トリコ・Aプロデュース『私の家族』01/18-21シアター風姿花伝

 トリコ・Aは京都が拠点で、山口茜さんの作品を上演する団体です。山口さんはよく、カンパニーデラシネラの作品のテキストを手掛けられています。

 ドメスティック・バイオレンス(DV)がいかようにして成り立ち、存続しうるのか。その仕組みを生々しく見せつけてくださったように思います。上演時間は約1時間45分。

 ロビーで販売中のパンフレット(300円)に、題材となった事件についての解説があります。※俳優の配役表も掲載して欲しかったです。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
カヤは5年前まで頻繁に通っていた喫茶店に顔を出す。ママが「買い物に行く」と言ったきり失踪し、マスターが落ち込んでいるらしい。当時の常連客仲間であるクミに誘われ、喫茶店に訪れたカヤは、そこで顔見知りの常連客と再会する。しかしクミはなかなか現れず、マスターも出てこない。やっと出てきたクミは、ハダシだった。
≪ここまで≫

 “おかしな状況”がごく当たり前のように、淡々と描かれていきます。ストイックに徹した会話劇です。劇中で“事件”と呼ぶべき出来事は起こりますが、人間同士の間に起こることは、普通の生活でもあることだと思いました。私の学校でも、家庭でも、仕事場でも、今、起こっていることだと思います。

 「自分を省みずに誰かのために生きること」は、誰のことも幸せにしないなぁとつくづく思います。極端な自己愛を目指せば、自ずと他者への愛に向かうんじゃないか…などと楽観的なことを考えたりもしました。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 題材となったのは尼崎事件です。終演後に案内がありました。

尼崎事件 支配・服従の心理分析
村山満明 大倉得史 稲葉光行
現代人文社
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 マスター(藤原大介)は人懐っこくて野蛮な大阪弁話者で、幼稚な厚顔と責任逃れの怒号と暴力は、まるで橋下徹氏!(笑) 虫唾が走りました(いい意味です)。

 全権を握るお母さん(天明留理子)も結局「お母さんも私のことを好きじゃなかった」と漏らします。やはり「愛されたい」病…。他者に依存しているがゆえの支配と暴力なんでしょうね。これも幼稚だ…。

 一番若い男性(昇良樹)が警察に自首したことで、偽の家族の暮らしはようやく崩壊します。カヤ(長尾純子)と当たり屋のおじさん(中田春介)が現場で再会し、「一緒に暮らす」という案が出ます。おじさんは「恋愛や結婚目当てではなく、家に帰って話をする相手がいないと生きていけないだろう」という主旨でした。カヤは最初は断りますが、すぐに同意して、「(私のことを好きと)言ってください。好きって言ってくれる人がいないと私、生きていけない」と言い、閉幕。音響は不穏で、ハッピーエンドにはしていませんでした。結局、やっぱり、依存状態から抜け出られない。根本的な解決にはならない。気づいてさえいない。突き放したエンディングがとても良かったと思います。

 赤、黄、青などのカラフルな家具たちが、家族の崩壊とともにバラバラに解体されました。ほぞの状態で組まれていたのでしょうか。椅子の中から小さな椅子がいくつも出てきたように見え、内容とフィットしていて良かったです。

 上記以外にパンフレットで紹介されていた参考文献はこちらです。

服従の心理 (河出文庫)
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自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)
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つながるカフェ:コミュニティの〈場〉をつくる方法
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出演:天明留理子(お母さん)、中田春介(当たり屋)、吉岡あきこ(クミ)、藤原大介(マスター)、長尾純子(カヤ)、昇良樹(当たり屋の息子)
※藤野節子が降板し、代役は天明瑠理子。
脚本・演出:山口茜
舞台監督:浜村修司 照明:池辺茜 音響:小早川保隆 衣装、メイク:南野詩恵 宣伝美術・舞台写真、記録動画:堀川高志 宣伝写真・舞台美術協力:松本成弘 ドラマツルグ:山納洋 演出助手:朴建雄・大貫はなこ 票券協力:梶川貴弘 助成:公益財団法人セゾン文化財団、芸術文化振興基金 企画・製作:トリコ・Aプロデュース
【発売日】2017/11/01
当日精算予約 3000円
初日割*要予約 2000円
当日券 3500円
U25*1ステージ10枚まで、受付時要証明書 1500円
http://toriko-a.sakura.ne.jp/wp01/?page_id=2070
http://stage.corich.jp/stage/86812

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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