サンプル/KAAT神奈川芸術劇場『グッド・デス・バイブレーション考』05/05-15神奈川芸術劇場・中スタジオ

 松井周さんの新作に戸川純さんが出演されます。上演時間は約1時間55分(休憩なし)。公式のアナウンスは約2時間です。

 ↓このチラシ、すっごく好きです。イラストレーション担当は寺本愛さん。チーム野営の人ですよね。宣伝美術は内田圭さんです。

≪あらすじ≫ 公式サイトより 
現代~近未来版楢山節考。
生演奏により、語られていく物語。
閉ざされた地域に暮らす一つの家族。貧困家庭の六十五歳を過ぎた人間は、肉体を捨てることを強く望まれる社会。
元ポップスターの父と、介護と子育てに疲労する娘と孫が直面する現実とは? 別の集落からやってくる孫の嫁、隣人、謎の男が加わることで、家族の形が少しずつ変化していく。
彼らはどのように生きていくのか?
≪ここまで≫

 舞台上にはプラスティック製の不用品などのゴミがいっぱい。ある意味、今も目にする景色だと思います。なんとなく東京デスロック『亡国の三人姉妹』に似てるなぁと思ったら、同じ舞台美術家さん(カミイケタクヤ)でした。

 とにかく、人ごとじゃないんですよね…。日本の少子高齢化のスピードは世界一のようですし、海外では安楽死を選択した人がいたり、無痛で自死できる装置が出来ていたりします。自分自身の老後と日本の未来を想像し、「どうすればこういうことが起こるのを防げるのか…」「自分が当事者だったら…」などと考えながら拝見しました。

 唐突に始まる歌や観客への語りかけなど、ピョコン!と出っ張るような演出があり、物語を舞台上だけで完結させないのがいいですね。

 ここからネタバレします。

 差別され、見捨てられた山奥の集落で、ゴミを集めてあっけらかんと暮らす極貧の棄民たちの日常が描かれます。舞台はおそらく近未来の日本で、放射能汚染、大気汚染などによる環境の悪化が原因なのか、遺伝子異常が常態化しており、人体実験に貢献することが国民の務めとなっています。歌を歌うこと、文字を書くこと、夢の内容を語ること、自由恋愛および性交が禁止され、高齢者はある年齢に達すると子供に捨てられることが推奨される管理・監視社会です。人の名前は“バイパス”、“ザラメ”など、不思議な感じ。登場人物たちはあまり言葉を知らないので、名前の意味はわかってなさそうです。ジョージ・オーウェル作「1984」がすぐに思い浮かびますが、緊迫感がないので、余計に空恐ろしい気もします。

 薬で体を早く成長させることができ、「年齢は14歳だけど体は28歳」という人間がいるのが普通の世界です。たしかに…人間は成人するまでに時間がかかる動物なので、ものすごく効率的な気がします。ただ、体が大人でも知能は低いんですよね。文字が読めないから教育も受けられないし。
 太陽光線に弱い人(松井周)など、体が正常でない人間が多く、人体改良の研究が進んでいるようです。過酷な人体実験のせいで死亡したら、「お国のために」殉職したので「おめでとうございます!」と言われます。戦争と同じですね。生まれた赤ん坊(ひよっこと呼ばれる)は「中央」に高く売れます。そうなると子供を産めない女性は邪魔な存在になるんですね。

 「中央」に反抗してシークレットライブを開き歌を歌ったじじ(戸川純)は、罰としてペニスを切られ、街から追放されました。じじの体はそのために女性化していたんですね。じじは男性ですが、終盤には女言葉で話すようになっていきます。その辺りから、じじの妄想が始まっていたんでしょうか。認知症が悪化したとも受け取れますよね。何度も「もう思い残すことはない」と言っていたのに、急に「嫌だ、行きたくない」と駄々をこねだすのは、老人が幼児化していく様子を表しているのかも。

 じじの家族は孫のバイパス(板橋駿谷)が建てたドーム型のほったて小屋に住んでいます。じじが海に捨てられに行く日、小屋を船に見立てて、家族勢揃いで船出することになりました。死んだはずの隣人(椎橋綾那)も一緒だったり、海に漂いながら皆でお腹いっぱいフルーツを食べたり、まるで夢のように、幸せなことがいくつも起こります。やがてじじ以外の人々が次々に去って、姿を消していき(鳥になりたいと言っていた子供を産めない女は鳥になって飛んで行った)、どうやら劇中の現実ではなかったことがわかってきます。装置がブラックライトに照らされ、ところどころ蛍光色に光り、舞台全体が海の底のようになりました。じじの白いレースのショールも輝いていましたね。流れついた島(?)でじじが神様のように扱われるのは、映画「パンズ・ラビリンス」を思い出させました。

パンズ・ラビリンス [Blu-ray]
アミューズソフトエンタテインメント (2013-05-22)
売り上げランキング: 3,961

 海の場面の後にエピローグがあり、残された家族がともに生きていくことが確認されます。人間は「それでも生きていく」しかないんですよね。文字を書くことが禁止されているにもかかわらず、じじの娘(稲継美保)はじじの思い出話などを手帳に書き残します。「50年後には変わっているかもしれない」という希望が示されました。
 個人的には、じじが「神様じゃないよ、人間だよ」と言い残して、海に消えていく場面で終わっても良かったんじゃないかなぁと思いました。きれいにまとまるより、何が何だかわからない後味であってくれたらなぁと。単にあの場面が好きだったからかもしれません。

 ネタバレになるので理由には書きませんが、映画「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロさんの小説が原作)も思い出しました。

わたしを離さないで [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2018-03-16)
売り上げランキング: 1,926

 上手奥で生演奏(?)をされていました。音楽は宇波拓さん。板橋さんが話しかけて、ラップとリズムを合わせたりしていました。

“Good Death Vibration”
【出演】
じじ:戸川純、バイパスの嫁になるが子供が産めない若い女性:野津あおい、じじの娘でバイパスの母:稲継美保、バイパス(筋肉があればモテると勘違いした少年):板橋駿谷、食べ物を盗んで食べたので焼かれて死に、食べられた女性:椎橋綾那、バイパスの母の昔の恋人、そしてその間に生まれた子供:松井周
脚本・演出:松井周
舞台美術:カミイケタクヤ
音楽:宇波拓
照明:伊藤泰行(真昼)
音響:牛川紀政
衣裳:小松陽佳留
演出助手:中村未希
舞台監督:櫻井健太郎
編集:鈴木理映子
広報協力:服部佑子
制作:堀朝美、小沼知子(KAAT) 
運営:富田明日香(quinada)
協力:quinada
宣伝美術:内田圭
イラストレーション:寺本愛
チラシ Graphic design : Kei Uchida / Illustration : Ai Teramoto
主催:KAAT神奈川芸術劇場
企画制作:一般社団法人サンプル、KAAT神奈川芸術劇場
全席自由席・整理番号付・税込
(前半割 5/5~5/10)
 前売一般 3,500円
 当日一般 4,000円
(後半 5/12~5/15)
 前売一般 4,000円
 当日一般 4,500円
U24(24歳以下)2,000円
高校生以下1,000円
※高校生以下割引、U24チケットはチケットかながわで承ります。(前売のみ・枚数限定・要証明書)
※車イスでご来場の方は事前にチケットかながわにお問合せください。
※未就学児の入場はご遠慮いただいております。託児サービスのある回をご利用ください。
https://sample-good-death-vibration.tumblr.com/
http://stage.corich.jp/stage/90766

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガ↓も発行しております♪

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台

   

バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ