新国立劇場演劇『ヘンリー五世』05/17-06/03新国立劇場中劇場

 新国立劇場で鵜山仁さんが演出するシェイクスピア・シリーズの新作。2016年に『ヘンリー四世』でタイトルロールを演じた浦井健治さんがヘンリー五世役です。続編ですが前作を観ていなくても大丈夫。上演時間は約2時間50分(1幕7分 休憩20分 2幕80分)。初日を拝見しました。

≪あらすじ≫ 公式サイトより 
即位したばかりのヘンリー五世の宮廷にフランスからの使節が訪れる。さきごろヘンリーの曽祖父エドワード三世の権利に基づき要求した公爵領への返事を、フランス皇太子から遣わされたのだ。そこにはヘンリーの要求への拒否だけではなく、贈呈として宝箱一箱が添えられていた。中身は、一杯に詰められたテニスボール。それは、若き日のヘンリーの放埒を皮肉った、皇太子からの侮蔑だった。それを見たヘンリーは、ただちにフランスへの進軍を開始する。
≪ここまで≫

 相談役が観客に語り掛け、物語の解説をするのがこの戯曲の特徴のひとつです。場面転換時に「想像力を使ってください」等と言い、観客を導いてくれます。鵜山演出ではこの相談役を大勢で演じます。衣装の上から大きな灰色のマントを被ったら相談役になるのです。「今はあの人が、次はこの人が相談役!」と目移りしました。マントを脱いで誰か変身するのも楽しいです。

 ツイートもしましたが、とにかく衣装が美しくて、軍服萌え、マント萌え、ドレス萌えですよっ!!手でファサー!とマントを翻す動作に(お約束といえど)いちいち惚れちゃうわ~~~♪ マントの脱ぎ着で説明役から色んな役に化けることからも、これは“プロの俳優による贅沢かつ上質なコスプレ・ショー”とも言えるんじゃないかと。ヘアメイクも凄いんです。例えば金髪トサカとか!そんなミーハーな気分全開で楽しんでしまいました。

 くったくなく楽しんで観られたのはわかりやすさも一因だと思います。イングランドとフランスの戦況を舞台上にある国旗で表現し、敵と味方がくっきりと色分けされ、登場人物のキャラクターも衣装で明快に示しているので、展開に戸惑うことがありません。旗を揺らすためか、ずっと風が吹いているのも効果的です。私の席までそよそよと風が届き、自分も戦場の草原にいるような心地になりました(本当に戦場にいたら危険ですが・笑)。

 昨年、映画「嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~」を見ておいて本当に良かったです。「エドワード二世」「ヘンリー四世」「ヘンリー五世」「ヘンリー六世」「リチャード三世」と続く歴史劇を時系列でまとめて観たおかげで、記憶力がとても乏しい私でも、浦井さん演じるヘンリー五世の放蕩時代や、その前の世代の王位略奪を思い起こしながら味わえました。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 白い木でできたバラックのような装置が上下(かみしも)にあり、俳優が登り降りします。舞台中央奥に向かってゆるやかなスロープが高くなっていき、そこも舞台への出ハケ口として使われます。舞台中央の床にパネルが数枚並べられていて、1枚ずつバラックに立てかけたり、置く向きを変えたりして風景を変えていきます。下手手前には水を張ったくぼみがあり、どうやって使うのかな~と幕開け前からわくわく。

 ヘンリー五世の白い衣装はどんどん血まみれになっていきます。王冠も少しずつ赤く染まっていき、最終的には全体が赤に。王女キャサリンへの求婚時にはガウンも真っ赤でした。最後に大きなイングランドの旗が舞台奥にたなびきますが、その中央には丸く大きく、赤い血の染みが描かれていました。大儀のあるなしに関係なく、戦争とは大量虐殺ですものね。丸いのは日の丸も表しているのかしら。

 ヘンリー五世がフランス王女キャサリンに求婚する場面は、「嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~」でも唐突に超ピュアなときめき炸裂のラブ・シーンが用意されていて、「トム・ヒドルストン反則!(可愛いすぎ!カッコよすぎ!)」と思ってたんですが、今回も驚かされました。ヘンリー五世が英語がおぼつかないキャサリンにジェスチャー込みで求愛するのが、身体表現として見栄えがして笑えるものになっており、彼らを見守る複数人の説明役が一喜一憂したり、ツッコミを入れたりします。乳母アリスも参戦(?)して、キャサリンにキスしたヘンリー五世をはり倒したのに大笑いしました。キャサリンが怯え続けることから、ヘンリー五世の横暴さも表されていたのかもしれません。

 相談役は1人で演じるよう想定されている役のようです。複数人で入れ代わり立ち代わり演じることが今作の大きな魅力だと思いますが、そのために原作にしたためられていることが伝わっていないのではないかというご意見を耳にしました。相談役はけっこうシニカルなことを言っているらしく(原作未読です、すみません)、相談役が言っていることと劇中で起こることが食い違うことがあるそうです。そういえば相談役2人が「ヘンリー五世は意気揚々としていた」等と言っているのに、浦井さんが鬱々としている場面がありましたね。あそこの意味がよくわからなかったのは、相談役を複数人で同時に演じてきたせいなのかもと考えたりしました。

 最後の相談役のセリフを女優3人で語ったのが素晴らしかったと思います。前半は「シェイクスピア戯曲って本当に男芝居だよね…(仕方ないことだけど、女性の役が少なくて悲しい)」と感じていたんです。でもイザベル(フランス王妃)が初登場する場面で女優3人(イザベル、キャサリン、アリス)が並んだ時、「女性ってなんて美しいの!!」という感嘆の気持ちが沸き起こりました。むさくるしい男達と対照的(失敬!)。その流れで彼女たちが『ヘンリー六世』の内容に触れ、「そのいきさつはすでにこの舞台でごらんにいれております」と言った時、2009年に同じ劇場で連続上演された『ヘンリー六世』の記憶がよみがえり、『リチャード三世』『ヘンリー四世』と続いた上演歴に思いを馳せました。中嶋朋子さんの凄まじいマーガレット役(ヘンリー六世の妃)なども浮かびました。

 シャルル六世(立川三貴)と皇太子ルイ(木下浩之)を筆頭にへらへら浮かれているフランス軍、超~好き!軍司令官役の鍛治直人さんのトサカ金髪素敵!マントの模様がそれぞれに異なっているので、5人(たぶん)が客席に背を向けて並ぶと、青いマントに金色の模様がランダムに輝いて、一枚の豪華な絨毯みたいでした…♪ うっとりしてため息出た。

 兜にニラを付けている騎士フルーエリン(横田栄司)が下手手前の水たまりに何度も入って遊んでくれます。観客もあ・うんの呼吸で笑っちゃう。
 『ヘンリー四世』で強く印象に残っていた小長谷勝彦さんは、今回も安定感があって語りの工夫が面白かったです。
 
 新国立劇場演劇研修所11期修了生が2人出演されています。玲央バルトナーさんはフランス軍ランビュアズ役で美形を活かし(笑)、鏡で顔を何度も眺め髪型を直すお馬鹿ナルシストがハマっていました。小比類巻諒介さんは説明役、伝令役などを、さわやかで繊細な若者として好演。お2人とも声がよく通り、発語も意味も明晰。

 以下、詳しいあらすじです(公式サイトより)

≪1≫ハル王子はヘンリー五世となる。父、ヘンリー四世の死とともに、悪友たちときっぱり手を切ったハル王子。皇太子時代の放埒ぶりから改心し、立派な王、ヘンリー五世になった。フランス王位継承権を主張してフランス国王シャルル六世に使者を派遣する。

≪2≫フランス皇太子ルイが「否」という返事とともに贈ってきたのはテニスボール。ヘンリー五世のかつての放蕩三昧を揶揄して「フランス領土を要求する前に、テニスボールで遊んでいろ」という意味も込めていた。それを受けヘンリー五世はフランスに進軍を開始。

≪3≫ロンドンの居酒屋でピストル、バードルフ、ネル、ニム、小姓が、死んだフォールスタッフを偲んでいる。かつての放蕩無頼の暮らしを回想。やがて、ピストルたちは士気を高め、フランスへ出陣する。

≪4≫ヘンリーは隊長フルーエリンらとともにフランス・ハーフラーの戦いに勝利。ハーフラー市長は恐れ、入城させて降伏。

≪5≫フォールスタッフの部下だったバードルフとニムは教会で盗みをおかす。ヘンリー五世にとってはかつての遊び仲間。首つりを宣告するが、心中複雑だった?

≪6≫アジンコートの戦いで五倍のフランス軍を破り勝利する。

≪7≫ヘンリー五世はフランス王女キャサリンと婚約し、イギリスとフランスの二つの国を手中におさめる。エピローグでは説明役が、二人の息子ヘンリー六世の運命を憂い、幕を閉じる。

【出演】
王ヘンリー五世:浦井健治、
ピストル:岡本健一、
フランス王女キャサリン/説明役:中嶋朋子、
シャルル六世(フランス王):立川三貴、
ウェスモランド伯:水野龍司、
騎士ガワー:吉村直、
ルイ(金髪のフランス皇太子):木下浩之、
キャンタベリー大司教/オルレアン公:田代隆秀、
イザベル(フランス王妃)/説明役:塩田朋子、
騎士フルーエリン(ニラを頭に付けてる):横田栄司、
ネル/アリス/説明役:那須佐代子、
エクセター公:浅野雅博、
ニム/ジョン・ベーツ/説明役:小長谷勝彦、
ケンブリッジ伯/バーボン公/説明役:下総源太朗、
ソールズベリー伯/騎士マックモリス/説明役:櫻井章喜、
マイケル・ウィリアムズ/スクループ卿/説明役:清原達之、
フランス軍軍司令官(トサカ金髪)/鍛治直人、
イギリス王への使節/フランス兵/使者/説明役:川辺邦弘、
ベッドフォード公/説明役:亀田佳明、
バードルフ:松角洋平、
モントジョイ/騎士ジェーミー/説明役:内藤裕志、
小姓:田中菜生、
グロスター公/騎士トマス・グレー/説明役:鈴木陽丈、
アレグザンダー・コート/伝令/使者/説明役:小比類巻諒介、
ランビュアズ/説明役:玲央バルトナー(バルテンシュタイン永岡玲央改め)
イーリー司教/バーガンディー公:勝部演之、
ハーフラー市長/騎士トマス・アーピンガム:金内喜久夫
※大滝寛さんが怪我で降板し代役は浅野雅博さん。
※鈴木瑞穂さんが病気で降板し代役は田代隆秀さん。
脚本:シェイクスピア 翻訳:小田島雄志 演出:鵜山仁 美術:島次郎 照明:服部基 音響:上田好生 衣裳:前田文子 ヘアメイク:馮啓孝 アクション:渥美博 演出助手:西本由香 舞台監督:北条孝
S席:8,640円 A席:6,480円 B席:3,240円 Z席(当日券):1,620円 *Z席は、公演当日朝10:00から新国立劇場ボックスオフィス窓口にて販売いたします。1人1枚、電話予約はできません。
http://www.nntt.jac.go.jp/special/henry5/
http://stage.corich.jp/stage/91378

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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