【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所12期生『朗読劇「少年口伝隊一九四五」』07/26新国立劇場地下・Dリハーサル室

 井上ひさしさんが2008年2月に新国立劇場演劇研修所のために書き下ろした『朗読劇「少年口伝隊一九四五」』が、新国立劇場で3年ぶり上演されます。原爆投下直後の広島の様子、広島の人々の思いを“口伝”するのは12期生と修了生2名です。8/1の初日が目前に迫った稽古場に伺いました。⇒前回の稽古場レポート(11期生修了公演)

●新国立劇場演劇研修所12期生『朗読劇「少年口伝隊一九四五」』
 08/01-04新国立劇場小劇場THE PIT
 作:井上ひさし 演出:栗山民也
 A席2,160円 B席1,620円 学生券:A席、B席ともに一般料金の半額
 ※上演時間は約1時間5分(休憩なし)。

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少年口伝隊一九四五
少年口伝隊一九四五

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井上 ひさし ヒラノ トシユキ
講談社
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≪あらすじ≫ 公式サイトより。(俳優名)を追加。
昭和20年8月6日、一発の原子爆弾が広島の上空で炸裂した。
一瞬にして広島は壊滅。このときから、漢字の広島はカタカナのヒロシマになった。
かろうじて生き延びた英彦(石原嵩志)、正夫(福永遼)、勝利(福本鴻介)の三人の少年は、やはり運よく助かった花江(川飛舞花)の口利きで中國新聞社に口伝隊として雇われる。新聞社も原爆で何もかも失ったため、ニュースは口頭で伝えるほかなかったからだ。
三人の少年は、人々にニュースを伝えながら、大人たちの身勝手な論理とこの世界の矛盾に気づいていく。
やがて、敗戦……。そこへ戦後最大級の台風がヒロシマを襲う。
≪ここまで≫

 13時からギター演奏の宮下祥子さんも参加する通し稽古が行われ、栗山さんによるダメ出しが1時間弱ありました。その後、返し稽古をしてから、衣裳合わせへ。そう、今回は衣裳が変わるのです! 演劇的な効果が増して、作品が今の感覚に近づくように思いました。どうぞご注目ください!!

 『少年口伝隊~』の初演から演出を担当されている栗山さんは、新国立劇場演劇研修所の初代所長です。※現在の研修所長は宮田慶子さんです。

 栗山:研修所創設の時、僕は「自立する俳優(を養成する)」と書いたのね。日本人は自立していないから。君たちも、今はまだ拘束されてるなぁ。(セリフは)自分の言葉なんだから、自分で責任を持って。もっと違う歩み方もできるはず。

 『嚙みついた娘』の稽古場もそうでしたが、やはり研修所ですので、栗山さんは演出だけでなく若い俳優に優しく指導をされます。

 栗山:演劇作品は生きている。作品がひとつの生命体として動き出すから、毎回違う。ひとつの作品が呼吸をし始めて欲しい。だから自分の(声の)音をおぼえてしまったらだめだよ。
 栗山:演技を決めると表現になってしまう。生きたものではなくなってしまう。多少のズレを怖がらないで。それぞれの声が、もっとバラバラに聞こえてくるといい。

写真左端から田中麻衣子さん(演出補)、栗山民也さん(演出)
写真左端から田中麻衣子さん(演出補)、栗山民也さん(演出)

 会話劇としてセリフのやりとりを読むこともあれば、声をそろえて群読することもあり、朗読劇ならではの面白さがあります。やはり井上ひさしさんの言葉を読むことが、研修生たちにとっては高いハードルのようです。

 栗山:この戯曲には地の文があるから、肉感的なセリフとの切り替えをハッキリさせていかないと、色んな場面が生きてこない。そのためには実感が必要。セリフを自分の言葉にしていって欲しい。

 栗山:この戯曲は語られている内容がハードだから、言葉の強度を裏付ける発声をしないといけないよ。普通の芝居の何倍ものことを要求する芝居。たとえば、太陽2つ分の熱量で、燃えながら、(セリフを)言って。

 演技をするという意味では、朗読も本格的な上演と同じです。戯曲に書かれた状況、心情を事細かに、体と心で感じながら、確認していきます。

 栗山:もっと劇中の状況の中に入り込んでみて。観客はその状況の中にいる俳優と出会うんだから。そこが俳優の修練(のしどころ)だね。
 栗山:突然の焼け野原。異常な状況で皆が水を求める。でも水のせいで体内の器官が破れるから、飲むと死ぬんだよね。せめて体を潤そうと、川に飛び込む。
 栗山:この人物は燃えている家の梁(はり)の下敷きになってる。(セリフで)重量を感じさせるといいかもね。

『少年口伝隊~』は2014年の舞台写真(8期生出演)とともに、国語総合の教科書(教育出版)に掲載されています。
『少年口伝隊~』は2014年の舞台写真(8期生出演)とともに、国語総合の教科書(教育出版)に掲載されています。

 先述のとおり、『少年口伝隊~』は井上さんが同研修所のために書き下ろした戯曲です。初演には2期生が出演しました。10年経って12期生へとバトンが渡され、井上さんの言葉と思いが、今を生きる私たちに届けられます。

 栗山:初演は日本ペンクラブでの上演(2008年2月)だった。世界中の名だたる小説家の前で、井上ひさしは、日本の悲劇を“口伝”したんだ。

 栗山:セリフをきれいに言ったって嘘っぽい。今、感じたことを、今、語ること。破たんが力になる。セリフとして言うのではなく、相手に伝える。言わなくちゃいけないことを、伝えていく。井上ひさしが日本ペンクラブでやったことだね。

 栗山:哲学じいたん(演じるのは河合隆汰)は、生きることに絶望した人間(=少年)に問いかけている。哲学の先生だったじいたんにとって、生涯で一番大切な時間じゃない? 彼は3人の少年に“口伝”しているんだ。

教科書には井上ひさしさんの紹介や、用語解説も
教科書には井上ひさしさんの紹介や、用語解説も

 セリフの言い方、音、タイミングなどについても細かく指摘されます。発語、発声には色んなテクニックがあり、今回は演出も少し変わっています。

 栗山:日本語って難しいよね。ちょっと脚色すると時代劇風になっちゃう(笑)。それを狙うならいいけど。この場面は(そうではなく)老獪に、静かな怖さで。
 栗山:「新型爆弾が~」という言葉は、もっと弱音で。聴こえる最低限の音で。
 栗山:日付をタイプライターで打つように言う。たんたんと進むように。
 栗山:たとえば「魚を焼くような匂い」というセリフを、(敢えて)平坦な言葉にすることによって、意味(の捉え方)は観客に任せる。

 政治家の言動にたとえたり、今まさに起こっている災害をイメージさせたり。栗山さんの導きで、1945年の夏の物語が研修生の肌感覚と直接つながっていきます。

 栗山:ここは安倍晋三の国会演説みたいに(笑)。花江が意味の分からないことをダラダラ、ダラダラとしゃべり続けて(笑)、少年たちは静かに耳を傾けるけど、全くわからない。だから「そんなこと聞いてないよ!」となる。

 栗山:原爆が落とされたばかりの場所に、西日本豪雨が襲って来たと想像してみて。彼はそこで原爆症を発症している。たとえば脳天に小さな穴が開いて、そこから糸のようなもので引っ張られるような感じ。狂いの声が欲しい。

尼川ゆらさんの模型「比治山から海」を見ながら話し合い
尼川ゆらさんの模型「比治山から海」を見ながら話し合い

 この物語は史実をもとしたフィクションですが、まるでルポルタージュのようなリアリティがあり、ギリシャ悲劇のような残酷さと荘厳さも湛えています。それをどうやって舞台に立ち上げるのか。歴史をたどり、人々の気持ちに寄り添うだけでなく、目に見えない世界への想像力も必要です。

 栗山:「亡くなった人」という言葉は、ちゃんとその人に話しかけて。これは無意味に死んでいった(=殺されていった)人たちと出会う時間。死者と共存していると思って。だからこそ、生きているものに託すんだね。この戯曲は現代につながっている。悲壮になるばかりじゃなく、生きている人はたくましく。

 栗山:精霊流しの火は死者の魂。死者たちが本当に現れる。“神と語る”とはこういうこと。

 私は何度もこの戯曲の上演を拝見していますが、キャストが変わるとやはり全然違う味わいになるものですね。いつもどおり涙しながら、花江と3人の少年、そして彼らの家族や道端の負傷兵、世界を動かす政治家たちと新鮮に出会うことができました。

 今回は2年先輩の髙倉直人さん(10期修了)と、1年先輩の椎名一浩さん(11期修了)が助演しています。先輩は堂々としていて貫禄がありますね!たった1~2年でこんなにも差が出るのかと、嬉しい驚きがありました。今年の試演会を経て、12期生の皆さんも大いに成長されることと思います。

 原爆投下直後の広島を活写する『少年口伝隊一九四五』と、沖縄戦を忠実に描いた『ひめゆり』という2つの朗読劇を、日本唯一の国立の俳優養成所が口伝し続けていることの意義は大きいです。一観客として感謝しています。※『ひめゆり』は2016年と2017年に上演されました。
 『少年口伝隊~』は3年ぶりの上演ということもあってか、チケットの売れ行きも良いようです。ご予約はお早目に!

 ★来年度の入所試験の日程が発表されています⇒告知エントリー
 ★今年も夏のオープンスクール開催!⇒告知エントリー

 ↓公式アカウントでご紹介いただきました。ありがとうございます!(2018/07/31加筆)

【出演】新国立劇場演劇研修所第12期生(日澤日菜 川飛舞花 下地萌音 永井茉梨奈 中坂弥樹 林真菜美 石原嵩志 河合隆汰 福永遼 福本鴻介) 髙倉直人(10期修了) 椎名一浩(11期修了)
【ギター演奏】宮下祥子
【作】井上ひさし
【演出】栗山民也
【音楽監督】後藤浩明
【模型製作】尼川ゆら
【照明】服部基
【音響】秦大介
【衣裳】中村洋一
【映像】井形伸一
【方言指導】大原穣子
【ヘアメイク】前田節子
【演出補】田中麻衣子
【舞台監督】米倉幸雄
【稽古場進行協力】高嶋柚衣
【制作助手】熊谷菜里
【演劇研修所長】宮田慶子
【制作】新国立劇場
【主催】新国立劇場
一般発売日:2018年6月8日(金)~
A席2,160円 B席1,620円 学生券:A席、B席ともに一般料金の半額
https://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_012420.html

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