劇団文化座『アニマの海─石牟礼道子「苦海浄土」より─』06/13-06/23俳優座劇場


 

新装版 苦海浄土 (講談社文庫)
石牟礼 道子
講談社
売り上げランキング: 15,705

 

≪あらすじ≫ https://eplus.jp/sf/detail/2948470001-P0030001P021001
―これは、ある家族の物語―

新しく日本の元号が変わって、昭和という時代はまたひとつ過去の時空へ遠のいていった。
昭和……
大きな敗戦を経験し、復興を果たした日本人は、ついに高度成長期を迎えて、めまぐるしく変貌した。この作品は、そんな繁栄と華やぎの陰で、じくじくと己の肉体を蝕まれ、生命さえも脅かされた人々の声なき声を描いていく。

九州……
美しい自然の恩籠に包まれて生きる不知火海の人々は、四季の移ろいを信じるように、身に降りかかる貧しさや、不幸の兆しさえ疑うことを知らず、何もかも受け入れる優しさの中で生きていた。
当時、一介の主婦であった石牟礼道子は、この人々が遭遇している数々の不思議の中に、のっぴきならぬ気配を感じ取り、克明に記録を重ね、やがて水俣病患者となった彼らに寄り添う日々を送り続けた。幼い時から、水辺に生きる小動物や、野辺の名もなき花にさえ心を映す気性の彼女には、肉体を冒された者たちや、追いつめられた家族たちとも語らう術があった。……どんな人々とでも、魂の奥底に分け入って語り合えるという術が。遠い日の、この地方の先祖たちの蜂起(天草・島原の乱)を記憶に持つ彼女は、無垢な人々の見えない敵が、この地で優勢を誇ってた大企業であることを感じ取り、地元の雑誌などに切々と魂の告白を続けていった。のちに「苦海浄土」全編を上梓して日本文学史上希有な地位を確立し、世界的な作家となっていった石牟礼道子の若き日の姿と、海辺の民の魂(アニマ)の交流を描く。
≪ここまで≫

 祖母、母、息子2人の家族が中心の群像劇で、老齢の女性たちのコミュニケーション方法は庶民が培ってきた知恵だと思いました。英知と言ってもいいのかもしれません。議論とか論破とか…性急に勝ち負けを決めようとする会話(ネット上も含む)に、私自身が疲れきっていたのだな…と気づく機会にもなりました。不愉快かつ不都合な現実を生々しく見せつけることも現代演劇の役割ではあるけれど、人間の優しさ、忍耐強さ、命の尊さなど、世界の美しさを提示してみせることも大切で、今、必要なことだと感じました。もちろん、今、生きている人間の言葉で過去の過ちをよみがえらせることも。

 ここからネタバレします。

 詳しいあらすじを書いてくださっています:https://ameblo.jp/754403/entry-12483190102.html

 患者の言葉を時折、マイクのアナウンスで聴かせる趣向がありました。海の汚染が判明してからも漁師の長男は漁に出つづけ、水俣病を発症します。車いす生活になり会話もできなくなった彼の心の声が、アナウンスで流れるようになった時に、ようやく意図がわかりました。家族や仲間に囲まれていても、アナウンスで劇場に流れる彼の声が聴こえるのは、石牟礼道子さん(がモデルになった女性)だけなのです。彼女が患者の思いを「苦海浄土」にしたためることになります。

 冒頭から舞台奥に静かに存在していたワンピース姿の少女は、チッソ社員の娘でした。彼女は胎児性水俣病で、立って歩くことも、言葉を発することもできません。お芝居の最後に彼女が父母のそばに歩み寄り、母のひざもとに横たわります。表情は能面のよう。そこでやっと彼女の正体がわかります。

[出演]佐々木愛、祖母:有賀ひろみ、漁師の坂上:阿部勉、母:高村尚枝、佐藤哲也、白幡大介、坂上の後妻(のちぞえ):瀧澤まどか、石崎君子(石牟礼道子):姫地実加、長男:藤原章寛、チッソ社員:井田雄大、次男:斉藤直樹、チッソ社員の妻:小川沙織
[脚本]杉浦久幸 [演出]栗山民也 照明:服部基 音響:井上正弘 衣装:西原梨恵 音楽:国広和毅 舞台監督:高橋良直 宣伝美術:司修 演出助手:米山実 水原葵 制作:中山博実 特別協力:藤原書店
一般:5500円
Uシート:4000円
高校生以下:3000円
※Uシートは座席の一部(前方端席)を割安の料金で観ていただくシステムです。
※Uシート・高校生以下は、直接劇団文化座までお申し込みください。
http://bunkaza.com/theater/anima/animac.pdf
https://stage.corich.jp/stage/100547

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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