野村有志さんが作・演出・出演されるオパンポン創造社の公演『さようなら』を拝見しました。12年前に書かれた戯曲だそうです。上演時間は約1時間20分。
「CoRich舞台芸術まつり!2018春」の審査員として拝見しました(⇒99本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!にも書きます。
≪あらすじ・作品紹介≫ CoRich舞台芸術!より
淡路島にある小さな工場で働く純粋な人々の物語。彼等、彼女等が生み出す甘美な絵空事が全てを巻き込み錯綜する。
「2000万?あのおっさんがそんな持ってるはずないやろ」
「脱税して貯めてたみたいなんです」
「…ほんで?」
「だから、盗られても警察に言えないんです」
昨年3月、大阪で上演し大好評を得たオパンポン創造社代表作「さようなら」が満を持して東京上陸‼︎
地方に留まる若者の鬱積を生々しく描き、東京を過剰なまでに意識した作品。
本作を東京で上演出来るのが今から楽しみでしょうがない。沢山の出会いがありますことを。
≪ここまで≫
淡路島でほそぼそと生きる平凡な人々の小さなコミュニティーに、「変わりたい」と強く願った1人の女性が激震を起こします。
黒い幕と壁でほぼ真っ黒な額縁舞台でした。舞台奥に膝の高さぐらいの黒い通路が横切り、道具は椅子が数脚あるのみです。場面転換はシャープでリズミカル。ドアの開閉はマイムと音響で表し、飲み物やタバコもマイムです。シンプルな空間で演劇的効果を生かした、密度の濃い会話劇でした。80分という短時間に収まっているのもいいですね。
登場人物それぞれの人物造形がはっきりしていて、全員に魅力があります。怒鳴っても、威張っても、いじけても、どこかに愛らしさがあり憎めません。演技だけでなく設定やセリフで、人物像がふくよかに肉付けされていると思います。
大阪ならではの、方言を活かしたコミュニケーションがとても心地よかったです。特にスナックのママ(美香本響)と客との会話で、大阪らしさを感じました。ママの機転の利かせ方、セクハラやクレームの受け流し方、切り返し方が見事で、大阪の女性の優しさとたくましさを感じ取れました。積極的に繰り出されたギャグや笑いのネタが、観客に媚びていないことも好印象でした。
オパンポン創造社「さようなら」東京公演無事終演いたしました。まずはご来場くださった皆様に心より感謝申し上げます。そしてスタッフ含め、最強の出演者へ心から感謝を。皆さんとはさようならではなく、再会を約束します。また会いましょう、東京。帰ります、大阪。
大阪の皆、やってきたったわ!! pic.twitter.com/yUtvsaIm3C— 野村有志(オパンポン創造社) (@mr_opanpon) 2018年4月22日
CoRich舞台芸術まつり!2018春に「一番乗り」で応募して良かった。一次審査は作品でなく書類審査なので一番乗りの時点で断然有利。多分残れたのそれが理由。全てじゃなくとも理由としてデカイ。で、その結果、審査員の方々に観て貰えた。結果はどうあれ、これはデカい。マジ卍。 #CoRich舞台芸術まつり pic.twitter.com/28SethW2HE
— 野村有志(オパンポン創造社) (@mr_opanpon) 2018年4月22日
ここからネタバレします。
高校中退してから18年、ネジ工場で働いている宮崎(川添公二)は、仕事が終わるとスロットに行き、朝までスナックで飲んでそのまま出勤するという自堕落な生活を送っており、後輩の柴田(野村有志)を無理やり同行させています。絵に描いたようなパワハラです。宮崎がスナックのママに対して取る態度もパワハラかつセクハラで、後に登場する社長(殿村ゆたか)のセクハラはさらに下品で露骨でした。そんな関係性を肯定的に受け取れたのは、演技にリアリティーがあるだけでなく、物語全体を俯瞰する視点が保たれていたからだろうと思います。
両親を亡くし一人で暮らす、冴えない女性事務員の末田(一瀬尚代)が、社長が脱税して貯め込んだ2000万円を盗む計画を立てます。彼女はとにかく東京に行って、人生を変えたいと思っているのです。末田は、風俗狂いで奇行が多い中国人チェン(伊藤駿九郎)と2人で社長の自宅に侵入するから、宮崎と柴田には、社長をスナックに足止めしてもらいたいと依頼します。しかしながら、末田とチェンが金を持ち逃げし、盗難に気づいた社長は宮崎と柴田が犯人だと思いこむ想定外の事態に。結果的にはチェンが全ての金を持って逃亡してしまいます。
ママが宮崎に愛層を尽かした瞬間や、「これからも今までどおり淡路島で暮らせばいい」と説得する柴田に対して、初めて末田が大きな声で反発する場面など、直接衝突する一対一の会話に緊張感がありました。宮崎が、社長からも後輩の柴田からも「人に頼るな、自分で動け、一人でなんとかしろ」と説教されるのが爽快でした。
チェンが整形をして、末田そっくりの姿になって帰って来るという顛末は、意外性があって笑える上に、小さな希望を示す微笑ましいものでした。「自分たちのようなつまらない人間は変わることが出来ない」と信じ込んでいた柴田が、チェンを見て笑い、終幕します。終演後のトークで作・演出の野村さんがおっしゃっていたとおり、末田も、スナックのママも宮崎も姿を消していましたから、人間は変わることができるんですよね。とはいえ、金さえあれば解決できることが山ほどあるという現実は、やはり悲しいなとも思いました。
スナックのママを快活に演じた美香本響さんは、タクシーの運転手役も面白かったです。
毎日のルーチンを示す場面を繰り返し演じ、徐々にルーチンの時間を短縮していくという、照明と音響と身体表現を組み合わせた演出は楽しいですね。カーテンコールの後にも見せてくださってありがとうございました。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
登壇(下手より):野村有志 冨坂友(アガリスクエンターテイメント) 美香本響
『さようなら』は12年前の戯曲で11年前に大阪初演。パンフレットによると10年前の東京初演は平日1日限り2ステージの公演で、総動員数が20人だったそうです。照明さんに「宣伝しなかったからお客さんが来なかっただけ。この作品は面白いよ」と言っていただけたとのこと。
ゲストの冨坂さんが「今作のような、いい意味で泥臭いお芝居は、東京ではあまり観ない」とおっしゃっていました。20~30代の作り手がそうなのかしら。今回の作品が東京ではあまり観られないものだというご指摘には共感します。
ただ私個人としては、今作のような泥臭い(男くさい、熱い)タイプのお芝居は、東京にもよくある気がします。ベテランだと流山児★事務所など。アングラを標榜する団体や、つかこうへい作品、新劇の劇団でヤクザものを上演する時も、そういう傾向があると思います。30~40代の人気劇団ならTRASHMASTERS、温泉ドラゴン、カクシンハンといった感じでしょうか。あくまでも私一人の感覚なので正確ではないと思いますが、念のため。
第十八回創造記念
≪大阪、東京≫
【出演】
従順な後輩・柴田:野村有志
事務の女性・末田:一瀬尚代(baghdad cafe’)
パワハラの先輩・宮崎:川添公二(テノヒラサイズ)
スナックのママ:美香本響(meyou)
風俗狂いの中国人チェン:伊藤駿九郎(KING&HEAVY)
ハゲの社長:殿村ゆたか(Melon All Stars)
脚本・演出:野村有志
照明:根来直義(Top.gear)
音響:浅葉修(Chicks)
舞台監督:新井和幸
宣伝美術:勝山修平(彗星マジック)
制作:吉田千尋(LuckUp)
全創造:オパンポン創造社
【発売日】2018/02/01
前売(一般)¥3,500-
前売(U-22)¥2,500-※要証明証
前売(遠征割)¥2,500-※関東圏以外からのお客様/要証明証
当日(一般)¥4,000-
当日(U-22)¥3,000-※要証明証
当日(遠征割)¥3,000-※関東圏以外からのお客様/要証明証
【高校生以下】
前売当日共に¥1,000-(各ステージ5名まで)
https://opanpon.stage.corich.jp
http://stage.corich.jp/stage/88871
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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