西瓜糖『レバア』04/18-29テアトルBONBON

 秋之桜子さんの新作戯曲を寺十吾さんが演出されます。秋之さんは出演者(山像かおり)でもあります。上演時間は約1時間55分。⇒オーディション情報

 戦後間もない東京で互いに素性を明かさず共同生活する人々の群像劇でした。具象美術が建て込まれ、衣装とヘアメイクもその時代を表すしっかりとしたもので、俳優も作品のために生きてくれていました。チケット代が一般4,500円の小劇場公演と考えると、かなりお得だと思います。

 ↓こりっちでカンタン予約!(ただ、前売り完売のようです)

≪あらすじ・作品概要≫ 公式サイトより
昭和20年8月――終戦
家族を失い
身体を失い
心を失い
残されたのは焼け焦げた街
行き場のない誰もが住処を探していたあの頃

「君は、誰?」
「教えたら、どうにかしてくれるの?」

素性など知ったところで、 どうにもならず
涙など流したところで、どうにもならず
生きるために――その「家」はあった

とある一軒家に集まった老若男女
価値観の違いなどには目をつぶり、生きることを選んだけれど
違和感はそれぞれの心にフワリフワリと浮かんでは消え、消えては浮かぶ
笑い、泣き、愛し、歪み、騙す――ものたち

昭和という時代を経て、平成が終わりを迎える今、2018年。
西瓜糖は演出家、寺十吾を招き、多彩な役者たちとともに、ヒトが心の奥に隠し持つ「ザラツキ」を繊細に炙り出していきます。

あなたの、こころの、 レバアは押されるのか、引かれるのか、 それとも・・・
≪ここまで≫

 焼け野原でたくましく、ふてぶてしく生きる人々の素性が、ある若者の来訪をきっかけに暴かれていきます。設定は三好十郎作『冒した者』に少し似ていますが、私戯曲ではありません。戦争による分断、貧困が庶民に与えたダメージを具体的に想像できる意味でも、今、上演する価値がある戯曲だと思いました。

 寺十さんの演出作はそれほど数を観られていないのですが、昨年の『奇想の前提』『関数ドミノ』に続き今回も面白かったです。意図がはっきりしている雄弁な照明も好きですね。ただ今作については、暗転の数が多かったことと、主に暗転中に流れる情感たっぷりの選曲は少し苦手かもしれません。

 演技の方向性も私の好むものでした。全ての登場人物が目的と意志を持っており、それぞれが自ら衝動的または計画的に動くことによって起こる事件を信じられました。

 ここからネタバレします。

 舞台となるボロ家の主である小説家(佐藤誓)は、焼け残った自宅に身寄りのない罹災者を住まわせる善意の人かと思いきや、彼らを小説のネタにしたいだけでした。誰もが下心を持っていて、利害関係を慎重に観察しながら、その場に居すわっていることに説得力があります。弱みを握ることで相手を支配したり、お互いを生きがいにしたりする相互依存的な関係は、今もよくあると思います。

 戦場では人(敵)を殺せば殺すほど褒められたのに、戦争が終わったら殺人は犯罪になります。それに適応できない兵士(三津谷亮)を描いているのも重要だと思いました。海外に派遣される自衛隊のことを考えられます。
 帰還した兵士が「自分が命を懸けて守ったのはこんなに愚かな銃後ではない」と言いたくなるのも納得です。それでも人間は慣れるし、周囲に染まっていきます。私自身が何を一番大事にして生きているのかを問われている気もしました。

第6回公演
【出演】
復員兵(顔の汚れを落としたらイケメンだった。ある女性にひとこと言いたくてやってきた):三津谷亮
家主の小説家(モルヒネ中毒・罹災者を住まわせるのは小説のネタのため):佐藤誓
闇市の物売りのおばあさん(実はタバコを売るおじいさんの連れ合い):村中玲子
パンパン(米兵のオンリーになった豊満で快活な女性):陰山真寿美
出版社の女性社員(小説家の原稿を取りに来る):難波なう
家主の娘・勤め人(自分の身代わりに電車から落ちた兵士を助けず、笑った過去がある):森川由樹
ドモリの青年(ドモリを偽る詐欺師):足立英
芸者(復員兵を守る):奥山美代子
ドモリの息子を持つ奥様(焼き鳥屋を手伝っている):山像かおり
煙草を売る耳が遠いおじいさん(捕虜を虐待して逃亡中の戦犯。本当は耳が聴こえる):外波山文明
妻の遺体を探す焼き鳥屋(朝鮮人):森田順平
脚本:秋之桜子
演出:寺十吾
美術:石井強司
照明:阿部康子
音楽:坂本弘道
音響:岩野直人
衣裳:上岡紘子
小道具:のねもとのりか
舞台監督:井関景太 加賀谷崇文
演出助手:中山朋文
制作助手:間宮知子
製作協力:塩田友克
宣伝美術:オザワミカ
宣伝写真:サト・ノリユキ
宣伝ヘアメイク:畑中嘉代子
舞台写真:宮内勝
舞台録画:Kazu momvie
HPデザイン:BUG STUDIO LLC
運営協力:難波利幸/木村彩菜
デザイン:BUG STUDIO LLC
協賛:椿組
企画・制作:西瓜糖
【発売日】2018/03/10
前売り・当日券ともに4,500円
http://no-4.biz/suikato6/
http://suikato.blog.jp/archives/21360060.html
http://stage.corich.jp/stage/88751

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガ↓も発行しております♪

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台

   

バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ