シス・カンパニー『出口なし』08/25-09/24新国立劇場小劇場

 小川絵梨子さんがサルトル作『出口なし』の上演台本・演出を手掛けます。シス・カンパニーの公演らしく、大竹しのぶさん、多部未華子さん、段田安則さんという豪華キャスト。上演時間は約1時間20分。

 『出口なし』は以前に一度拝見しましたが、今回の方が方向性がはっきりしていてわかりやすかったですね。小川さんの人間に対する愛情は、まっすぐで、優しくて、揺るがないものだなぁ~と思いました。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
とある一室に、それぞれ初対面のガルサン、イネス、エステルの男女3人が案内されてきた。
この部屋には窓もなく、鏡もない。
これまで接点もなかった3人だったが、次第に互いの素性や過去を語り出す。
ガルサンはジャーナリスト、イネスは郵便局員、そして、エステルには年が離れた裕福な夫がいたという。
それぞれがここに来るまでの話はするものの、特に理解し合う気もない3人は、互いを挑発し合い、傷つけ合うような言葉をぶつけ合う。
そして、この出口のない密室でお互いを苦しめ合うことでしか、自分の存在を確認する術もない。
なぜ3人は一室に集められたのか・・・。
ここで、彼らは何らかの救いを見出せるのだろうか?
≪ここまで≫

 舞台はソファ3脚とブロンズの胸像、そして出入口が1つあるだけの部屋。床の模様はエレガントかつデラックスなデザインで、上下(かみしも)は赤いシックなカーテンに包まれており、中央奥にあるドアはコンクリートを思わせる強固な壁に埋め込まれています。

 3人がそれぞれの主張や、生き方そのものをぶつけ合う、シンプルな会話劇です。あくまでも私が観た回(8/28ソワレ)についてですが、演技が全体的に急ぎすぎのように感じました。相手の反応を受け取る前に、(予定どおりの)行動を起こし、実際に舞台で起こっていることをその場、その瞬間に味わわずに、流れを先取りして進んでしまうのです。慌ただしくて物語に入りづらかったですね。
 
 でも終盤では、3人それぞれの過去、欲望、目的、課題がはっきりしてきて、みつどもえの戦いにリアリティーがあり、スリルも増していきました。

 ここからネタバレします。正確性は保証できません。

 3人は別々に、ボーイ(本多遼)に案内されて部屋に入ってきます。3人の共通点は既に死んでいること。
 ガルサン(段田安則)は戦地から(?)逃亡したジャーナリストで、他者に認められたいと甘える弱虫です。自立した大人の女性イネス(大竹しのぶ)は同性愛者のようで、若く美しいエステル(多部未華子)に横恋慕しますが、その思いは叶いそうにありません。嬰児殺しの過去があるエステルは、男性に肉体的に愛されないと生きていけない“魔性の女”タイプで、無理やりガルサンに迫ります。

 ガルサンがエステルの誘惑に応えられればカップルになれるのですが、エステルはガルサン本人のことは何とも思っていないので(苦笑)、ガルサンは満足できません。イネスはイネスで、ガルサンに優しくする気はみじんもなし…。誰が何を求めても決して叶わない、ぐるぐると回り続ける不毛な三角関係になるんですね。まさに「出口なし」です。

 鏡がない密室で自分の顔を見るためには、他者の眼球に自分の姿を映して覗き込むしかありません。それは人間が、他者がいなければ自己存在を確かめられない生き物であることを表しています。人間は一人では生きていけないことの証左とも言えますよね。でも他者は異物であり、決して同一化できないので、望みは叶わない。それが人間の「地獄」なんでしょうね。この世もあの世も、その間にある「部屋」も。

 パンフレット(500円)の小川さんの文章には「「生き続けなければならない」というネガティブな意味ではなく、「生き続けてよいのだ」という肯定ではないか」「言わばこれは人間賛歌の芝居です」とあります。そういえば、拒まれても他者を求め続ける厚かましいほどの執念深さや(笑)、拒んだ相手を無視しない姿勢はとても微笑ましく、3人ともが全員を必要だと認めているようにも見えました。生きるための希望を共有する共犯関係とも言えるでしょうか(死んでるけどね!)。

 これから永遠に続く3人だけの時間を、ポジティブにとらえることができるエンディングにもなっていて、それは『出口なし』という戯曲の「不条理で不幸で恐ろしい」といった印象を払拭するものでした。私はやっぱり、小川さんの演出が好きですね。人間を根本から肯定し、愛する決意を感じます。

 部屋から現世を眺め、今、何が起こっているのかを独白で伝えることが何度もあります。照明が青白くなり、音楽も鳴るので、場面の変化がわかりやすかったです。終盤になると3人は、それぞれの立場を理解して、「地獄」に臨む覚悟ができたようでした。腹が据わった3人を白く照らす明かりが美しかったです。

≪東京、大阪≫
出演:大竹しのぶ 多部未華子 段田安則 本多遼
作:ジャン=ポール・サルトル
上演台本・演出:小川絵梨子
美術:松井るみ
照明:原田保
衣装:前田文子
音響:加藤温
ヘアメイク:佐藤裕子
舞台監督:瀬﨑将孝
プロデューサー:北村明子
企画・製作:シス・カンパニー
一般前売開始:2018年 7月 8日(日)
(全席指定・税込) S席¥8,000 A席¥5,000 B席¥3,000
http://siscompany.com/deguchi/
http://stage.corich.jp/stage/93859

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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