ふじのくに⇄せかい演劇祭2019/SPAC『ふたりの女 平成版 ふたりの面妖があなたに絡む』04/27-04/28舞台芸術公園・野外劇場「有度」

 「ふじのくに⇄せかい演劇祭2019」が開幕しています。まずは4/27~28の一泊二日で東静岡に滞在しました。

 公式サイトでは上演時間が約1時間40分となっていますが、私が観た回はカーテンコール3回込みで約1時間半強だったかと。


≪あらすじ≫ http://festival-shizuoka.jp/program/two-ladies/
伊豆の砂浜に立つ精神病院。イケメン医師・光一は、六条という名の美人患者に声をかけられ、不意にアパートの鍵を渡されてしまう。富士スピードウェイで妊娠中の妻・アオイとレース観戦をしていた光一、アオイが席を外した隙に、退院した六条が現れ…
≪ここまで≫

 光一、六条、アオイが登場するお話といえば…↓ 

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 初演が苦手で再演は観なかったのですが、出演者によると再演では衣装を一新して演出の方向性も変わっていたそうです。再々演では、再演の衣装を踏襲しつつ、作品全体をとらえ直し、役作りも変えたそうです。いやー…時を経た再演ってすごいですね。メインキャストが変わっていないことも奏功したのかもしれません。

 初演の舞台装置は、床材の下に格子状に組まれた根太(ネタ)と呼ばれる木材がむき出しの状態でした。床材の張替えの際のアイデアなのでしょうね。細い柱ぐらいの太さの板の上だけを歩くという演出で、俳優さんの足取りが危なっかしくて、私は怖くて仕方がなくて、そのスリルが邪魔だったんですね。それで再演は見送ったのですが、舞台写真を見ると、どうやら格子状のデザインは板ではなく絵になっている…?(実際は砂でした) 二度も再演するぐらいだから何かあるのだろうと思って観てみたら、これが正解でした!
 
 怪しくて官能的で、やけどしそうなほど熱くて、時には危険でおどろおどろしく、時には愛らしくて可笑しい、詩情あふれる禁じられた夢の世界…というのが初演(および唐さんのお芝居)の個人的印象だったのですが、今回は「そこまで受けを狙っちゃうの?!」と少々ひるむぐらい(笑)、娯楽要素が前面に打ち出されていました。いかにも滑稽に群舞してみせたり、あからさまにギャグがてんこ盛りだったり、詩情をかもすのではなく、あくまでも笑わせるためにダジャレを際立させたり。

 でも、永井健二さん演じる主人公の光一が、“お笑い担当”の人たちを冷静に受け止めながらも、呼応することはせずに、物語の世界を背負い続けてくれたのです。たとえば、たけいみきさんが演じる六条が可愛らしくおどけてダジャレを言うと、光一はそれを真に受けずに彼女と向き合ってクソ真面目に会話を進めます。そのギャップが私にとっては可笑しくて、異化効果にもなり、演劇的奥行が増すことになりました。芝居の層(レイヤー)が増えると言ってもいいかもしれません。

 あるスタイルを持って緻密に積み上げ、吟味を経て形作られた生のお芝居は、それ自体が確固とした存在となり、観客を、世界を映す鏡となりえるのだと思います。ともすると戯曲を茶化しているように受け取れる場面もありましたが、いろいろ試した末に選び出し、ある到達点に達した演技に見えました。そのおかげで、堂々とまっすぐに語られる詩的なセリフがスムーズに届き、唐十郎さんの妄想世界を味わうことができたのだと思います。いたずらな男の子のたわいない、ほほえましい夢とも思えました。

 六条と葵を演じ分けるたけいみきさんは水を得た魚のような自由闊達さ!声色の演じ分けのいやらしさもありませんでした(私は声優さんの演技が苦手なので声や発語が特に気になります)。ある演技手法の訓練を重ねた俳優が、根本から役作りをしたことで、くっきりはっきりとした存在になり得ているのだと思いました。

 光一役の永井健二さんは、パーマを強くかけすぎた昔のキムタクみたいなヘアスタイル(笑)がすっかり板について、計算されたケレン味と受け取れました。誠実で完成度の高い存在感でした。最初の長いセリフもよかったです。

 ※私が唐十郎さんが出演する唐組のお芝居を観たのは一度だけです。アングラが苦手と長年言い続けて、そのためアングラを観てこなかった一観客の感想ですので、アングラがお好きな方やよくご存じの方からすると的外れの感想かもしれません。

 ここからネタバレします。

 SPAC『ふたりの女』は2009年初演で、2015年に再演されています。もともとは唐十郎さんが第七病棟に書き下ろした戯曲(1979年)で、唐組(紅テント)の作品ではないんですね(石橋蓮司さん、緑魔子さん主演だったそう)。唐さんはSPACの初演をご覧になった後、2010年に唐組で初めて『ふたりの女』を上演されています(ご参考:http://kamata-minoru.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-f2b6.html)。その時に唐さんが加筆し、ご自身で演じた役を、宮城聰さんが演じていらしたんですね。なるほど、演出家が演じた役なんだから宮城さんがやらないと(笑)。

 伊豆の精神病院で六条は医師の光一にある鍵を託します。その鍵を手にすると、アオイは六条に変身します。しかしながら何かに憑依されたような素振りではなく、アオイ自身が想像を肥大化させ、表出させたように見えたので、オカルト的な印象はありませんでした。六条はたまたま光一の妻に似ていた風変りな女性であり、光一はそんな彼女に少し惹かれただけ。アオイはマタニティー・ブルーだったと考えれば、よくある話です。ごく平凡な人々のありふれた日常にこそ、人間が生み出す底なしの妄想世界が待ち受けている…なんと危険で官能的なのでしょう。

 格子状にきれいに積み上られた砂は徐々に、暴れまわる俳優たちによってバラ撒かれ、伊豆の砂浜や蟻地獄にも見えてきます。上演中の不確定要素としても砂は効果的ですよね。足を滑らせている俳優さんがいてちょっと心配でした(ハイヒールの女優さん)。

 原作の時代やアングラ演劇の要素をきちんと踏まえながら、現代や未来も投影するシャープな衣装デザインとヘヤメイクでした。たとえば母乳が入っていると思われる2つの透明ボトルが両乳首から垂れ下がっている衣装がありました。文章にすると異様ですが、ビニール状の布地で透明、白、黄色といったポップな色使いですし、俳優が楽し気にコミカルな動きするので、どぎつくはないんですよね。白塗りのメイクも道化感が増してよかったです。

出演:たきいみき、石井萠水、奥野晃士、春日井一平、木内琴子、武石守正、舘野百代、永井健二、三島景太、吉見亮、若宮羊市
演出:宮城聰
作:唐十郎
装置デザイン:村松厚志
照明デザイン:樋口正幸
音響デザイン:金光浩明(㈱三光)
衣装デザイン:畑ジェニファー友紀
ヘアメイクデザイン:梶田キョウコ
舞台監督:渡部景介
演出助手:守山真利恵
演出部:神谷俊貴
照明操作:久松夕香
音響操作:和田匡史
ワードローブ:川合玲子
美術担当:渡部宏規
ヘアメイク:高橋慶光
英語字幕翻訳:エグリントン・みか、アンドリュー・エグリントン
英語字幕操作:Ash
制作:内田稔子、久我晴子
技術監督:村松厚志
照明統括:樋口正幸
音響統括:右田聡一郎
製作:SPAC-静岡舞台芸術センター
助成:文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業
◎未就学児との入場はご遠慮ください。
◎背もたれのない客席になります。
◎雨天でも上演いたします。客席では傘をご利用いただけませんので、雨ガッパなどをお持ちください。夕方以降は冷え込みますので、防寒着をご用意ください
日本語上演/英語字幕
全席自由>
一般:4,100円
SPACの会一般:3,400円
ペア割引:3,600円
グループ割引:3,200円
ゆうゆう割引:3,400円
学割:2,000円
高校生以下:1,000円
障がい者割引:2,800円
※付き添いの方1名は無料
http://festival-shizuoka.jp/program/two-ladies/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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