表現工房・洗濯船『MUSEUM THE MUSICAL』11/30東京オペラシティ3F近江楽堂

 近江楽堂というリッチな小空間でコミカルなミュージカルを拝見。俳優の武田桂さんが作、演出、出演されるので観に行きました。面白かった~♪ 上演時間は約1時間半。

≪あらすじ≫ 劇場公式facebookページより
ここは、とある美術館。
夜になると作品たちが動きだす。
世界的に有名な彫刻のパロディ〈考えない人〉
古代ギリシャの神殿を守った〈スフィンクス〉
二体は夜な夜な、自分の芸術的存在価値について語り合っていた。
一方、そこへ勤務する学芸員は、どちらを展覧会の目玉にするべきか思案していた。
晴れ舞台か、お蔵入りか。
彼らは、自らの運命を握る学芸員との接触を試みる。
しかし、美術品たちには決して破ってはならない「ミューズの掟」があった…
≪ここまで≫

 近江楽堂は円形の空間で、上下(かみしも)にキリスト教に関係すると思われる人物の彫像があります。天井は十字に区切られていて、外の光が十字型に入ってくる構造でした。ここを美術館と見立てて、石製とブロンズ製の彫刻を登場させるのは、心憎い借景ですね。

 嘘(フェイク)と真実(本物)のせめぎ合いは、証拠隠蔽やデータ改ざん等の残念なニュースがいっぱいの今にぴったり。上司が握る学芸員の出世や、美術館の信用問題もタイムリーだと思います。
 本物を模倣するのは愛情ゆえの行為とも言えますから、一方的に贋作製作は悪いと断ずることはできません。そもそも人間が本物と偽物を見分けられるのかどうかも怪しい。そして、見分けられたところでそれが何になるのか…などと、色んな事を考えられました。

 彫刻はじっとして動かないし、表情も変わりません。でも物語によって意味付けされて、違うものに見えてくるのも面白い体験でした。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

・詳しい目のあらすじ

 上野美術館アネックス(別館)に展示されているイケてない二体の彫刻が、夜な夜な動き出す。2500年前のギリシャで製作された石製の〈スフィンクス〉(嶋村みのり)と、ロダンの「考える人」のパロディー作品で2014年に日本人に作られた〈考えない人〉(大畠英人)だ。「別館は本館のオマケのような存在で来場者が少ない」と二体は嘆いている。〈考えない人〉は本物のアートである「考える人」になるべく、毎晩、手足を曲げる練習をしている。〈スフィンクス〉は彼を励ます。

 ある夜、下っ端学芸員(武田桂)が二体を見比べに来て、去って行った。〈スフィンクス〉の本館展示時代の友人である能面(武田桂)がやってきて言うには、二体のどちらかが美術館の60周年記念行事のメイン展示に選出されるらしい。仲間のはずだった二体は突如としてライバルに。学芸員はSNSで人気上昇中の〈考えない人〉がメインにふさわしいと思っているが、高名な研究者は〈スフィンクス〉を推している。悩んだ末に彼は〈スフィンクス〉を選んだ。研究者が自分の次のポストを用意してくれるからだ。

 〈スフィンクス〉は勝ち誇って本館へと移っていった。〈考えない人〉は落ち込み、自分は何者かと自問する。やがて学芸員が慌ててやってきた。なんと〈スフィンクス〉は約70年前に日本人が作った偽物だったと判明したのだ。肩を落として別館に戻ってきた〈スフィンクス〉は言う。「ギリシャから来た本物だとあれほど言われ続ければ、自分自身もそう思い込んでしまうものなのだ」と。パロディ、レプリカ、イミテーション、フェイク…。二体は自分たちの存在意義、価値について悩み、学芸員は〈スフィンクス〉のことを世間に公表すべきかどうか悩む。黙っていれば誰も傷つかないが、バレなければいいのか?

 突然、白いロングスカートに肩までの豊かな黒髪を持つミューズ(武田桂)が現れた。ミューズは〈スフィンクス〉と〈考えない人〉の悩みを聞き、相談にのる。ミューズから「あなたの作者の日本人は、ギリシャが大好きだったのだ」と言われ、〈スフィンクス〉は少し元気になる。ミューズは〈スフィンクス〉に一輪の花(ガーベラ)を差し出し、ありのままでいることを説いた。※ガーベラが生花か造花かわからないのが良かった。
 「アート(芸術作品)は決して人間に話しかけてはならない」という“ミューズの掟”を破った二体は、ミューズからのお仕置きに怯えるが、「人間(学芸員)も求めていたなら問題なし!セーフ!」だった(笑)。

 学芸員は悩んだ末に「偽物を展示する企画」を思いついた。それが実現すれば〈スフィンクス〉は主役になれるから、倉庫に閉じ込められてお払い箱になることはない。そして美術館の名誉も守られる。60周年記念のメイン展示は順当にいけば〈考えない人〉になるだろう。しかし〈考えない人〉はそれを断った。〈考えない人〉の顔はなぜ笑顔なのか。天に向かって両手を広げるポーズにはどんな意味が込められているのか。そのことを考えて、別館で今の自分を知り直す、やり直すと言うのだった。

 LED照明で白い壁を照らし、さまざまな色合いで空間の印象を変えていきます。気楽に観られるコミカルな内容で、上手では電子ピアノの生演奏(加藤亜祐美)あり。演奏者に天使の役(?)をさせたのも楽しかったですね。ダンスの振付は少々古い気がしました。

 〈スフィンクス〉は四つん這いで顔は正面を向いてます。〈考えない人〉は右足を台の上に置いて立ち、両手を空に向かってあげて笑顔を浮かべます。彫刻のポーズに戻る瞬間の動作が決まっているのが良かったです。
 作・演出を手がけ3役を演じた武田さんは、能面役で、歌舞伎役者のような語りをしっかり聞かせてくださいました。あれは拍手起こりますよね。

 「ギリシャの本物のスフィンクスになりたい」と望む〈スフィンクス〉に対し、ミューズは「2500年前のギリシャ人の彫刻家にインスピレーションを与えることはできる。しかしスフィンクスの形になれるかどうかはわからない。私が出来るのはそこまでだ」と言います(「そんな重大な決断を今すぐにはできない」と〈スフィンクス〉は断ります)。私はこの提案がとても面白いと思いました。ミューズはあくまでも詩神であり、実際に創作をして形を決めるのは人間なんですね。

14:30~/19:30~
出演:大畠英人 嶋村みのり 武田桂 
演奏 : 加藤亜祐美 
脚本/演出:武田桂
作曲:加藤亜祐美
振付:岸下香(M1・M5・M8)
照明:大平久美
ヘアメイク:PAO
撮影:山崎智彦
宣伝美術:谷村友(フライヤー、当日パンフレット)
チケット予約:松木アートオフィス
全席自由 3500円
https://www.facebook.com/kei.takeda.90/posts/1125780110892668
https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1468490929924380&id=350928598347291

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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