コトリ会議『セミの空の空』12/11-12/16こまばアゴラ劇場

 山本正典さんが脚本・演出される劇団コトリ会議の新作ツアーです(過去レビュー⇒)。上演時間は約1時間10分。鈴木励滋さんの絶賛ツイートを発見し、観に行きました。

≪あらすじ≫ https://stage.corich.jp/stage/102375
ヒトが”二つめの月”をつくり、本格的に光り出す3日前の物語。
“二つめの月”の光は生命体の疲れをとり、ヒトは眠る必要がなくなるのです。意識が覚醒し、潜在的な能力が表出し、感性が研ぎすまされます。その環境によって、目を凝らすと死んだ人、幽霊ですら見えてくるのです。人間の中にも新しい世界を生きる選択をしたものが現れてくるのです。
コトリ会議のつくるSF的で和製ホラーな雰囲気のほんのかすかな運命的物語。
≪ここまで≫

 黒い空間に黒装束の人々が登場。舞台中央から上手にかけて、ひざの高さより少し高いぐらいの台があり、その上に椅子が数脚並んでいる。天上部に架線柱らしきものあり。照明は全編通して暗い目(前説でも言及あり)。

 遺体を堆肥にする「有機還元葬」をちょうど知ったばかりだったので、粒が固まって個体になり、また粒に戻る生物の仕組みを思い浮かべました。
 ⇒「人間の遺体を堆肥にし、自然に還す「有機還元葬」がアメリカ・ワシントン州で合法化される見込み

 脚本・演出の山本正典さんはせんがわ劇場『銀河鉄道のよる』の脚本を担当されています。そのイメージが今作にも共通しているのかなと思いました。山本さんの戯曲を他の人の演出で観てみたいと思ったので、いい機会かもしれません。

 出演者の一人で制作でもある若旦那家康さんの前説が素晴らしくて、開幕前にちょっと涙ぐみました。災害時の誘導について説明したあと、「「(主催者側が)守ってくれる」と思ってください」と締めくくったのです(言葉は不正確かも)。観客は、いや、人間は、それが欲しいのだと思います。

 ここからネタバレします。

 2つ目の月が人工的に生み出され、人間の脳は疲れなくなり睡眠不要に。霊魂も見えるようになるらしい。月の光が常時降り注ぐようになる前に、ゆきこ(中村彩乃)は自分の葬儀をする赤の他人タケ(野村有志)を確保したうえで、タケの目の前で線路に飛び込んで自死した。彼女は死後も夫(浜本克弥)に話しかけ、生死の境は曖昧だ。ゆきこと妹(三村るな)の父母(若旦那家康、牛嶋千佳)はセミになる。

 私は俳優に最も興味がある観客です。出演者の演技に注目して観劇しました。登場人物がセリフを発すると、それに対する返答はあるし、怒鳴り合いや取っ組み合いも起こるのだけれど、本当の意味での交流や変化は起こっていないように感じました。一方通行の独白の応酬が起こり続けている、ひとりごとを言い合っている…と言えばいいでしょうか。双方向のコミュニケーションに対して引け腰で、小さく収まっていようとする現代日本人にあてはまる気がします。

 登場人物たちは他者が言ったこと、やったことを受け入れ、ひたすら振り回され、同様に振り回していきます。野村有志さんの演技は外に開かれ、客席を含む他者に対してコミュニケーションを求めているように見えました。でもそれを受ける側の登場人物は、言葉で応答はするものの影響を受けないし、特段、彼に影響を与えたいとも思っていない様子でした。

 つまり、物語では多くのダイナミックな変化が起こるものの、舞台上にいる出演者の内面には変化が起こっていないようでした。努めて冷静にふるまおうとするのも現代的です。可笑しなやりとりも多発しますが、観客が声を出して笑うところまでいかないのは、不完全燃焼や寸止めを意図しているのかなと思いました。小さな、小さな声を空間に響かせるためのストイックな選択なのかもしれません。
 ※前説で目を凝らして、耳を澄まして鑑賞することを勧めていました。

 蛇足ですが、現代演劇の新作戯曲で、長い独白で構成されているものによく出会います。あまりに生きづらく、残酷な世の中です。そうなっても仕方ないという気はします。

 開場時間にKAN「愛は勝つ」が流れ続けていました。同じ曲のヘビロテはきつかった…。

KAVC FLAG COMPANY 2019-2020参加作品 
≪兵庫県、東京都、福岡県≫
出演
ゆきこの母:牛嶋千佳、死んでいる男(ゆきこの夫に話しかける):まえかつと、ゆきこの妹:三村るな、ゆきこの葬儀をする男・タケ:野村有志(オパンポン創造社)、ゆきこ:中村彩乃(安住の地/劇団飛び道具)、ゆきこの夫:浜本克弥(小骨座)、ゆきこの父:若旦那家康
脚本・演出:山本正典
舞台監督 柴田頼克(かすがい創造庫)
音響 佐藤武紀
照明 石田光羽
演出助手 要小飴
美術 竹腰かなこ
小道具 伊達江李華(小骨座)
衣装 松崎雛乃
宣伝美術 小泉しゅん(Awesome Balance)
イラスト 牛嶋千佳
制作 若旦那家康
主催 コトリ会議
共催 神戸アートビレッジセンター(KAVC) <神戸公演>
   久留米シティプラザ<久留米公演>
提携 ㈲アゴラ企画・こまばアゴラ劇場<東京公演>
【発売日】2019/09/14
一般 2,800円
22歳以下 2,000円
高校生以下 1,000円
関東1都6県以外割 700円
当日券 3,200円
未就学児童の入場は不可
http://kotorikaigi.com/
https://stage.corich.jp/stage/102375

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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