ブルドッキングヘッドロック『スケベの話~オトナのおもちゃ編~』04/09-20ザ・スズナリ

スケベの話~オトナのおもちゃ編~
スケベの話~オトナのおもちゃ編~

 ブルドッキングヘッドロックはナイロン100℃にも所属されている劇作家、演出家、俳優の喜安浩平さんが主宰される劇団です。

 「CoRich舞台芸術まつり!2016春」の審査員として拝見しました(⇒109本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。 

 ブルドッキングヘッドロックは「CoRich舞台芸術まつり!2010春」でも最終選考対象の10本に選出されていました。⇒レビュー

 ⇒ブルドッキングヘッドロックの紹介文(CoRich舞台芸術まつり!2016春)
 ⇒CoRich舞台芸術!『スケベの話~オトナのおもちゃ編~

 ≪あらすじ 2016/3/18版≫ 公式サイトより。改行を変更。
物語の舞台は、とある国の軍部に属するサルマン中佐の邸宅。その、柔らかい日差し注ぐ静かな中庭。中佐の部下・シェパードの少佐昇進を祝う、ある日のパーティー。シェパードの同期であるワンダー大尉は、そこで謎めいた美しいメイド・タミナと出会う。
「このスイッチを君に預けよう。君を救うためのスイッチだ」不意に中佐が小さなスイッチを取り出す。中佐の懐には、たくさんのスイッチ・スイッチ・スイッチ…。ワンダー大尉のもとへ渡ったスイッチは、一体どこへ繋がっているのか。
その日から、退屈な毎日が軋みをあげて歪み始める。妻の不要なはずの華美な下着に、メイド達のたわいない雑談に、あらゆる事象に体が疼く。
スイッチだ。全てスイッチのせいだ…。そう困惑する大尉に、妖しく歩み寄るタミナ。その手には、また別のスイッチが握られている。
触りたい…押してみたい…ダメと言われたことをやってみたい!
友情、嫉妬、絶対服従。駆け引きが生む新たな欲望。深みにはまった男達の辿り着く先とは。タミナが抱く、真の目的とは。
緻密にして執拗。静かに穏やかに変態する、健全で卑猥な軍人達の会話劇。降り注ぐ陽の光は眩しく、こぼれた吐息が外に漏れることはない。 耳を澄ますと聞こえてくるのは、隣国のマーチか、それともモーターの微音か。
家族、権力、そして性欲の狭間で、おもちゃのように振れ動く、男達のおかしみと哀しみを目撃せよ!
 ≪ここまで≫

 ■卑猥で不毛な遊戯に耽る、オトナの不幸

 劇場入り口側と奥の2方向から舞台を挟む対面式客席で、舞台はとある豪華なお屋敷の中庭。敷き詰められた緑の芝が目を引きます。アクティングエリアが小さく見えて、閉じられた世界の遊戯を覗き見するような気分になれました。

 セリフは明晰に発語されるし、演技の方向も明快なので、会話の内容は理解できます。ただ、起こる事象には裏があり、それが隅々まで明らかになることがありません。パンフレットにも書かれていたように「曖昧であること」をテーマにした作劇方法だったようです。出来事の真相にあたる部分を敢えてそぎ落とし、謎を抱えたまま物事が進む群像劇でした。

 登場するのは軍人とその妻や家族、そして使用人などで、服装や態度で上下関係がはっきり示されます。タイトルで一目瞭然ですが、私の予想を上回る卑猥さで、そこまで露骨に性的な描写をする意図は何なんだろう…と考えたりもしました。でも、散りばめられ、明かされない謎たちのおかげで、好色を指すスケベ(助平)なこと以外の、色んな可能性を考える時間にもなりました。

 出演者は17人と多い目で、そのうち客演は4人です。ほとんど劇団員で構成された座組みですが、演技の質感や作り出される空気に一貫性は感じませんでした。たとえば、敢えて空けた間(ま)なのか、ミスで時間が経ったのかが判別できないなど、私にとってはバラバラと言っていい印象でした。有料パンフレットによると、脚本中心にして統制を取るよりも、俳優それぞれの体のあり方を重視されたとのこと。集約より拡散を狙ったのかもしれません。

 サルマン中佐(喜安浩平)の白髪の母親サーシャ役の永井幸子さんは、ドキっとするような際どいセリフを、とぼけた演技でスコーンと真っ直ぐ伝えてくださるのが痛快。声も小気味よく響きました。
 シェパード少佐役の西山宏幸さんはさすがに歌がお上手で、耳に嬉しい歌声を聴かせてくださいました。
 喜安浩平さんが長いセリフを一人で静かに語る場面があり、堂々としている割に内容が支離滅裂で可笑しかったです。喜安さんはどんな空気を作ろうとしているのかが、体と声からはっきり伝わる演技をされるので、存在感も大きいです。作・演出を担当されているせいもあるかもしれません。他の俳優との差が気になりました。

 ここからネタバレします。

 シーツやテーブルクロスに文字映像を映して時間の経過などを説明し、場面転換します。俳優が持っている布の上の文字を読むので、ちょっと不安定なのがスリリングで良かったです。

 好色な上司への贈り物を選ぶため、軍人たちが色んな種類の“おとなのオモチャ”の品評会を開催し、実物のバイブレーターが出てきた時はドン引きしてしまいました…。どんどんエスカレートして、手裏剣かブーメランのような不思議な物体(これもオトナのおもちゃという設定)が取り出された時は笑いました。

 遠隔操作ができるリモコン付きのバイブレーターは、見えない主従関係を想像させます。誰がそのスイッチを持っているのかもわからないので、私は天下りの上司が大勢いる公的機関の伏魔殿のようなイメージを思い浮かべました。八方ふさがりの醒めない悪夢が、カラっと乾いた無機的な会話の背景になって、空恐ろしいです。

 新人メイドのタミナ(角島美緒)が後半では昇進しており、かつての先輩メイドに高圧的な態度を取っていました。気持ちいいぐらいの下剋上です。ただ、昇進理由は曖昧。
 ワンダー大尉(寺井義貴)が芝生に這いつくばって探しものをするのを、メイドが見下ろす場面もあり、そこでも雇い主と使用人、もしくは男女の地位の逆転が表されました。軍内の男たちのゲームに入り込んで必死になっている内に、いつの間にかメイドよりも地位が低くなっている…。その様は滑稽で哀れです。

 複数の夫婦や若いカップルが登場しましたが、妊娠・出産・教育など、子供にまつわるエピソードはなかったですよね(たぶん)。そもそも“オトナのおもちゃ”自体が快楽目的の道具であり、生殖行為に直接は結び付かない不毛さがあります。相撲を取ったり、スイッチを落としたり、探したり…オトナたちが戯れに逃げ込んだあの中庭は、社会から隔離され、宙に浮かぶ楽園とも思えました。

 女性同士がじゃれ合う様子は可愛らしいし、キスシーンも美しいなぁと思いました。個人的にメイド服も好きなので(笑)、眼福でした。タミナ役の角島美緒さんは後半の凛とした立ち姿に説得力があり、おろおろしていた新人時代からの豹変っぷりが良かったです。

出演:寺井義貴、西山宏幸、篠原トオル、喜安浩平、永井幸子、津留崎夏子、葛堂里奈、鳴海由莉、竹内健史(準劇団員)、髙橋龍児(準劇団員)、橋口勇輝(準劇団員)、平岡美保(準劇団員)、山田桃子(準劇団員)、木乃江祐希(ナイロン100℃)、安東信助、外村道子(ECHOES)、角島美緒
脚本・演出:喜安浩平
音楽:西山宏幸
映像:猪爪尚紀
舞台美術:長田佳代子
照明:斎藤真一郎
音響:水越佳一(モックサウンド)
舞台監督:田中翼・伊藤新
衣裳:小原敏博
演出助手:陶山浩乃
音響操作:照山未奈子
映像協力:篠原トオル・神林裕介
宣伝美術:オカイジン
宣伝写真・スチール:高倉大輔(casane)
宣伝ヘアメイク:鷲見星奈
宣伝イラスト:永井幸子
WEB:寺井義貴
制作協力:リトル・ジャイアンツ
制作:足立悠子・福富遥・石川愛野・藤原彩花
【休演日】4月13日(水)【発売日】2016/03/12
前売券(自由席)/3,600円
前売券(指定席)/4,200円
当日券(自由席)/3,900円
当日券(指定席)/4,500円
グループ割引(指定席・3名以上でのご予約でお一人様)/3,900円※
U-18割引(18歳以下対象・枚数限定・前売当日共・公演当日要身分証明証)/1,800円※
※ブルドッキングヘッドロックのみ取り扱い
・自由席は整理番号付
http://www.bull-japan.com/stage/adult/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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