てがみ座『燦々―さんさん―』11/03-13座・高円寺1

燦々―さんさん―
燦々―さんさん―

 長田育恵さんの戯曲を上演する劇団てがみ座の新作。江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎の娘で同じく絵師のお栄(おえい)を軸に、彼らの絵のモデルとなった庶民を描きます。上演時間は約2時間10分(休憩なし)だったような…うろ覚えです、すみません。

 気づいたらほろり、ほろりと涙が流れていて、自分でも少し驚きました。たぶん、女性である私のことをわかってくれて、肯定もしてくれたように感じたからではないかしら。舞台上で静かに交わる男女の姿から、体と心は不可分なものだと改めて確かめられました。また、一人の人間から発せられる声、言葉、動作、そして絵などの創作物も、心身とあわせてひとつなのだ、そうあるべきなのだと、思いました。

 てがみ座のお芝居は、今回もとても澄んだ世界でした。細い、細い糸が時々震えて、その振動を目で愛でて、心で噛みしめるような繊細さがあって…小さいけれど健やかで柔らかな希望も見つけられる、優しい時間でした。

 アニメ映画『百日紅~Miss HOKUSAI~』↓も主役はお栄。面白かったです。

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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
北斎が娘 お栄 二三歳
この世の光 闇の色、
描き尽くしてやらァ

江戸後期、黒船が泰平の眠りを覚ます少し前――。
お栄は鬼才の絵師・葛飾北斎を父に持ち、物心着く前から絵筆を握ってきた。幼い頃から北斎工房の一員として、男の弟子たちにも引けを取らずに、代作もこなし枕絵も描いてきた。けれど本物の絵師になりたいと肝を据えたとき痛感する。北斎の影から逃れ、自らの絵を掴むには、女である自分を受け入れ、見つめなくてはならないと。
折しも出島からシーボルト一行がやってきて北斎工房に大量の絵を発注する。百枚の肉筆画を西洋の画法で描くようにと。絵師たちに新たな風が吹きつける。お栄は、自らの光と闇を見出そうと挑んでいく……。

北斎の異才を受け継ぎ、のちに『夜桜美人図』『吉原格子先之図』を描き出すお栄(応為)、その青春期の物語。
 ≪ここまで≫

 透け感のある白くて大きな紙(布?)が数枚、天井から吊り下げられ、舞台奥を覆っています。天井の手前側にも同じ紙が数枚。風でわずかになびいています。最初はそれ以外にはほぼ何も見当たらない抽象美術で、竹の棒を持った和服の人々が、江戸時代の暮らしを立体化していきます。腰をぐっと下げて歩くのがかっこい~。

 北斎といえば風景画が有名ですが春画も欠かせませんよね。男女が体を重ねるいくつかの場面には、それぞれに意味が託されているように見えました。露骨な性描写はなく、むしろオブラートに包む表現を選んでいるのに、体温や汗などの生々しさが感じ取れます。おそらく、庶民の生活の一部として成立してるからではないでしょうか。人間の営みとして自然で、清々しいんですよね。

 個人的に舞台の濡れ場は得意ではないんですが、このお芝居では必然性も必要性もあると思いました。特に女性の性愛に焦点を当てているのが素晴らしいです。性と愛は切り離せないんですよね。
 
 北斎が住む長屋のはす向かいに暮らす、蕎麦屋の妻おみねを演じた福田温子さんの演技が良かったです。足の裏の土を払う仕草が最高でした。福田さんは遊女や吉原で働く女性も演じています。

 主役のお栄を演じる三浦透子さんは初舞台だそうです。可愛らしいですし、芯が強そうなところが魅力的で、役柄にも合ってそうなのですが、演技はどうしても拙く見えてしまいます。父親の北斎役が加納幸和さん(花組芝居座長)ですし、劇団員の方々も達者なので…ご事情があるのでしょうが、私にはちょっと厳しかったですね。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 大きな紙を竹の棒でくるんで、赤い照明をあてて火事を表現した時はゾクっとしました。5つの木製の台(四つ足の低いテーブル)を移動させてつなげて、日本橋が現れた時も嬉しくなりました。

 熱湯をかぶって不能になってしまった蕎麦屋の主人・辰(中村シユン)は、それでも結婚してくれた妻・おみね(福田温子)を不憫に思い、妻に他の男性と関係を持たせます。おみねは辰の言うとおり他人に抱かれますが、行為の最中も「この相手は辰なのだ」と信じようとしている様子(辰ともアイコンタクトを取っていたと思います)。それを偶然見かけたお栄は、抱き合う2人の姿を描き、相手の男性の顔を辰の顔にするのです。出来上がった絵を見た辰とおみねは、お栄に礼を言います。このシーンから一気に物語の中に入っていけました。セックスは本来好きな人とするもので、好きでない人とは、本当の意味では、できないのだと思います。

 豪華な衣装とヘアメイクのおいらん霧里(速水映人)が登場してびっくり。速水映人さんは霧里と、枕絵が得意な池田善次郎(画号:渓斎英泉)の二役を演じています。大衆演劇出身の俳優さんなんですね。所作が美しくて、歩くだけでも濃い時間が流れました。

 ある金持ちの男性に身請けされることになった霧里は、吉原を去る前に自分の姿を絵に残そうと、女性浮世絵師のお栄を指名します。霧里は9歳で吉原に来て以来、自分をずっと支えてくれた年上の夕霧(石村みか)をとても大切に思っていました。でも夕霧はどうやらひどい梅毒を患っており、その原因(相手の男性)は霧里を身請けする人物なのです。一番大事な、最も愛している人を裏切り、自分だけが「幸せ」になることに苦しむ霧里。お栄は一晩かけて彼女を絵に描きますが、自分の未熟さを思い知るばかり。

 才能のない絵師と離縁したお栄が思いを寄せるのは、自分と同じく北斎の弟子だった池田善次郎。でも善次郎は芸者の妹たちを世話してくれた、吉原で働くお滝(横山莉枝子)と暮らすことになります。善次郎もお栄に応える気持ちはありますが、2人は絵師として同志の間柄。「朝が来るまで、2人で絵を描こう」と、一緒に外に出て行くのが微笑ましいです。おそらく結ばれたのでしょう。朝帰りしたお栄は髪をおろして、大人っぽくなっていました。

 筆を進ませるお栄が見つめる先(舞台奥)に霧里、夕霧、お滝(霧里じゃなくて、おみねだったかしら…)の姿がぼんやりと現れる場面が、胸に沁みました。お栄の目を通して現れる庶民の姿は、悲しくて美しいです。特に女性の心が描かれているように見えて、自分が共振しているのを実感しました。
 女性役のことばかり書いているのは強く印象に残ったからですが、それは男性役(北斎やその弟子たちなど)がいいコントラストになっていたからでしょうね。

≪東京、兵庫≫
日本劇作家協会プログラム[座・高円寺 秋の劇場19]
平成28年度文化庁芸術祭参加公演
フェスティバル/トーキョー16 連携プログラム
出演:三浦透子、加納幸和、石村みか、福田温子、箱田暁史、岸野健太、横山莉枝子、実近順次、中田春介、伊東潤、速水映人、中村シユン
脚本:長田育恵 
演出:扇田拓也
美術:杉山至+鴉屋
照明:佐藤啓
音響:笠木健司(クロムモリブデン)
映像:浦島啓(コローレ)
衣裳:阿部美千代(MIHYプロデュース)
ヘアメイク:奥野展子
演出助手:大野裕明(花組芝居)
舞台監督:杣谷昌洋
イラスト:五十嵐大介
題字:髙橋藍夏
宣伝美術:鈴木勝(FORM)
制作:有本佳子(プリエール)、和田幸子、新居朋子
助成:芸術文化振興基金、公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団
提携:NPO法人劇場創造ネットワーク/座・高円寺
後援:杉並区
主催:てがみ座 
一般4,500円 25歳以下3,500円
※未就学児入場不可
http://tegamiza.net/take17/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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