愛知県の穂の国とよはし芸術劇場PLATが開館5年記念事業として、桑原裕子さん作・演出の新作舞台『荒れ野』を三都市で上演します。平田満さんと井上加奈子さんが主宰するアル☆カンパニーとの共同企画です。初日まで後2週間という時期の東京の稽古場に伺いました。
穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース『荒れ野』(作・演出:桑原裕子)の稽古場に伺いました。行き着いた“吹き溜まり”でギリギリの本音が飛び交う現代の群像劇。とんでもなく可笑しくて笑いっぱなしでした!3都市ツアー:豊橋11/30-12/6、北九州12/9-10、東京12/14-22 https://t.co/VVM2CvEHIx pic.twitter.com/wKJm6BY3S0
— 高野しのぶ(しのぶの演劇レビュー) (@shinorev) 2017年11月15日
●穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース『荒れ野』
出演:平田満、井上加奈子、増子倭文江、中尾諭介、多田香織、小林勝也
作・演出:桑原裕子
【豊橋】:11月30日~12月6日(会場:穂の国とよはし芸術劇場PLAT・アートスペース)
【北九州】:12月9日~10日(会場:北九州芸術劇場・小劇場)
【東京】:12月14日~22日(会場:SPACE 雑遊)
≪あらすじ≫
ある地方都市の古びた団地の一室。12月の寒い夜。中年女性の路子(井上加奈子)、老年の広満(小林勝也)、若者のケン一(中尾諭介)が肩を寄せ合っている。遠くで爆発音が鳴った。火事が広がっているらしい。突然、路子を頼って窪居哲夫(平田満)とその妻の藍子(増子倭文江)、娘の有季(多田香織)が避難してきた。窪居たちは昔、同じ団地で暮らしていたのだ。
≪ここまで≫
窓があって明るく、開放的な稽古場です。稽古前の準備運動はラジオ体操(第二)でした。出演者の平田さん、井上さん、増子さんが元気に体を動かし、ジャンプ! ラジオ体操は大人になってやってみると、結構ハードなんですよね。
家具やお布団などがちゃんと揃った空間で、第三場を繰り返す稽古を開始。チラシや台本から受け取った印象とは、全然違う空気が立ち上がっていました! 恥ずかしながら、ここまで大爆笑できるものとは予想しておらず…!!
主婦の藍子(増子)は夫の哲夫(平田)と独身の路子(井上)の不倫を疑っており、二人に直接そのことを問いただそうとします。哲夫も路子も即座に否定するのですが、藍子は追求を止めません。避難させてもらっている身分で、その家の主を責めるという理不尽な状況です(笑)。三人それぞれの性格や過去が暴かれていく様子を、部外者の広満(小林)がこっそりと見守って(覗いて?)います。
笑ったり怒ったり、甘えたり暴れたりと、瞬時に変化し続ける増子さんがめちゃくちゃ可愛い!! 増子さんは読売演劇大賞・優秀女優賞を受賞された『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』(⇒稽古場レポート)の母親役でもコミカルな演技が光っていましたが、今回はもう、爆発につぐ爆発!
平田さんと井上さんはアル☆カンパニーで幾多のプロデュース公演を行ってこられたご夫婦です(過去レビュー⇒1、2、3、4、5)。ごく平凡な短い会話から、親密さを超えたエロティックなムードも漂います。こりゃ不倫してると疑われてもしょうがない!(笑) そんな敢えて作ったのであろうムードが、とても自然で風通しがいいんです。観ている私の体が緩んでいくような心地よさがありました。
そして、広満役の小林勝也さんが静かに入れるツッコミが、あまりに絶妙! 私はお腹を抱えるほど笑ってしまい、一緒に演技をしてる俳優さんたちが吹き出し笑いをせずにいられるのが不思議なほどでした。
一旦場面を止め、演出席の桑原さんが演技について細かい指摘を始めます。たとえば、相手に向かって直接言うのか、反芻して自分に問うのか、広く世間に向かってつぶやくのか。セリフを向ける対象が変われば、意味も空気も一変します。もちろん俳優の意識の状態も大いに影響します。
桑原:セリフが慣れちゃってる。鮮度のある驚きをキープしてください。慣れないで。
桑原:面白くなったんですが、緊張が弛緩しちゃった。緊張は残した方がいい。
桑原さんはひとつのことを伝えるために、さまざまな言葉や言い回しを探し、俳優に根気よくかかわっていきます。場面全体の意味や会話の目的、行動や発言の根拠や動機を、しっかりと手渡していくようでした。その結果、可笑しい場面がさらに笑えるものになり、静寂が際立ち、瞬間的な変化の重みが増していきます。
『荒れ野』の登場人物たちの行動、反応は、ある意味、常軌を逸したものが多く(笑)、日常の常識や生理感覚をそのまま適用できるわけではありません。攻撃側と防備側が頻繁に入れ替わってクルクルと立場が逆転するし、感情の変化も極端です。
桑原:藍子はすごく短い間に変わっていくので、整合性は取れなくていい。(イメージとしては)分裂症とか多重人格とか。とっ散らかった人。舌の根も乾かぬうちに…というタイプ(笑)。
演劇という表現が奥深いのは、演じている俳優の気持ちや論理が、そのまま観客に伝わるわけではないところ。感情、しぐさ等と、セリフとの関係性を探っていきます。
桑原:言ってる内容に邪気があるから、(俳優の)気持ちには邪気がなくていい。
桑原:状況はシリアスだけど、(役の気持ちが深刻か呑気か)どっちかわからない時点で止めるように。まとまりがつかない方がいい。
俳優でもある桑原さんは心情の説明が丁寧で、俳優の迷いを払しょくする的確なイメージも与えていきます。理論、感情、身体がつながった状態で言葉を尽くすから、俳優がストンと納得できるのではないでしょうか。細かい指摘を受けて、次に同じ場面を演じた時に、すっかり変わっている俳優も凄い!
※穂の国とよはし芸術劇場PLATの芸術文化アドバイザーは来年度から桑原さんに引き継がれます。今回は平田さんから桑原さんにバトンタッチする公演になるんですね。
【速報です。】来年度から、当劇場の芸術文化アドバイザーは、平田満さんから桑原裕子さんになります。本日の各種新聞記者会見の模様が掲載されております。
とりいそぎ、お知らせまで。今後ともよろしくお願い致します。
#平田満 #桑原裕子 #劇場 #news pic.twitter.com/mwNseeSdob— 穂の国とよはし芸術劇場PLAT (@Plat_Toyohashi) 2017年10月3日
後半はケン一(中尾諭介)と有季(多田香織)の場面を集中的に稽古するということで、第三場のメンバーは退出。平田さん、井上さん、増子さんに別室でお話を伺いました。
●桑原さんのご指摘はとっても細かいですね。演技を止めるや否やすぐにダメ出しを始めて、終わった途端にサっと演技開始。休憩を取るまでノンストップという印象でした。
増子:ええ…千本ノックです(笑)。
●桑原さんは鶴屋南北戯曲賞を受賞した劇作家で、『荒れ野』の作者でもあります。作・演出家がいる稽古場は、古典や海外戯曲のそれとは大きく違いますよね。
増子:そうなんですよ、「私はこう書きました」と言われるわけだから、すごく素直に聞いちゃう。桑原さんは私が考えつかないことを言うから面白い。すごく新鮮です。
●感情の起伏が激しくて、しかも瞬間的な変化が起こり続けます。同時にやるタスクも多いですよね。
平田:「こんなのいっぺんにできるの?」と思う時がありますね。でもその流れに乗ると、お芝居のダイナミックさが生まれて、短い間にどんどんと色が変わっていく。ルービックキューブのように。
井上:もうジェットコースターみたい(笑)。
平田:キャッチボールというより、俳優6人のラリー。
増子:キャッチは無理!ワンタッチのみ!
平田:今日やった三場よりも一場、二場の方が激しいんですよ。もっとドタバタ(笑)。
増子:二場は○○(←ネタバレなので伏せます)をやりながらだし…もー大変!
【プラットニュース最新号 配布開始】INTERVIEW:1 桑原裕子・平田満 荒れ野「呼吸のようなやり取りをお見せしたい。」INTERVIEW:2 岡田利規「20年大事にしてきたこと」チェルフィッチュ 三月の5日間リクリエーションほか #情報誌 pic.twitter.com/aelPafoedP
— 穂の国とよはし芸術劇場PLAT (@Plat_Toyohashi) 2017年10月18日
●俳優ならではの演出、戯曲ではないかという気がしたのですが。
井上:セリフを自分で声に出して書いてるんじゃないかしら。本人に聞いたことはないけど。
増子:そんな気がするよね。
平田:肉声ですよね。一見、理屈の部分がほとんどないというか。事件がその場、その場の現象として現れる。この人物は何を考えてこれを言ってるんだろう、この展開はなぜ…と思うことが多いんですが、やってみると、他の人物との関係でわかってくる。
●ある追い詰められた状況をしつらえ、現代社会の数々の問題をあぶり出す巧みな群像劇だと思いました。
平田:桑原さんは細かいところを呻吟しながら書かれている。ちいさな空間のちょっとおかしな茶の間劇に見えて、人間や愛の不確かさを問う、正解を求めない深い心理劇です。その高い到達点目指して稽古中です。ぜひ観に来てください!
【メッセージfrom『荒れ野』①】作・演出の桑原裕子さん。https://t.co/dMbhvFZLkr #KAKUTA #桑原裕子
— 穂の国とよはし芸術劇場PLAT (@Plat_Toyohashi) 2017年11月22日
※稽古場写真は別日に撮影されたものです。提供:穂の国とよはし芸術劇場PLAT
出演:平田満(アル☆カンパニー)、井上加奈子(アル☆カンパニー)、増子倭文江(青年座)、中尾諭介(In the Soup)、多田香織(KAKUTA)、小林勝也(文学座)
作・演出:桑原裕子(KAKUTA)
美術:田中敏恵
照明:相良浩司(MGS)
音響:藤田赤目
衣裳:石川俊一
舞台監督:金安凌平
演出助手:友佳
宣伝写真:伊藤華織
芸術文化プロデューサー:矢作勝義
制作:大橋玲 上栗陽子
前売販売:2017年09月23日より
日時指定・全席自由・整理番号付・税込
一般:4,000円
U24(24歳以下):2,000円
高校生以下:1,000円
※U24、高校生以下は入場時本人確認書類要提示
※未就学児のご入場がご遠慮いただきます。
【主催】公益財団法人豊橋文化振興財団
【企画制作】穂の国とよはし芸術劇場PLAT、アル☆カンパニー
平成29年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業
豊橋公演
https://www.toyohashi-at.jp/event/performance.php?id=390
北九州公演
http://q-geki.jp/events/2017/areno/
東京公演
https://www.toyohashi-at.jp/event/performance.php?id=448
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガ↓も発行しております♪