世田谷パブリックシアターがプロデュースする前川知大さん作、演出の舞台『奇ッ怪』シリーズの第3弾です。主演は仲村トオルさん。第1弾でメルマガ号外を発行しました。第2弾で前川さんは読売演劇大賞の大賞と、最優秀演出家賞を受賞。
私たちが既に失ったもの・ことたちの声、姿を見つけて、味わう時間になりました。てがみ座『地を渡る舟』でも実感したことを再び体験。前川さんがこのお芝居を通して観客に伝えたことを、観客がまた誰かに伝えていく。語り継ぐことで生まれ、変容していく歴史について考えました。
原作の柳田国男著「遠野物語」の文庫本がロビーで買えます。
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≪あらすじ≫
“標準化政策”下にある架空の日本。活字にしていいのは化学的に証明できる事実のみで、迷信、虚構の類は話すことしか許されない。方言も禁止。
作家ヤナギタ(仲村トオル)が拘束されている警察の取調室に、外部専門家の東大教授イノウエ(山内圭哉)がやってくる。作家が自費出版した本の内容は、東北の青年ササキ(瀬戸康史)から直接聴いた話だった。それらは果たして事実と呼べるのか、それともただの妄想か?
≪ここまで≫
岩手県遠野地方の昔話をする内に、その風景が見えてきて当事者感覚になってしまうという霊媒体質の若者(瀬戸康史)や、その祖母ノヨ(銀粉蝶)の語りを、舞台上の人々が劇中劇で再現していきます。衣装はほぼそのままで、同じエピソードの中で演じる役が次々に変わり、取調室の現実と並行して進みます。
“標準化政策”という言葉だけで自民党の恐ろしい改憲草案がすぐに頭に浮かび、このお芝居と私の今の生活とを重ねてしまったのですが、“標準化”はいつ、どの時代でも起こっていたのだろうと思い直しました。たとえば私は大阪で生まれ育ちましたが、幼い頃通っていた学校の教科書は大阪弁ではなく標準語でした。標準語が広まったのは明治時代中盤以降です。井上ひさし作『國語元年』はその少し前の時代のお話ですね。
憲法公布70年:「24条改正への布石ではないか」批判も – 毎日新聞 https://t.co/UoHh20iLh6 「家庭教育支援法案」についての記事です。
— 山口智美 (@yamtom) 2016年11月2日
出演者の中では銀粉蝶さんの演技が好きでした。俳優の体を媒介にして、銀粉蝶さんご自身や役人物でもない誰か、または人間ではない何かが現れているように見えたからです。いくつもの層(レイヤー)がつぶさに見て取れる演技に惹かれます。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
山内圭哉さんが上手から登場して、ご自身として観客に語り掛けるようなオープニングでした。山内さんが大阪弁で「なぜ書き言葉が標準語に統一されてしまったのか(大阪だったら大阪弁で書いてもいいのでは)」とおっしゃって、その通りだなと思いました(山内さん個人の発言ではなく全てセリフです)。標準語が存在することも大変ありがたいですが。
ある金持ちの家に先祖の霊が蛇として現れたが、使用人たちは蛇を皆、退治して梨の木の下に埋めてしまった。後日、その木から生えたキノコを食べた使用人や主人は全員死亡。一人だけ生き残った娘も路頭に迷ってしまい…というエピソードが好きでした。
昔、「神隠し」としか言えないような出来事があったかもしれない。たとえば口減らしのために娘を売ってしまったことを、「神隠しだ」と言うことで、悲しみを乗り越えたのかもしれない。教授の奥さんはソースを買いに行ったっきり、行方不明になっていました。でも彼の場合は「神隠しだ」などと言ってあきらめることはできない、しないと決心しているのでしょう。生きる苦しみと向き合うには抽象化、具体化など、人それぞれの方法があって、正解はないんですね。
終盤で、教授は突然現れた若者(既に死んでいるササキの幽霊)の姿を目にして驚きますが、やはり「作家の本は事実ではなく迷信だ」と判定。作家は正式に逮捕されてしまいます。でも手錠を付けられた作家は落胆することなく、教授に対して「伝えましたからね」と言うのです。事実であれ虚構であれ、人が誰かに伝えた物語は、受け取った人の中に存在します。
最後に山内さんが読んだ「願はくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」とは、柳田国男著「遠野物語」の序文にある言葉だそうです(チラシの前川さんの言葉より)。
舞台中央から上部には和紙のような質感の巨大なパネルが吊り下げられています。筆(?)で全面に描かれているのは文字や絵というよりも、模様。中央部分は天狗の鼻に見えたりも。映像と照明で印象がガラリと変わります。赤地に黒文字かと思いきや、生成り地に蛍光緑になったり。一体どういう素材なのかしら~。ただ、NTLive『ハード・プロブレム』と同様、単調でちょっと退屈したりも。
舞台上部にあるのはパネルだけで、俳優は床と取調室スペースを使い、2階、3階などはありません。こういう空間の使い方なら、世田谷パブリックシアターではなくてシアタートラムで観たいかなと思いました。
「遠野物語・奇ッ怪 其ノ参」のパンフレット、読み応えあって、静かな主張も伝わってきて凄いな〜と思ったら編集・執筆が大堀久美子さんだった。いつもありがとうございます。 pic.twitter.com/q4LhiuhEC5
— 高野しのぶ (@shinorev) 2016年11月4日
※舞台写真は主催者よりご提供いただきました。
≪東京、新潟、兵庫、岩手、宮城≫
出演:仲村トオル 瀬戸康史 山内圭哉 池谷のぶえ 安井順平 浜田信也 安藤輪子 石山蓮華 銀粉蝶
原作:柳田国男(「遠野物語」角川ソフィア文庫)
脚本・演出:前川知大
【美術】 堀尾幸男
【照明】 原田保
【音響】 青木タクヘイ
【音楽】 ゲイリー芦屋
【衣裳】 伊藤早苗
【ヘアメイク】 宮内宏明
【演出助手(ドラマターグ)】 谷澤拓巳
【舞台監督】 田中直明
料金:一般 S席7,500円 A席5,500円 高校生以下・U24は一般料金の半額
友の会会員割引 S席7,000円 せたがやアーツカード会員割引 S席7,300円
発売開始:10月2日(日) 12:00~
https://setagaya-pt.jp/performances/20161031toon
※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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