新国立劇場演劇『骨と十字架』07/06-07/28新国立劇場小劇場THE PIT

 パラドックス定数の野木萌葱さんが新国立劇場に新作を書き下ろし、芸術監督の小川絵梨子さんが演出されます。私はプレビュー2日目に拝見。上演時間は休憩15回を含む、約2時間10分。

 開演前に小川さんの挨拶があり「点数はつけないで」と懇願されていたので(笑)、アンケートの評価点数は空欄にしました。多くの観客がアンケートを提出していたように思います。本公演は7/11開幕です。

 早めに劇場に行って「初台アート・ロフト」を見てきました。見たというよりは、参加した!音響機材を全部触っちゃいました(笑)。楽しかった~~~♪ 観劇前もしくは後に時間の余裕を持ってぜひ新国立劇場へ!

 ↓安い席、あります。覚えておきましょう!

≪あらすじ≫ 公式サイトより抜粋
進化の道をたどることは神に反することなのか――
実在した、古生物学者・神父テイヤールが信じる道とは……

進化論を否定するキリスト教の教えに従いながら、同時に古生物学者として北京原人を発見し、一躍世界の注目を浴びることとなったフランス人司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの生涯。どうしても譲れないものに直面したとき、信じるものを否定されたとき、人はどうなっていくのか、どう振舞うのか。歴史の中で翻弄されながらも、懸命に、真摯に生きた人々を描きます。
≪ここまで≫

 5人芝居の登場人物は全員が男性、職業は司教。潔い企画だなと思います。凸型に伸びるステージを客席が凹型に囲む舞台は、上から見ると十字架になる教会のよう(中央奥は見えませんが)。ごつごつした岩と美麗な装飾がほどこされた教会の柱が溶け合う装置が、中央奥にそびえています。自然と文明の共存、または対立を想像しました。家具類も含め、古めかしさが香っているのもいい雰囲気です。

 物語の柱をキリスト教、生物学、教会という具合にシンプルに、ストイックに固めているおかげか、小さな世界の昔の話を、今の自分の社会に引き寄せやすかったように思います。誰が何を言っても「あー、こういうこと、よくあるよね…」と感じるというか。

 男性同士の師弟関係、上下関係、ライバル関係からはっきりと見えてくる友情、憧憬、嫉妬などは、野木萌葱さんの得意とするところで、登場する男性たちが思い切り強がって議論をする姿が可愛らしく見えてくるんですよね。いわゆる「萌え」要素だと思います。

 そう思うと、少々真面目すぎる印象も受けました。セリフひとつひとつの根拠となる意志、感情などをすべからく表現することは、緻密な会話劇を成立させる重要な手法だと思いますが、野木戯曲の会話については、言葉だけがぶつかり合う軽快さをもっと採用してもいいのではないか。遊びや笑わせる工夫も、もっと多くてもいいのではないかなと思いました。

 ↓今作のもとになった本だそうです

神父と頭蓋骨
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ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 カトリック教会の神父であり古生物学者でもあるテイヤールは、ダーウィンの進化論も知っており、「最初の人類はアダムである」と認めることができません。学問と信仰の両立というテーマは、現実と理想の対立と似ていて、多くの人間が悩んできて、今も悩み続けている課題だと思います。

 イエズス会がどうとかバチカンがどうとか、もう総長じゃないから好きなことが言えるとか、個人と組織の問題だって、いつでもどこでもありますよね…。家庭、学校、職場などに当てはめて観ていました。あぁ人間って…面倒くさい……。

 ラグランジュは「神は人間の上(天)にある」と言いますが、テイヤールは違っていて、「神は人間が歩いていく先にある」と言います。これは非常に重要で、象徴的な相違点だと思いました。人間は生まれながらに不平等だとか、運命は決まってるとか、自分一人の力ではどうにもならないなどと思いがちですが、「そうではない」という主張だと受け取りました。自己嫌悪とコンプレックスを持つことがとにかくダメなんだと、何かで読みまして(たぶん美輪明宏さんの「悩みのるつぼ」)、またその思いを新たにしました。

 ベタですが、福沢諭吉の「学問のすゝめ」には「神は人の上に人を造らず」とあります。誰か(何か)の下に自分を置くと、自分の下に他者を置くことも平気になります。誰かへの隷従は、他者に自分への隷従を強いることにもつながってきます。他者と同じ高さでいたいものですね、お互いへの敬意を忘れずに。

 先日見た映画「太陽の塔」で「自発的隷従論」(1576年、エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ著)を知りました(読んではいません)。誰かが権力者に隷従すると、その隷従者に隷従する者が次々に出てきて、延々と下に広がってピラミッドになっていくアニメーションがあったんです。隷従者を従える者たちはあぐらをかいていきます。素晴らしい映画でしたので、よかったらぜひご覧ください。

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 副題(?)の「Keep Walking」は「夢、理想、信仰、学問の道を歩き続けよ」という励ましではないか…などと考えました。孤独を選ぶことになる、厳しい道ですが。

■批評など

■劇作家

≪東京都、兵庫県≫
出演
テイヤール:神農直隆、総長:小林隆、リサン(テイヤールのライバル):伊達暁、リュバック(テイヤールを慕う):佐藤祐基、ラグランジュ(テイヤールの敵):近藤芳正
※田中壮太郎の代役として神農直隆
脚本:野木萌葱
演出:小川絵梨子
美術:乘峯雅寛 照明:榊美香 音響:福澤裕之 衣裳:前田文子 演出助手:渡邊千穂 舞台監督:藤崎遊
【発売日】2019/05/11
(プレビュー公演)A席:5,400円 B席:2,160円
(本公演)A席:6,480円 B席:3,240円 Z席 1,620円
就学前のお子様のご同伴・ご入場はご遠慮ください。
https://www.nntt.jac.go.jp/play/keepwalking/
https://stage.corich.jp/stage/100148

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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