名取事務所による現代カナダ演劇・最新作連続公演です。前回の『エレファント・ソング』は拝見しました。『記念碑』『ベルリンの東』は見逃しました。『ベルリンの東』は来週再演があります。
“東欧の民族抗争”を題材にした劇作家ニコラス・ビヨンの推理劇。1時間半スリルが持続!面白い!怖い!お薦めです!
≪あらすじ≫ 公式サイトより
クリスマス前夜。高級将校の軍服にサンタ帽という異様ないでたちの老人が、何者かの手で(トロントとおぼしき町の)警察署に運び込まれ、置き去りにされる。老人は消耗していて意識朦朧。その上英語を解さず、話せるのは東欧の地方語だけのようだ。警部、弁護士、通訳の三人で、その身元を割り出そうと躍起になった結果判明したのは・・・・・東欧に吹き荒れた民族抗争に絡む、身の毛もよだつような恐ろしい事実だった。
≪ここまで≫
ここからネタバレします。
中央に小さなクリスマス・ツリーが飾られている事務室。どうやら警察署内の部屋らしく、上手にデスクと壁、下手奥に部屋の入り口。1人を除き、登場人物が使う言語は英語であるという設定です。※日本語上演です。
・詳しい目のあらすじ ※セリフは不正確です。特に固有名詞には自信がありません。
土砂降りのクリスマス・イヴの深夜3時に、知的所有権専門の弁護士であるハミルトン・バーンズ(佐川和正)は、カナダのトロントにある警察署に出向いた。ラム警部(斉藤淳)によると、目の前にいる軍服に赤いサンタ帽という奇妙ないでたちの老人(髙山春夫)は、2人の若者によって警察に連れて来られた。老人の首に掛かっていた肉を吊るす金具の先端に、ハミルトンの名刺が刺さっていたのだ。名刺には「この男を逮捕しろ」というメッセージが書かれていた。老人はポロリと言葉を話すのだが、ラム警部には何の言語だかわからない。ハミルトンは東欧のラヴィニアの言語だと気づいた、ラヴィニア出身の同僚がいるからだ。
老人は無口で表情も虚ろで、もしかしたら精神を病んでいるかもしれない。ラム警部に「貴方の名刺だけが手がかりだ、通訳が到着するまで待ってくれ」と説得され、ハミンルトンはラム警部の娘である7歳のエレンと、13歳のアイリスの自慢話を聞かされることになった。サンタクロースを待っていて寝ようとしないエレンのために、電話口でサンタの真似ごとまでするはめに。ラム警部は娘がレイプにあうことを恐れている。それが娘を持つ父親の心だと子供のいないハミルトンに説く。ラム警部はアイスホッケーと格闘技(UFCという競技)が好きだが、イングランドのバーミンガム出身のハミルトンはサッカーファンで、暴力的なことを嫌う平和主義者らしい。死刑制度にも反対で、ラム警部とはそりが合わない。
ラム警部がコーヒーを取りに行ったりする間、ハミルトンと二人きりになると、老人が饒舌になる。ハミンルトンは「もしかしたらこの老人はあの人なのかも…だとしたら生きているはずはないのだが」と独り言を言う。
老人は靴ひもをほどこうとするが、うまくできないらしい。ラム警部とハミンルトンが靴を脱がせてみると、なんと両足の指の爪がはがされて血まみれだった。拷問されたのだろう。クリスマス・イヴにとんでもない事件に巻き込まれて、ラム警部はうんざりしつつも、急いで救急病院に電話する。
ハミンルトンの車に老人を載せて救急病院に運ぼうとしたところ、雨に濡れた通訳のエレーナ(森尾舞)が登場。30代ぐらいに見える彼女の本職は看護師で、当直明けにボランティアとしてやってきたという。エレーナは手早く老人の足の手当てをして、今は動かさない方がいいと助言する。ラム警部は老人が何者なのかを調べるため、早速エレーナに通訳を頼む。エレーナ曰くラヴィニアには共産党一党独裁の時代があり、老人は警察に不信感を持っているのかもしれないとのこと。
徐々にわかってきたのは、老人が着ている軍服は“スーズリ”軍のもので、勲章を見ると地位は大将クラスだ。エレーナは「ナチスの軍服を着て歩くよりも危険」だという。22年前のラヴィニアでは民族紛争と大量虐殺があったのだ。軍服の胸を開くとケルベロス(3つ頭の野獣)の入れ墨があり、老人が“スーズリ”であることの決定打となった。そして戦争時代の“スーズリ”の高官であった可能性が高い。エレーナが“スーズリ”に弾圧された“デースニ”であるとわかると、老人はエレーナに罵声を放つようになった。ハミンルトンは弁護士としてリベラルな立場を貫こうとするが、老人をかばっている風にも見えてくる。
エレーナによると、ラヴィニアでの和平交渉で“スーズリ”の指導者15人(?)を戦争犯罪人として裁判で裁くことになっていたが、彼らは“西側”と取引をして、その15人を国外に逃がした。今は国際刑事警察機構インターポールが彼らの行方を追っている。極悪人とされる彼らにはあだ名がついていて、たとえば“屠殺人・ブッチャー”というのもあった。そこでラム警部がひらめいた。老人の首には肉を吊るす金具が掛けられていたのだ。グーグルで検索してみると、確かに“屠殺人・ブッチャー”というあだ名のヨセフ・ズブリーロヴォという軍人がいた。だが写真はなんと、老人ではなくハミルトンにそっくりなのだ。
ハミルトンは「この老人は自分の父親かもしれない」と口を開き始めた。両親はラヴィニア人だが自分は幼い頃に養子に出され、バーミンガムの養父に育てられた。父は死んだと聞かされていたという。エレーナが「ヨセフ・ズブリーロヴォ(=老人)の子供は2人とも死んだはずだ」と言うと、ハミルトンは「それは母と妹で、他の死体を息子だとして、自分だけこっそりとイギリスに逃がされた」と答えた。25年前の出来事だ。ハミルトンは生き残った“スーズリ”をリンチして容赦なく殺す“フュリオージュ”という、復讐に取りつかれた集団に捕まるかもしれないから、老人をどこかに移動させるべきだと主張する。エレーナは反対した。なぜなら彼女こそが“フュリオージュ”の一員だったからだ。
エレーナはラム警部にアイリス、エレン、そして妻のキャロルの命を保証しないと告げる。仲間が既にラム警部の家の前に待機しているのだ。ラム警部を支配下に置いたエレーナは、ラム警部の銃を奪い、部屋のカギを掛けさせて、ラム警部とハミルトンの携帯を取り上げ、部屋にあった電話のコードもはずさせた。完全な密室だ。そしてラム警部に指示をしてハミルトンを椅子に縛りつけさせた。エレーナはヨセフに「お前が収容所にいた“公爵夫人”という捕虜にやったことを、息子のマルコ(=ハミルトン)の前で告白しろ」と迫る。
収容所では見せしめのために、すぐには殺さず傷つける方法が取られていた。ヨセフが行っていたのはアキレス腱を切ること。地を這うしかできなくなる上に、治ってもまともに歩けなくなるからだ。エレーナは同じことハミルトンにやる。ラム警部に抑えられたハミルトンに、肉を吊るす金具が振り落とされ、左足から血が噴き出した。
ヨセフは告白を始めるが、息子に見つめられたくないと主張する。エレーナはラム警部に彼のネクタイでハミルトンに目隠しをさせる。告白はこうだ。収容所には、いつも紫色のドレスを着ていて“公爵夫人”を呼ばれている女性がいた。ヨセフは希望の象徴だった彼女を、殺すのではなく、潰そうと考えた。希望こそが収容所で最も忌むべきものだからだ。12人の部下たちに代わる代わる“公爵夫人”を強姦させて、自分の番が終わると、兵士全員にナイフで彼女の体に傷をつけさせ、最後には彼女に「ありがとう」と言わせたのだ。彼女の悲鳴が収容所中に響き渡るよう、窓は全開にされていた。エレーナはヨセフのラヴィニア語の告白の全てを、ハミルトンに英語で語らせた。
立って告白していたヨセフの前に立ちはだかったエレーナは、自分の上着をたくしあげた。彼女の腰に無数の大きな切り傷が見えた。彼女が“公爵夫人”だったのだ。ヨセフが生贄にしたのは14歳の少女だった。ハミルトンは大きなショックを受ける。「父親がこれほどまでの犯罪者であるとわかった今、それでも公正な裁判を受けさせるべきだと思うのか?」とエレーナに聞かれたハミルトンは「父をインターポールに引き渡すべきだ」と答える。どんな極悪人にも正当な裁きをという主張だ。エレーナはやや呆れて、怒りをあらわにして返答する。ヨセフを裁判にかけても有罪になるまでに10年かかり、80代になって課せられるのは死刑でなく終身刑。死ぬまで優雅な刑務所生活を送ることになるだろう。それでは復讐にならないのだと。
エレーナはハミルトンにヨセフを殺させることにする。ラム警部に手錠をかけて動けなくした後、仲間に電話し、ラム警部の家の中へと潜入させる。やめてくれと必死で懇願するラム警部に、頼むならハミルトンに言えと返すエレーナ。彼女は自分が腰に巻いていた太い革ベルトをハミルトンに渡し、ヨセフの首を絞めて殺せと命令する。そうしなければラム警部の長女のアイリスが襲われるのだ。「こんなの間違ってる!」と拒否していたハミルトンだが、ラム警部の狂わんばかりの懇願と、電話の向こうから聴こえてくる少女の声に負ける。ハミルトンは父ヨセフにまたがって、首を絞めて殺した。
エレーナはラム警部の手錠を外し、ハミルトンに「よくやった、人を殺すのは大仕事だろう」とねぎらいの声を掛ける。すると、ラム警部が仰向けのヨセフの遺体に小便を掛け始めた。彼も“フュリオージュ”だったのだ。この建物は3か月前に借りて、警察署に改装したという。何もかもが計画通りだった。「こいつが(戦争犯罪人15人の)最後の1人。前の奴は女房に殺させた」とエレーナ。ヨセフが床に横たわる直前、エレーナが耳元でささやいたのはラム警部の本名だった。それでヨセフは観念したのだろう。
ハミルトン:フィリオージュは正義に興味がない、復讐あるのみだ。
エレーナ:フィリオージュが闘うのは正義と復讐の両方のためだ。
エレーナ:辱めを受けた血を癒すのはリベンジだ。これからのお前の人生に安らかな夜が来ることはない。いつか私に復讐しに来ればいい。
ハミルトン:そしてその先は? 私はそんなことはしない。
下手のドアの周囲の壁が透けて、張りぼての空間であったことが明らかになる。上手の壁が透けて、収容所のコンクリートと鉄条網にからまった紫色のドレスが現れた。燃える氷のようだったエレーナの表情が変わった。20年以上固く信じてきたことに、わずかな疑念が生じ、瞳に戸惑いが見えるようだった。
・感想 後日加筆予定。
出演 (配役順) ヨセフ・ズブリーロヴォ:髙山春夫、ハミルトン・バーンズ:佐川和正、ラム警部:斉藤淳、エレーナ:森尾舞
作:ニコラス・ビヨン 翻訳:吉原豊司 演出:小笠原響 美術:内山勉 照明:桜井真澄 音響:井出比呂之 衣裳:樋口藍 演出助手:杉林健生 舞台監督:村田明 制作担当:栗原暢隆 松井伸子 著作権:GARY GODDARD AGENCY プロデューサー:名取敏行 製作:名取事務所
(全席指定)
前売4,000円 当日4,500円
シニア3,000円(70歳以上)
学生1,000円
「ベルリンの東」とのセット券7,000円
(シニア・学生・セット券は名取事務所のみ取り扱い)
http://www.nato.jp/topics.html#topi_1
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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