公益財団法人宮崎県立芸術劇場『神舞の庭』10/23-10/25メディキット県民文化センター・イベントホール(アーカイブ配信)

 長田育恵さんが書き下ろした戯曲を宮崎県立芸術劇場演劇ディレクターの立山ひろみさんが演出する、宮崎県立芸術劇場のプロデュース公演です(⇒初演)。長田さんご自身による朗読を東京で拝聴してまして、上演を観たいと思っていました。

 2021年3月のアーカイブ配信を拝見しました。上演時間は約2時間15分、休憩なし。

≪あらすじ≫ http://www.miyazaki-ac.jp/index.php?page_id=1075
宮崎の山間にある集落で、代々その地区の神楽を受け継いできた中崎家。祭りの前日、実家で暮らす次男・亮二夫婦のもとに、東京在住の長男・俊一が、突然妻子を連れて帰って来る。同日、老母・登志子が倒れて昏睡状態になってしまい…。混乱の中、中崎家の人々が抱える悩みが次第に明らかになっていく。
≪ここまで≫

 戯曲が何を描いているのかを真摯に探り当てて、登場人物それぞれの役割を確認し、座組全体で丁寧に立体化していったのだろうと感じられる舞台でした(映像で見た限りですが)。会話が重ねられるごとに場の密度が伝わってきて、物語に引き込まれました。説明ではなく会話から自然に『神舞の庭』の世界が立ち上がってきて、私はこういうお芝居が観たいんだよなぁとしみじみ嬉しく思いました。

 こういう感覚は久しぶりでしたね…。配信は公演によって映像や音声の品質、カメラワークのセンスもバラバラですし、我が家のWi-Fiが常にベストの状態というわけでもないので、環境に左右される部分が大きいと思います。

 ここからネタバレします。間違いはあると思います。すみません。

 舞台は限界集落と呼べそうな宮崎県の山奥の村にある中崎家。時は伝統の神楽を舞う祭りの前日。子供のない次男夫婦が守る築百年の古家に、約10年ぶりに長男家族が帰省した。長男・俊一は東大卒のエリートで、東京オリンピック・パラリンピック2020の競技場を建設する大企業に勤めている。妻・美映子は海外出張もするビジネスマンで、16歳の息子・昇は有名進学校の一年生。夫婦仲はうまくいっておらず、高一の昇は他人とコミュニケーションを取ろうとしない。特に俊一と昇は仲が悪そうだ。

 俊一と美映子は息子・昇の気持ちをそのままに聴き、受け入れるような両親ではない。子供を頭ごなしに叱責するタイプだ。昇が学校でクラスメートのアップルウォッチを盗む事件を起こした時、俊一は昇をかばうために担任教師を怒鳴りつけ、土下座させていた。昇が登校拒否をしているのはその時期からだ。

 次男・亮二は過疎が進む村を盛り上げようと茶畑をつくり、外国人労働者を迎え入れて神楽も教えたが、なんと祭り前日に逃げられてしまった。しかも金も盗まれていており、亮二はひどい裏切りに落胆して、激昂する。村の長老(?)は外国人らの代わりに俊一と昇にも神楽を舞えと言うのだが、俊一はかたくなに拒否する。自分にはその資格がない、この村に別れを告げに来たのだからと。

 俊一と美映子は俊一と次男の母・登志子の具合が悪いと知り、将来のことを相談するために故郷を尋ねたのだ。いっそのこと、この家を売って墓も整理し、亮二とその妻・典恵には村を出て都会に引っ越せばどうかと提案する。認知症になった登志子の世話は典恵が一手に引き受けており、兄夫婦は送金をしてきただけだ。彼らの身勝手な言い分に亮二はまた怒りをあらわにするが、村の将来を担う子供は5歳児が一人だけという現実から目を背けることはできない。

 突然、昇が行方不明になる。昇は不思議な少女に導かれて、山の向こうの神社に向かっていた。昇は憶えていないのだが、彼は5歳の時にもその少女に逢い、神隠しに遭ったことがあるのだ。少女の姿は昇にしか見えない。現代の会話劇が進行していた舞台に、少女と昇が語らう異界が生じ、空気が一変する。後からわかるのだが、その少女は軽い脳梗塞を起こして寝ている登志子の生霊だった。

 村中の人々が昇の捜索に協力するが、見つからない。とうとう警察に通報するか…という段階で、長老が中崎家にやってきた。今、ここで神楽を舞えと言うのだ。俊一は苦しい胸の内を明かし始める。彼が担当する建築現場で働いていた若者が自殺したのだ。二転三転したオリンピック競技場の建設計画のせいで、過労が続いたことが原因だ。俊一は、保身のためにその若者を叱責し、追い詰めてしまったのだと自分を責め、不眠症を患って会社も辞めていた。長老は俊一に、全てをさらけ出して神の前で舞えと促す。やがて昇が帰ってきた。長老は何もかもお見通しのようだ。

 居間の大きな座卓を片付けて、長老が持ってきた装飾品(しめ縄?)で壁を飾り、結界をつくる。衣装を着けた亮二と昇、そして俊一が厳かに舞い始めた。やがて昇を誘った少女(つまり登志子)も加わる。中崎家が一同に介した舞は、一族と村の歴史を肉体に宿し、奉納する儀式のようだ(私の主観です)。神楽が終わると夜明けが近づいていた。男たちは装飾を外して結界を解き、女たちが用意した握り飯をほうばった。村は祭り当日を迎える。俊一と亮二は「神楽が終わったら将来の話をしよう」と決めた。

 全体の詳しいあらすじはここまで。

 「男が儀式を執り行い、女が炊き出しをする」という決まりは、序盤では男尊女卑の古臭いしきたりのようにも見えましたが(美映子の反応からも)、厳かに執り行われる神楽(男たち)と、それを支える万全の体制(女たち)を目にすると、あくまでも役割分担であり、性差や上下関係はないのだなと思えました。少女の姿の母・登志子が一緒に舞うのもポイントですよね。神楽は村人全員のものであり、誰かの舞は自分の舞でもあると受け止められました。儀式としての祭りを舞台上に表現してくださったのだと思います。

 近所のおばさん・綾子は、噂好きで世話好きで厚かましいという、いわゆる“困った隣人”風の造形でしたが、新しい情報を持ち込んだり、素っ頓狂な反応で空気を一転させたり、大きな影響力を持つ人物でした。綾子も、次男の仕事仲間の克実も、村の独特の人間関係を体現しており、そこから村の歴史も見えてくるんですよね。生き生きとした人間模様から長い歴史を感じ取れたのは、それらが戯曲にしっかりと書き込まれているからであり、戯曲を中心に丁寧に取り組まれた成果だろうと想像します。

 居間から座卓を除けば何もない空間になり、結界を張れば神楽の舞台となる、日本家屋の魅力が生きた舞台美術でした。木々の隙間からかすかに朝日が差し込むラストシーンが美しかったです。

●長田育恵さんのツイート

●東京公演は残念ながら中止になりました。

「新 かぼちゃといもがら物語」#5『神舞の庭』
出演:
長男・中崎俊一(東京オリンピックの大型建造物の現場担当、過労で自殺した外注先の若い男性に対して罪悪感あり):大沢健
長男の妻・中崎美映子(海外出張するビジネスマン):東風万智子
濱砂喜助(村の長老的存在):貴島豪
次男・中崎亮二(茶畑を始める、外国人労働者を迎え入れたが裏切られる):日髙啓介
次男の妻・中崎典恵(義母の世話に疲れている、子供ができなかった自責の念あり):平佐喜子
海老原綾子(近所の世話好きの女性、噂好き):成合朱美
黒木克実(次男の仲間):森川松洋
少女(祖母の生霊、昇が5歳の時も彼を連れ出した、兄弟と神楽を舞う):高野桂子
長男の息子・中崎昇(高校一年生、登校拒否、少女に誘われて山頂へ):石倉来輝
祖母・中崎登志子(認知症):原田千賀子
脚本:長田育恵
演出:立山ひろみ(宮崎県立芸術劇場演劇ディレクター)
美術:土岐研一
舞台監督:土屋宏之(ユニークブレーン)
照明:工藤真一(ユニークブレーン)
音響:関本憲弘(ユニークブレーン)
振付:齋門由奈(大駱駝艦)
ヘアメイク:渡司マサキ(couleur M)
スタイリング(衣装):松位初美(マチュアー・フィルムズアンドミュージック)
衣裳デザイン・製作:久米亜紀子
演出助手:山田真実
舞台監督:土屋宏之(ユニークブレーン)
大道具製作:満木夢奈(ユニークブレーン)
小道具:景山益美
方言指導:河内哲二郎
演奏指導(創作神楽):木浦剛士(横笛工房 一切空)
演出部:森貴子、脇内圭介
制作助手:森國真帆
宣伝美術:後藤修
宣伝写真:谷口智彦
企画制作:公益財団法人宮崎県立芸術劇場
(全席自由/日時指定)
一般 3,500円   くれっしぇんど倶楽部会員 3,100円
U25割 1,500円 ※鑑賞時25歳以下
ペア割  6,000円 ※一般2枚・前売りのみ
http://www.miyazaki-ac.jp/index.php?page_id=1075
配信サイト:PIA LIVE STREAM
配信期間:2021年 3月3日(水)正午~3月28日(日)23:59
※上演時間/約2時間15分
チケット販売:2,000円(税込)+システム利用料220円

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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