てほしい。そしてラストの美しさは、演劇史屈指。 pic.twitter.com/L14kK22yZj
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2018年5月17日
市が尾→市ヶ尾。
俳優がまた素晴らしい。大森南朋、舞台の上でこんなに風通しよく自分を開いて立つとは。三浦貴大もそう。大森は三枚目、三浦は二枚目に転びそうな役を、普通にそこにいる品の良さ。三男の森優作は今回の隠し球。岩松戯曲の苛立ちを引き受け、爪を立てながら甘える姿に目が離せない。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2018年5月17日
麻生久美子演じるカオルは、岩松が描く女性の中で最も何もしないヒロインかも。自分に寄せらる好意には充分自覚的なのに、エサひとつ与えないまま透明度を高めていく。麻生がこれを怖いくらいに体現。家政婦役の池津祥子の絶妙な間の悪さも◎。彼女のバカ正直さが、カオルの陰の部分と補完し合う。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2018年5月17日
ありがとうございます! 絶対おすすめです!! https://t.co/AfR6Uf9wTp
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2018年5月17日
市ヶ尾の坂、面白かった。ごくシンプルな会話劇の体の奥の奥で前衛的なことが行われている…全てのドラマは外にあり、男たちは真剣に聞くけど、女の言うことが全部妄想みたい… pic.twitter.com/tlELPKEfph
— 川添史子 (@fumiko_kawazoe) 2018年5月23日
≪東京、宮城、福島、大阪、富山、愛知、静岡≫
【出演】
司(長男、郵便配達員):大森南朋、
朝倉カオル(朝倉の妻。朝倉の前妻の息子[5歳の保育園児童]と暮らす):麻生久美子、
隼人(次男、会社員):三浦貴大、
学(三男、郵便配達員、カオルの息子にドナルドダックのバッヂをプレゼントする):森優作、
安藤(朝倉家の家政婦、朝倉の息子を前妻に引き取った後、青山に移る):池津祥子、
朝倉(画家、カオルと再婚):岩松了
脚本・演出:岩松了
照明:沢田祐二/美術:長田佳代子/音響:高塩顕/衣裳:髙木阿友子/
ヘアメイク:大和田一美(APREA)/演出助手:相田剛志/舞台監督:南部丈/稽古場代役:大友律
制作:近藤南美/制作助手:寺地友子/制作デスク:大島さつき/宣伝:金井智子 高橋郁未(る・ひまわり)
宣伝美術:坂本志保/宣伝写真:三浦憲治/宣伝衣裳:チヨ
宣伝ヘアメイク:大和田一美(APREA)/HPデザイン:斎藤拓
プロデューサー:大矢亜由美 主催・製作:(株)M&Oplays
【発売日】2018/03/10
前売・当日共
6,500円(全席指定・税込)
U-25チケット
3,500円(税込)(ご観劇時25歳以下対象・当日指定席券引換・枚数限定・要身分証明書・チケットぴあにて前売販売のみ取扱)
http://mo-plays.com/ichigao/
http://stage.corich.jp/stage/90858
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガ↓も発行しております♪