SPAC「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」で上演された『民衆の敵』の演出家トーマス・オスターマイアーさんを迎えたトークです。聞き手は萩原健さん。
静岡芸術劇場でもトークがあったんですが、他の演目を観劇中だったので聞けませんでした。東京でチャンスがあってラッキー♪
#ふじのくに⇄せかい演劇祭 で #イプセン 《#民衆の敵》の上演を終えたばかりのトーマス・オスターマイアーが、ゲーテ・インスティトゥート東京にやってきます。
明日5月8日はベルリン・シャウビューネの芸術監督を務める #オスターマイアー が、自身の仕事について語ります。https://t.co/oYKUvwY4di pic.twitter.com/IvWdHMelCb— ゲーテ・インスティトゥート 東京 (@GI_Tokyo) 2018年5月7日
以下、私がメモした内容です。恐れ入りますが正確性は保証できません。
※お褒めの言葉をいただきました!素直に嬉し~~~♪(2018/05/09加筆)
ご本人は「メモ程度」と謙遜されているけどとんでもない。高野さんのレポートには、いつも本当に頭が下がる。 https://t.co/oW7gwlYHaY
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2018年5月8日
禿同。その場にいるよりよくわかります(実体験) RT @k_tokunaga: ご本人は「メモ程度」と謙遜されているけどとんでもない。高野さんのレポートには、いつも本当に頭が下がる。 https://t.co/N9R7B5cAFO
— 伊達なつめ (@NatsumeDate) 2018年5月9日
高野さんありがとうございます、こんなに詳しい内容をすぐ読めるなんて!!一番最後の「(大事なのは)政治なのか、それとも経済なのかということ。そして声が届かないこと、つまり排除された人はどうなるのかということ。」は、作品を語るとともに、まさに日本が受け取るべき言葉でもありますね。 https://t.co/KFGwUebeZe
— Miho Morioka 森岡実穂 (@MoriokaM) 2018年5月8日
『民衆の敵』を観たと答えた人が全体の半数以上でした。萩原さんが「静岡で『民衆の敵』を観た観客の半数は東京の人だろう」ともおっしゃっていました。
観客参加型の討論会の場面がオスターマイアー版『民衆の敵』の見どころです。トークの最初に、インドのデリー、トルコのイスタンブール、韓国のソウルでの様子を映像で紹介してくださいました。↓こちらは静岡公演のトレーラー
トーマス・オスターマイアー:日本では「意見の対立を調整する必要がある」という主張をする人が多かったようだ。ただ、800席×2回の観客が日本人の代表ではない。今回の上演を観たのは、おそらく高学歴で高いチケット代を払える、演劇に興味のある層だけだということを忘れてはいけない。
オスターマイアー:『民衆の敵』は2012年からツアーを続けていて、各地の民主主義の状態を見ることができる。討論会の場面を録画することで、上演地の民主主義や指導者への信頼、政治運動などをドキュメンタリー的に残すことができる。ホームページに各地の動画(15分ほど)があるので見てください。
オスターマイアー:2012年にSPACの宮城聰さんが『民衆の敵』をご覧になった。でも2011年の東日本大震災で原発事故が起こって間もなかったので、まだ日本では上演できないということだった。それが今回、6年経って実現した。※実際は7年です。
福島の原発事故はドイツの政治に大きな影響を与えた。ドイツの政治が脱原発に至ったのは福島を見たから。
萩原健:静岡のトークでオスターマイアーさんがおっしゃっていたことを補足する。ストックマンに投げつけられる水風船の色は黄色と黒だった。それは核のマークを示している。
オスターマイアー:メディアと政治が一緒になって経済的利益を第一に追求するようになることが、今回の『民衆の敵』の第一のテーマ。経済活動が世界にどのような危機をもたらしているかを議論すべき。第二のテーマが環境汚染。環境問題については、政治体制がどう対応し、民衆を守ることが出来るのかを考える必要がある。
オスターマイアー:アルゼンチンでは客席から「舞台上だけでなく客席にも賄賂を受けた人がいる」という告発があった。観客の中に元文化大臣だった人物がいて、その元パートナーの女性が「立ちなさい!」と大声で言ったのだ。ケンカ寸前だった(笑)。
萩原:これまでに国や公的機関などから何らかの圧力はあったか?
オスターマイアー:これまで中国では上演できなかったが、今年9月に北京に呼ばれた。国から招待されて驚いた。中国は検閲もあるのに。中国の仕事のパートナーも驚いていた。
テヘランで『ハムレット』を上演した時は、上演前に全編のビデオを提出し、2度修正を命じられた。そのとおりにしたら上演はできた。その意味で『民衆の敵』は圧力を受けてはいない。この作品を挑発的だと思う国からは招かれない(だけなのだと思う)。今のトルコについては、専門家と相談して、招待を断っている。ドイツのジャーナリストが拘束されたりしているし。イスタンブール公演の時も、後からメディアに攻撃的な記事を書かれた。
萩原:私が関わってたフェスティバル/トーキョーの演目では、東京都から複数回、文句を付けられた。
オスターマイアー:静岡の方が東京よりも自由という意味?
萩原:言い切れないが、個人的にはそう感じる。
オスターマイアー:大変興味深い。
↓ベルリン・シャウビューネのトレーラー
質問:2015年にベルリンで『民衆の敵』を観た。ベルリンの観客の反応は?
オスターマイアー:ベルリンはいつも遅れている。なのにベルリンの観客は自分たちが一番だと思っている。ベルリンの反応が一番つまらない(にっこりと笑顔を浮かべた、冗談めいた発言でした)。2012年初演で、2015年がベルリンでの最後の上演でしょう。もうベルリンでは上演しないから。今週末はシンガポール公演がある。
ベルリンの観客は討論会の場面で、「舞台にいるのは市議会議員じゃない、高給取りの俳優じゃないか!」などと言い出すので、議論ができない。ベルリンではシニカルな、皮肉な反応(が多い)。観客が「演劇ならベルリン」と思っているから、新しいものを見せるのが難しい。たとえば「ブレヒト、ハイナ・ミュラー、カストルフなどを皆観ている私たちが一番だ」という先入観がある。
※ご指摘いただき↑「カステルッチ」を「カストルフ」に変更しました。ありがとうございました。
オスターマイアー:「人々が自分の意見を聴いてくれない、対応してくれない」という不平が多い。ヨーロッパではそれが大きな問題。「自分の声を聴いてくれない」と訴える人は、だんだんラディカルになっていく。
オスターマイアー:ヒットラーがイプセン作『民衆の敵』を好きだったということは、博士論文にも書かれている。真実を分かってもらえないと思っているストックマンは、ヒットラーと似ている。右(派)と左(派)が(過激化して)一緒になったりする。そういうことを語りたい。
質問:戯曲を読んでもストックマンの意見は支離滅裂だし、とても賛成はできない。なのに静岡ではストックマンの意見に賛成の観客が大多数だったから、とても驚いた。反体制であることの意思表示のためだけに手を挙げたのではないか。また、周囲に流された人も多かった気がする。そういう人たちこそファシズムを増長させていくと思う。
オスターマイアー:正しい見方だと思う。討論会で「ストックマンの意見に賛成か?」と聞かれたら、自分もたぶん手を挙げたと思う。でも100%は賛成できない。2度目があれば、たぶん手を挙げないと思う。実は(観客にストックマン賛成が多いことは)望んだ結果でもあった。批判的な人ももちろんいるし、「なぜ自分はあの時、手を挙げたのだろう」「なぜ勢いに乗ってしまったのだろう」と後で反省する人もいるだろう。
オスターマイアー:ポピュリストが力を増している。世界のどこを見ても、できるだけ多くの市民に政治に参加させようとはしていない。金融、資源、デジタル分野についても、民主主義を最小限に抑えて、自分たちだけ成功しようというのが、世界的兆候であるように、私には見える。
質問:静岡で『民衆の敵』を観られたのは1600人だけ。それで世界が変えられると思うほどナイーブではないともおっしゃった。なのに、なぜ2012年からずっと世界でツアーを続けられているのか?これは私の意見だが、自分の思いを聴いてくれないと主張する人こそが、他人の思いを聴いていないと思う。
オスターマイアー:ご質問に一言で答えると、好奇心。
質問:高学歴・高収入で演劇に興味のある人しか来ない“劇場”だけでもいいのか?私はもっといろんな人と出会いたい。
オスターマイアー:(場所が変われば、そして時間が経てば)言葉も価値観も変わっていくもので、(人の縁から)色んなことがつながっていく。(たしかにもっといろんな観客と出会いたいが)演劇が好きな人にも考え直してほしい(と思っているので、演劇好きの観客に向けた上演にも価値がある)。ニューヨークでは(新聞社内の腐敗に)挫折して新聞記者を辞めたという人がいて、(それを聴いた)他の観客が泣いたりしていた。自分自身にとっても観客とのかかわりが重要。観客とのかかわりの中で自分が信じていることを検証している。
質問:静岡で『民衆の敵』を観たが、原作とはかなり変わっていて、何を伝えようとしているのかわからなかった。
オスターマイアー:重要なことは2つ。(大事なのは)政治なのか、それとも経済なのかということ。そして声が届かないこと、つまり排除された人はどうなるのかということ。
立ち会えなかった東京でのトーマス・オスターマイアーのトークのレポート。『民衆の敵』静岡公演を踏まえて。ありがたい。 https://t.co/1H4ctVLB0Q
— narushima yoko (@ynarunarugo) 2018年5月9日
あれだけ情報量膨大かつあちこちに飛ぶ話をよくまとめられるものだと感心します( ゚д゚)
— ぼのぼの (@masato009) 2018年5月8日
静岡ではご存知の様に10分程度で、作品の内容については紹介でしたので、今回のトークのレポート凄く助かりました。「静岡ではストックマンの意見に賛成の観客が大多数だったからとても驚いた」との質問者の方のコメントや質疑応答の内容、興味深く拝読させていただきました。ありがとうございました。
— papamomo老年団サポートセンター (@papamomo2008) 2018年5月9日
私が驚いたのは、インドやトルコも似たようなもので、ストックマンの自己陶酔演説に、勝手に自分たちの鬱憤を重ねる人が多いことでした。ポピュリズムや衆愚政治の芽は、こういうところにあるのかとよく分かる光景で、鳥肌が立ちました。
— ぼのぼの (@masato009) 2018年5月9日
papamomoさん、ありがとうございました。たった10分だったとは知らず…。昨日があって良かったです。
ぼのぼのさん、私も驚きました。各国は静岡よりもストックマンに積極的に賛成の人が多い印象でした。とっさに考えて行動することを、普段から訓練しないといけないかな…と思いました。— 高野しのぶ(しのぶの演劇レビュー) (@shinorev) 2018年5月9日
ハッとした言葉。「オスターマイアー:ポピュリストが力を増している。世界のどこを見ても、できるだけ多くの市民に政治に参加させようとはしていない。金融、資源、デジタル分野についても、民主主義を最小限に抑えて、自分たちだけ成功しようというのが、世界的兆候であるように、私には見える。」 https://t.co/Dn02OMeXb3
— えむきゃっと (@mcat_tky) 2018年5月8日
すみません。日本だけでなくもっと広い現象なんだ、ドイツまで!という気づきに心を動かされて引用してしまいました。いただいた返信もRTしますね。
いつもツイートやメルマガを興味深く読ませていただいてます。ありがとうございます。ここ数年、演劇に興味を持ち始めたのでとても勉強になってます。— えむきゃっと (@mcat_tky) 2018年5月8日
シンガポールのEsplanadeで「民衆の敵」観劇。さすが東南アジア、あのシーンも盛り上がってました。マイクも渡されずに意見を叫ぶ人も。資本主義を絵に描いた様な国で観ると面白いなぁ。チケット超高いし、6700円。 pic.twitter.com/7qwptQtP6t
— Junnosuke Tada @SIN (@GKTJ) 2018年5月11日
今日のミーティングで、日本、インドネシア、マレーシアから参加する俳優を演出家3人でそれぞれプロフィールや映像で紹介し合ったんだけど、夜「民衆の敵」観に行って、若者がマイクで喋ってるなと思ったら、数時間前に写真で見た今回出演してくれるマレーシアの俳優だった。
— Junnosuke Tada @SIN (@GKTJ) 2018年5月11日
2018/05/08 (火)20:00~22:00 ※実際は21:45ごろに終了
ゲスト:トーマス・オスターマイアー(Thomas Ostermeier)
司会:萩原健氏(明治大学教授 演劇学)
日独逐次通訳付き
入場無料、事前にお申し込みください。
https://www.goethe.de/ins/jp/ja/sta/tok/ver.cfm?fuseaction=events.detail&event_id=21262547
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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