KAAT神奈川芸術劇場『人類史』10/23-11/03神奈川芸術劇場・ホール

 谷賢一さんの新作『人類史』がKAAT神奈川芸術劇場・ホールで上演されています。谷さんはユヴァル・ノア・ハラリ著「サピエンス全史」に触発されてこの戯曲を書いたとのこと(私は未読です)。上演時間は約2時間45分(途中休憩20分を含む)。当日パンフレットが無料配布されました。

 劇場ロビーで戯曲本も販売されています。

 トレイラー↓


 

≪あらすじ≫ https://www.kaat.jp/d/jinruishi
人類200万年の歴史を一挙に駆け抜ける!
二足歩行、言語の獲得、コミュニケーションによる表現の進化
科学革命による圧倒的な進化を遂げてなお、人類の未来は発展し続ける

今から約200万年前。まだサルの一種に過ぎなかった人間は、肉食動物に追い回され、両手両足を使って地べたを這い回り、木の実や虫を食べて暮らしていた。それがあるとき二足歩行を始めたことで道具・言語・火などを手に入れ、またたく間に文明を開花させ動物界の頂点に立つ。やがて高度な社会を形成し、ついには科学の力によって宇宙の仕組みにまで到達することになるが、その驚異の発展を支えたのは「想像力」、見えないものを見る力だった・・・・。

物語は、数万年単位で時間を跳躍しながら進んでいき、どの時代・どの場所にも何故か同じ顔・姿をした「若い男」「若い女」「老人」が登場する。それらは遠い先祖・子孫の関係のようにも見えるし、生まれ変わりのようにも見える。同じ顔・姿をしたこの三者を中心に200万年の人類史を駆け抜ける!
≪ここまで≫

 振り返ってみると、劇場での観劇は約3か月半ぶり…!おのぼりさん気分でKAATへ。やっぱりかっこいいわー…劇場前に並ぶポスターは『人類史』『星の王子さま』『knife』『オレステスとピュラデス』…全部観たい…。

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 日本大通り駅のなかに『星の王子さま』のポスターがあって、写真を撮ってしまった…ポスターのデザインも、ひびのこづえさんの衣装も素敵…♪

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 劇場に入ってアルコールで手指消毒した後、LINEで来場者登録するスペースへ(紙に記入するのもOK)。長机が並び、スタッフさん数名が操作説明をしてくださいます。消毒作業だけでも大変なのに、こんなことまで…。観客を入れて舞台の上演をすることのハードルが高すぎます…。関係者の皆様、本当にありがとうございます!

エスカレーターから眺めたKAAT1階/白い長机がLINE登録スペース
エスカレーターから眺めたKAAT1階/白い長机がLINE登録スペース

 客席は1席ごとに空席があるので、半減以下になってそうですね。上演中もマスク着用です。カフェ営業がないのも寂しいな…普段からあまり利用するタイプの観客ではなかったんですが(ごめんなさい)、あの雰囲気もとても大事だったんだな…。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

≪内容メモ≫
 舞台後方を丸く囲む半円形の巨大スクリーンに映像が映される。スクリーンは吊られていて上下(じょうげ)に移動し、スクリーンの下から俳優が這って登場したりする。字幕あり。長い時間の経過を星の移動の軌跡で表現。星空は全編をつなぐ要素。

 長い目の暗転から開幕。200万年前の人類は100万の生と死を繰り返す。7万年前に言葉が生まれ、集団での狩猟生活で動物(猛牛など)に勝利。祭事、舞踊、絵画などが花開く。1万年前から農耕が始まり貧富の差が生まれる。国王(山路和弘)の横暴に異を唱えた奴隷は舌を切られ処刑。奴隷と王女(東出昌大と昆夏美)は100万年前、7万年前にもいた一組の男女の生まれ変わりのよう。「(奴隷の)舌を切っても血を滴らすな」という王女のセリフはシェイクスピア作「ヴェニスの商人」からの引用。

 休憩中にマイナス(紀元前)400年まで字幕が進み、二幕が始まるといきなり17世紀(1616年)。スクリーンの前方に大きな額縁が登場。上下(かみしも)に幕があり、後ほど披露される劇中劇にぴったり。この場面全体が「劇」である構造とも受け取れる。舞台はヴェネツィアの宿屋兼居酒屋。父(歴史学者オーラン?)が「光あれ」からはじまる聖書を読み、その子供たち(姉と弟)が耳を傾ける。弟(名児耶ゆり)は天体に興味があり、星の運行がみな同様でないことに気付いている。母(小山萌子)が夜遅くに訪れたガリレオ(山路和弘)とその弟子(村岡哲至)を泊めてやる。

 翌日は復活祭。ガリレオに会うために数学者の男性2人(奴隷と王女の生まれ変わり)がやってきた。片方は女性であることを隠している(モデルはソフィ・ジェルマン?)。村人たちはキリストが復活する劇を上演。生活と信仰が深く結びついている。大航海時代らしく、船への投資話などで盛り上がるなか、突然、ペスト発生が判明。人々はおびえ、「悪行が災厄を呼び寄せたのだ」と吹聴する“善良な”女性(奥村佳恵)や神父(福原冠)に煽られて、娼婦(大久保眞希)を追放する。ガリレオも追い出されそうになるが、星が好きな少年(弟)に望遠鏡を覗かせてやることができた。純粋な好奇心が未来への橋渡しとなる。

 数学者2人が数式で宇宙を、地球上の現象を、記述していく。スクリーンに映し出される多くの数式が、第一幕の象形文字や壁画を思い起こさせる。下手端の男性が(聖書のような)本を開いて読み上げていくのは、17世紀以降に人類が起こした主な出来事の羅列だ。衣装を素早く変えながら、ひとつずつを簡潔に演じていく。地動説、万有引力の発見、産業革命、原子爆弾の投下、女性参政権、ロックンロール、チェルノブイリの原発爆発、福島の原発爆発、Windows95、AI、新型コロナウイルス…そして2050年まで。男性数学者が本を閉じ、暗転して終幕。

≪感想≫
 身体表現で百万年単位の人類の進化を描いた第一幕が楽しかったです(振付:エラ・ホチルド)。似た衣装を着た群舞からでも、出演者それぞれの個性が見えてきます。第二幕は物語の進行を面白く拝見したものの、私にとっては長いセリフで説明することが少し多すぎたかも。とはいえ深く考えることができました。細かいですが「聖書にはアメリカ大陸のことは書かれていない」という指摘にはハっとさせられました。

 国王に刃向かった奴隷は舌を切られ、地動説を唱えたガリレオは宗教裁判にかけられ自由を奪われました。どの時代も行き過ぎた権力は邪魔者を黙らせようとしますね。抗っていきたいです。
 教会が天動説を覆せないのは、過ちを認めることができない“無謬病(むびゅうびょう)”とも言えますよね。人間が安定、安心を求めるのは生物としておそらく正常で、大人になると「変わりたくない」「自分の好きなようにしたい」「今まで通りの生活をしたい」と思いがちです。でも自分を守るために頑なになることは、“無謬病”と直結しているとも思います。自分にとって心地よい状態を疑っていくために、貪欲さや好奇心を持っていたいですね。

 『人類史』を描くにあたり、ガリレオの時代を取り上げたことが凄いと思いました。宗教、差別、疫病、科学といった大きなテーマがまとまっています。第二幕の終盤がものすごい駆け足になるのは、科学の進化のスピードからすると当然なのでしょうね。ミュージカル『太平洋序曲』(宮本亜門演出版)を思い出しました。そういえば同じ劇場ですね~。

 女性数学者役を演じる時の昆夏美さんの愛らしさは、(ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの舞台に出演される時の)犬山イヌ子さんに似ている気がしました。星を観察する少年役の名児耶ゆりさんも可愛いかったですね。どちらかというと名児耶さんは、第一幕の方が私好みだったかも。ガリレオの弟子役の村岡哲史さんのセリフが明晰で意味もわかりやすかったです。観客に対して積極的に開いている柔軟な感じも好きですね。

 コロナのロックダウン生活中にジャレド・ダイヤモンド著「銃・病原菌・鉄」(上下巻)を読んだので、第一幕の終盤(植物の家畜化、1万年前あたり)は咀嚼しやすかったですね。


 

 時を超える男女の愛といえば、私にとっては里中満智子さんの漫画「海のオーロラ」。小学生のころに繰り返し読んだ大好きな漫画です。幼少期から思春期に、里中さんの歴史ものの少女漫画に親しんだことは私の財産になっています。


 

 さんざん罵倒され公開処刑状態にされた娼婦(大久保眞希)が追放間際に、自分を買った男たちを名指ししていくのは胸がすきます。ラース・フォン・トリアー監督の映画「ドッグヴィル」を思い出しました。ただ、せリフはほんの少々、間(ま)を取り過ぎな感じがしました。その場の村人たちを糾弾するだけでなく、女性性を代表して世界に対して訴えるような強度も欲しかった気がします。改めて振り返ると、この戯曲はそういうセリフが多いんですね。“人類”を自身の身体と声に宿すと考えると、俳優にとって難易度の高い戯曲なのだろうと思います。

■感想ツイートの転載など

↓2020/11/03加筆

↓2020/11/04加筆

■公演終了直後の谷賢一さんのツイート

■再演について

出演:東出昌大、昆夏美、山路和弘、秋葉陽司、浅沼圭、生島翔、植田崇幸、大久保眞希、奥村佳恵、栗朱音、小山萌子、谷本充弘、内藤治水、中林舞、名児耶ゆり、奈良坂潤紀、仁田晶凱、福原冠、村岡哲至
※出演者降板のお知らせ
本公演「人類史」に出演を予定しておりました栗朱音さんは、体調を崩し療養が必要となったため、降板することとなりました。(感染症ではございません。)
脚本・演出:谷賢一
音楽:志磨遼平(ドレスコーズ)
振付:エラ・ホチルド 
美術:堀尾幸男
照明:齋藤茂男
音響:鹿野英之
映像:松澤延拓・新保瑛加
衣裳:堂本教子
ヘアメイク:谷口ユリエ
振付助手:皆川まゆむ
演出助手:渡邊千穂
舞台監督:横沢紅太郎
企画・制作:KAAT神奈川芸術劇場/ゴーチ・ブラザーズ
企画製作・主催:KAAT神奈川芸術劇場
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
協力:イスラエル大使館
後援:横浜アーツフェスティバル実行委員会
【発売日】2020/09/19 全席指定
S席:7,500円 A席:5,000円
U24チケット(24歳以下):3,750円
高校生以下割引:1,000円  
シルバー割引(満65歳以上):7,000円 
※U24、高校生以下、シルバー割引はチケットかながわの電話・窓口・WEBにて9月19日より取扱い(前売のみ、枚数限定、要証明書)
※車椅子でご来場の方は事前にチケットかながわにお問い合わせください。
※未就学児の入場はご遠慮ください。
https://www.kaat.jp/d/jinruishi
https://stage.corich.jp/stage/108856

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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