高校演劇サミット「高校演劇サミット2017(福島県立いわき総合高等学校、埼玉県立新座柳瀬高等学校、東京都立駒場高等学校)」12/28-30こまばアゴラ劇場

 2010年から始まった「高校演劇サミット」はもう8回目なんですね。東京都の高校演劇の地区大会、都大会などは観たことがあったんですが、「高校演劇サミット」に伺ったのは初めてです。上演時間は各作品とも約65分という目安でした。

 開演前にはディレクターの田中圭介さん、プロデューサーの林成彦さんの前説があります。いわゆる普通の演劇公演ではないことが観客にわかるので、必要だと思いました。

 高校演劇に非常に詳しい林さんらに選ばれた3校ですので、期待はしていましたが、1日に3本続けて観ることで得られたものも多かった気がします。作品も、高校生の皆さんも素晴らしかったですが、観終わった時には、この公演を支えている大人への、感謝の気持ちが湧き起こりました。あんなにも真っ直ぐに表現をすることができている高校生には、なかなか出会えません。その機会を作り、守っているのは、あの場にいた大人の方々ですよね。心から感謝したいと思います。そして見習いたいです。

 また、高校演劇という日本が誇るべき演劇の1ジャンルを、重厚に味わえる機会であり、1日で、演劇という表現の幅広さ、奥深さに触れられる企画だと思いました。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

【1】福島県立いわき総合高等学校
『ありのまままーち』
原案:いわき総合高校演劇部 構成・脚本:齋藤夏菜子 演出:瀬戸智哉
顧問:齋藤夏菜子、遠藤崇、山﨑祥子

 いわき総合高校の作品は石井路子先生がいらした時期にいくつか拝見しました。齋藤夏菜子先生に引き継がれてからは初めてになります。演劇作品としての完成度を高め、隙を無くすというよりは、生徒が今やりたいこと、楽しいと感じることを優先する方向性なのかなと思いました。3年間で学んだことを1人ずつ告白していく場面があり、「自分のためでなく他人のために」という姿勢にほんの少し引いてしまったりもしたのですが、のびのびと発言する生徒さんたちを見て、演劇の教育的効果を体感できました。

 最初の20分弱はウォーミングアップ的な、軽めの出し物のようでした。体を積極的に使って協働する様子を感心して拝見しました。
 東日本大震災の津波で家が流され、お父さんがいなくなった生徒や、故郷が帰宅困難区域にあるのか、防護服を着て自宅に行く生徒が登場し、その人自身の言葉で語ります。ふたば未来学園高校の『数直線』でも感じたのですが、やはり生の声を聞くこと、そこに存在する体を見ることはとても大切ですね。
 演劇は、目に見えないものをあるものとして扱うことができるし、それを観客とともに信じて共有することも可能です。アディダスの透明のサッカーボールとともに、サッカーが得意なお父さん(がここにいるという演技)を見ることができました。
 6年間放置された家の写真を、プロジェクターから白い布に映写して見せてくださいました。まさか屋根が抜けているとは…。

【2】埼玉県立新座柳瀬高等学校
『Love & Chance!』
原作:ピエール・ド・マリヴォー 翻案:稲葉智己
顧問:棟居義弘 関美奈子

 新劇の劇団で上演しそうな海外古典喜劇を高校演劇で観られるとは!マリヴォー作『愛と偶然の戯れ』は、あらすじは知っていたものの観たのは初めてでした。

 男性役のドラント(公爵家の息子)とその従者アルルキャンを女性が演じるので、宝塚歌劇団のようでもありましたね。会話の構造、セリフの役割をしっかり読み込んだ演出で、2組のカップル(伯爵の娘シルヴィアとドラント、シルヴィアの小間使いのリゼットとアルルキャン)の会話をシンクロさせるのも効果的でした。シルヴィアとドラントがお互いの身分を明かした上で結ばれるハッピーエンドで、奥のドアの左右にあるステンドグラスが光るのが美しかったです。

 公演の思い出にと、記念のポストカード↓をいただきました。終演後に全観客に配布されました。

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【3】東京都立駒場高等学校
『加賀山蝉洋』
作:加賀山友洋 演出:井上翠
顧問:後飯塚由香里

 私は都立駒場高校の『かわいそうのうそ』を2016年の地区大会で拝見していました。「高校演劇サミット2016」にも参加されていましたね。都立駒場高校は5回連続で都大会に出場しているそうです(林さんの前説より)。踊る、歌う、叫ぶ、走る、取っ組み合う! 大人数の体を積極的に使って、演劇の機能をパワフルに、贅沢に活かした作品でした。

 7年間も地中にいて7日間しか地上にいない蝉の生涯と、演劇部の活動を重ねます(たった一回の本番のために何日も稽古を続ける等)。演劇部には男子が2人しかいないため、リーダー格の加賀山君はともき君とつるむことが多いです。加賀山君は同じくリーダー格の翠ちゃんと仲が悪く、部長に選ばれてからは専制君主のような態度で演劇部を支配しようとします。「お前らなんかいなくても、俺だけでやれる」といったセリフを言う彼の身体に、大勢の部員たちがまとわりついていました。「俺だけでいい」と言っていながら、その場面は「俺だけ」で作られてはいないんですよね。とても面白いと思いました。

 『かわいそうのうそ』もそうでしたが、自分を徹底的に晒し、自分を問う内容になっています。部活動ですので高校教育の一環でもあるんですよね。すごいことが行われていると思います。

サミット・プロデューサー:林成彦
サミット・ディレクター:田中圭介
アドバイザー:平田知之(筑波大学附属駒場中学高等学校)
舞台監督・照明:黒太剛亮(黒猿)
音響:秋田雄治
舞台監督補佐:中塚ゆい、土田彩香
ロゴ作成:西泰宏(うさぎストライプ)
制作:北村耕治(猫の会)
制作助手:仙波瑠璃 中村奏太(無隣館)
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
芸術総監督:平田オリザ
企画制作:青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
スペシャルサンクス:稲田実 河崎正太郎 ※敬称略
【発売日】2017/11/19
1日券:3,000円
1演目券:1,500円
高校生1日券:1,000円(高校生限定・12月28日(木)のみ)
※日時指定・全席自由
※高校生以下の方は、当日受付にて学籍、年齢を示す証明書をご提示ください。
※未就学児童はご入場いただけません。
http://www.komaba-agora.com/play/4983

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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