福島県立相馬農業高等学校飯舘校演劇部『-サテライト仮想劇-いつか、その日に、』02/11-12アトリエ春風舎

 2017年の高校演劇全国大会に出場した作品です。「第63回全国高等学校演劇大会(宮城大会)にて優良賞、および舞台美術賞を受賞」とのこと。上演時間は約1時間。

 素晴らしい公演でした。東京公演を実現してくださった方々に感謝申し上げます。昨年は福島県立ふたば未来学園高校演劇部の『数直線』を観る機会をいただきました。こまばアゴラ劇場の支援会員になっていて本当に良かったです。

 高校演劇は出演者もスタッフも高校生はノーギャラで、入場無料であることが多いです。“大人の事情”なしに、素直に言いたいことを言えるメディアであると考えると、ジャーナリズムとしての役割も担っているのでは…と思いました。

≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
原発事故による避難で福島市にサテライトを置く相馬農業高校飯舘校は、現在唯一残っているサテライト校。設置から6年目を迎えた同校には現在、飯舘村出身の生徒はほとんどおらず、大半は周辺の福島市の生徒だ。
本作は、そんな飯舘校が飯舘村に帰る日を「仮想」した。
反発するハルカ、 淡々と従うサトル、アルトリコーダーを吹き続けるユキ、そんな3人を見守るイクミ先生。翌々日に迫る校舎の閉鎖を前に、それぞれの想いは交錯する。
≪ここまで≫

 東京電力福島第一原発の事故のため、飯舘村の相馬農業高校飯舘校は、福島市内の福島明成高校内の敷地に「サテライト校」を置くことになりました。避難のために学校が移転したんですね。「学校がいつか故郷に帰るかもしれない」前提で、校舎はプレハブですから、「仮設」であることが最初から表明された高校です。終演後のトークによると校舎は小さく、教室は5つしかなくて、その教室も一般的なものより小さいそうです。
 
 床に白いテープを貼って作った四角い演技スペースに椅子や机などが置かれており、どうやら学校の教室のようです。四隅に小さな照明が光っています。衛星(サテライト)の人工的な光、宇宙に輝く星のイメージは、冒頭から提示されていました。

 「誰のせいでもないよ」と言い合う場面があり、それは違う…と思いました。原発事故のせいだし、福島県に原発があったせいだし、その電力を使っていたのは東京に住む私です。
 東北の方が作る演劇を観る度に、人がとても優しいと思います。その優しさに甘えて、つけこんでいないかと、自分に問う機会になりました。
 
 ↓左は公演パンフレット、右は飯舘村全村避難4年半の歩みを記録した「までいの村に陽はまた昇る」です。

20180212_Iitate_satelite

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 定員割れが続いていたこともあり、中学校で不登校だった生徒(ハルカとサトル)も入学できたというエピソードがありました。サテライト校がある種の“受け皿”になるなんて、きっと開校時は想定していなかったのではないでしょうか。冒頭のセリフにもありました通り、6年という月日は長いですね。

 ハルカもサトルも高校にはちゃんと通学して、2年生の10月には生徒会長、副会長にも選ばれた。なのに学校ごと飯舘村に戻ることが決定し、2人とも飯舘村には通えないという理由で役職を辞退した…という展開でした。目の前にある明成高校に転入できるわけではなく、転校を選んだ生徒たちの進路は定時制高校と通信制高校でした。

 サトルはサテライト校があったおかげで2年間の高校生活をがんばれた、学校(=校舎)に感謝していると言います。サトルの優しさに胸が詰まりました。
 「中庭に教科書などを埋めて、学校のモニュメントにする」と言い、それを実行したハルカが、今度は机と椅子を組み立てて、校舎に見立てたオブジェ(=モニュメント)を作りました。その机と椅子にも小さな照明器具が付けられていて、暗い中で光ります。いつか、なくなってしまう学校が、宇宙に飛び立って星(=衛星)になったようでした。

 私は愛校心があまりなく、故郷が大好きでもないタイプですが、高校生にとって学校生活がいかに大切か、人生にどれほど大きな影響を与えるかを、今一度、想像し直しました。

≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演:オノマリコ、西田直人(ペンネーム:矢野青史)、出演者4名、音響

 顧問の先生の『いつか、その日に、』の構想(第一稿?)が生まれたのは、今から約1年10か月前。当時と今を振り返るトークでした。「演劇をやったおかげで勇気を出して人とコミュニケーションできるようになった」「努力は報われること知った」という、出演者の男性の言葉に感動しました。

※第63回全国高等学校演劇大会(宮城大会)にて優良賞、および舞台美術賞を受賞した作品。待望の東京公演。
出演:福島県立相馬農業高校飯舘校演劇部(ハルカ:菅野千那 イクミ先生:髙橋夏海 ユキ:菅野優歩 サトル:後藤滝翔)
脚本:矢野青史
演出:西田直人(福島県立相馬農業高等学校飯舘校教諭)
音響:半澤楓
照明:佐藤佳代子(福島県立相馬農業高等学校飯舘校教諭)
舞台監督協力:伊藤毅(青年団)
照明協力:井坂浩(青年団)
音響協力:櫻内憧海(無隣館) 
記録映像:濱中峻(青年団)
制作協力:オノマリコ(趣向)・太田裕子(青年団)・井坂浩
【発売日】2018/01/08
前売・予約・当日共 一般 1,500円 U-26 500円
*日時指定・全席自由・整理番号付
*未就学児童はご入場頂けません。
http://www.komaba-agora.com/play/6703
http://stage.corich.jp/stage/88478

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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