水戸芸術館ACM劇場プロデュース『斜交~昭和40年のクロスロード~』12/08-10草月ホール

 古川健さん(劇団チョコレートケーキ)の新作を高橋正徳さん(文学座)が演出する、水戸芸術館ACM劇場のプロデュース公演です。上演時間は約2時間45分(途中休憩15分を含む)。

 昭和38年(1963年)に発生した「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐事件」が題材の会話劇です。公式サイトがとても充実しています。ありがたいですね。

≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
「取調室、最後の十日間」
東京オリンピックの興奮が冷めやらぬ昭和40年。日本中が注目する誘拐事件の容疑者の取り調べが始まった。刑事に許された期限は、十日間。三度目の取り調べとなるこの機会を逃したら、もうその男を追及することはできない。警視庁がメンツをかけて送り出したこの刑事の登場に、取調室は最後の格闘の場となった。
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戦後最大の誘拐事件と言われる「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐事件」(昭和38年発生)。容疑者拘留の最後の日、劇的な展開で解決に至ったこの事件は、担当刑事その人をも有名にしました。しかし、刑事たちの目の前にいた容疑者は、オリンピックの輝かしい波に乗れなかった不幸な生い立ちの男であり、はからずも刑事たちは時代の激しい光と影を見ることになります。 この戦後最大の誘拐事件をモチーフに新たな物語として、劇団チョコレートケーキの古川健と文学座の高橋正徳のフレッシュなコンビが、今の時代にも通底する男たちの生き方をあぶり出します。
≪ここまで≫

 舞台は事件発生から約2年後の昭和40年(1965年)の夏です。終戦から20年後であり、東京オリンピック(1964年)から1年後。そして現在の2017年から数えると、52年前なんですね。劇作家、演出家と同様、私もまだ生まれておらず、この時期のことは幼少期にうっすらと残り香を感じていた…という程度です。

 刑事が容疑者に罵声を放ち、暴力を振るうのは、観ていて辛かったです。昔の刑事もののテレビドラマでもよくある光景だったと思うんですが(今もそうかもしれませんが)、私個人の感覚も、時代も変わったのだと思います。警察における“取り調べの可視化”などは現在も問題になっています。このお芝居で描かれた事件は該当しませんが、自白の強要によって冤罪が生まれることがよくわかりました。

 ここからネタバレします。

 舞台奥に高い壁がそびえており、真ん中から上下(かみしも)に開いて、取り調べ室などへの出入り口になります。開幕時と休憩後に、当時の風景写真が壁に映写されました。
 容疑者と2人の刑事、そしてその上司の刑事部長(福士惠二)の他、容疑者の母(五味多恵子)と容疑者の元恋人(渋谷はるか)が回想場面に登場します。休憩を除き2時間半という上演時間でしたが、もっと削れるんじゃないかと思いました。紋切り型に聞こえるセリフが気になったからかもしれません。俳優の舞台上での存在の仕方が固い感じがました。

 取り調べの10日間を描くので、舞台奥の壁に「一日目」「二日目」~という文字が、年月日(昭和〇年〇月〇日)とともに大きく映写されます(日数は中央に横書き、年月日は上手側に縦書き)。取り調べ終了後に「容疑者の声を録音する」という名目で追加の取り調べが行われたため、「十日目」の次の「最後の日」が文字通り最後になります。
 「一日目」と「十日目」はあった方がわかりやすいと思いましたが、「二日目」「三日目」「四日目」などはなくても良かったんじゃないかと思いました。観客はチラシなどで「取り調べは10日間だった」と知っているので(そういう観客は少なくないと思います)、「五日目」、「六日目」と表示されると「まだクライマックスにはならない」と予想がついてしまうんですよね。「一日目」から一気に「七日目」に飛ぶなどして、観客に時間の具体的経過を知らせないのもありじゃないかと思います。

 三塚刑事(近藤芳正)が自分の足で調べた事実により、木原容疑者(筑波竜一)の事件発生時のアリバイにいくつもの瑕疵があったことが判明します。なぜ、彼より前に取り調べをしていた刑事が気づけなかったのか。それはその刑事が「身体障碍者(片足が不自由)の木原はシロだ(この事件の犯人ではない)」と思い込んでいたからだと、三塚は分析します。三塚はというと、「犯人は木原である」と固く信じて調査に当たっていました。そして木原を自白まで追い込んだ…。探し物に似てますよね。ないと思っていたら見つからないけれど、あると思って探すと出てくる(笑)。

 若手刑事(中島歩)は三塚の取り調べ方法に対して、「(容疑者を殴ったりする)昔のやり方だと時代に取り残される」などと(三塚にとっては生意気な)意見を言います。その通りだと思うと同時に、三塚のスタンスも重要だと思わざるを得ないんですよね。「木原はクロだ」と決めて動くことで見つかったことが多々あるわけですから。自分の信念を持ち、それに基づいて行動することと、他者の意見に耳を傾け、常に状況と自分自身を俯瞰して、柔軟であること。何事においても、その両方をバランスよくやり続けることが大事なんだろうなと思いました。

 プロローグとエピローグは、職を退いた三塚が木原の墓参りをする場面でした。取り調べ室で木原が使う木製の椅子を床に横たえて、彼の墓石に見立てるのがとても良かったです。

≪茨城、東京≫
【出演】
腕利きベテラン刑事・三塚久兵衛:近藤芳正
幼児誘拐事件容疑者・木原守:筑波竜一
相棒の刑事:中島歩
刑事部長:福士惠二
容疑者の母:五味多恵子
容疑者の恋人:渋谷はるか
脚本:古川健(劇団チョコレートケーキ)
演出:高橋正徳(文学座)
美術 : 乘峯雅寛
照明 : 沢田祐二
衣裳 : 宮本宣子
音響 : 原島正治
映像 : 浦島啓
演出助手 : 石田恭子
舞台監督 : 増田裕幸
制作協力 : ミーアンドハーコーポレーション
宣伝 : 吉田プロモーション
協力 : サンライズプロモーション東京
宣伝美術 : BOUVE DESIGN STUDIO
宣伝写真 : 大村悠一郎
WEBデザイン: 平野敏樹 (Graphic design AQ) / 笹原宏之 (NOS creative)
企画制作:水戸芸術館ACM劇場 
芸術監督:井上桂
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
助成:平成29年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業 <水戸公演>
指定席:5,000円
U-25(25歳以下対象):2,500円
(全席指定/税込) ※未就学児入場不可
http://shakkou310.com/
http://stage.corich.jp/stage/86123

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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