風姿花伝プロデュース『THE BEAUTY QUEEN OF LEENANE』12/10-24シアター風姿花伝

 英国劇作家マーティン・マクドナーさんの戯曲を小川絵梨子さんが翻訳・演出されます。俳優の那須佐代子さんが支配人を務めるシアター風姿花伝のプロデュース公演(関連エントリー⇒)の第4弾で、今月のメルマガでお薦めNo.1としてご紹介していました。初日の上演時間は2時間強(途中休憩10分を含む)。

 マクドナー戯曲なので、どぎついブラック・ユーモアやスプラッター・ホラーな雰囲気をある程度予想していたのですが、完全に外れました。温かさ、優しさに包まれ、可笑しくてたまらなかった!

 

 ロビーで販売中の冊子「風姿花伝プロデュース2014-2016」(1500円 ※公演中は特別価格1000円)に『いま、ここにある武器』の稽古場写真を提供させていただき、“対談写真”としてクレジットしていただきました。とても光栄に思います。

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≪あらすじ≫ こちらより。⇒パルコ・プロデュース公演のあらすじ
アイルランドの片田舎。 中年の独身娘モーリーンと、年老いた病身の母メグ(=マグ)は二人暮らし。 娘は母の介護の日々に嫌気がさしている。母はそんな娘に依存しながらも、悪態をつき、娘を女中のように扱っている。 ある日、娘の身辺に男の気配がしてきたことで 母と娘の関係性が加速度をつけて悪化してくる・・・。
≪ここまで≫

 凸型の舞台を凹型に客席が囲みます。客席通路に母娘が暮らす家の玄関のドアが建てられており、前方席に行く時はそのドアをくぐります。通路も演技スペースで、舞台も至近距離で、小劇場ならではの臨場感が超~贅沢です。しっかりとした具象美術ですが、客席に囲まれている上に壁がないので、とても開放感があります。

 俳優4人の演技が素晴らしいです。舞台上で役同士の密なコミュニケーションをするだけでなく、観客にも意識が開かれているように感じました。ラブシーンも美しい! 
 マクドナー戯曲はやっぱりめちゃくちゃ面白いですね(小川翻訳・演出作の過去レビュー⇒)。『ビューティー・クイーン・オブ・リーナン』は25歳の時に書かれた処女作だそうです。はぁ…天才…。

 小川演出では登場人物だけでなく、話題に上るだけで登場しない人物も、愛らしくて憎めない存在として浮び上がります。根っからの悪者とは思えない平凡な人々が、なぜあんなにひどいことをしでかすのか、なぜこんな悲惨な状況に陥ってしまうのか。誰もがそれぞれに優しくて、温かくて、とことん弱い人たちに見えたから、親しみを持って見つめながら考えられたのだと思います。やはり、根強い差別と容赦ない排斥、出口のない貧困といった社会問題こそが原因なのではないか…終演後の静かな客席で、そういう結論に至りました。

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。「LEENANE」の発音は「リナーン」だったと思いますが、ここでは題名のカタカナ表記に合わせます。

・詳しい目のあらすじ(2017/12/18マチネに2度目を鑑賞し、一部加筆、修正しました)

 アイルランドの辺鄙な町リーナンに暮らす母マグ(鷲尾真知子)と娘モーリーン(那須佐代子)は、大層いがみ合っている。マグは居間の木製のロッキングチェアに座ったまま動こうとせず、家事全般をモーリーンに押し付けており、モーリーンはそんな母を罵倒しながら嫌々言うことを聞いている。粉をお湯に溶かすだけの飲料やおかゆを作るのも、ラジオの電源を入れるのもモーリーン。マグは左の手と腕に大火傷の跡があり、ガスコンロで湯を沸かすのは怖いという。モーリーンは「家事をしたくないだけの、ただの言い訳だ」と切り捨てる。

 家までの坂はとても急で、平坦な道でもぬかるんでいるし岩だらけ。訪問者はめったにない。ある日、近所の若者レイ(内藤栄一)が2kmの道のりを歩いてやってきた。アメリカに行くおじ一家のためのお別れ会に、二人を招待してくれるというのだ。兄パトもイギリスから帰ってくるという。レイはマグにその伝言を残して去り、しばらくしてモーリーンが帰宅した。マグはレイの伝言を伝えない。モーリーンに外出して欲しくないのだ。モーリーンは帰宅直前にレイとすれ違ってパーティーのことを聞いていたため、マグが伝言を隠したことに激怒する。お互いに嫌がらせをし合うのが日課になっているらしい。

 長女と次女は家を出ており、三女のモーリーンが約20年間、一人でマグの世話をしている。マグは70歳で、モーリーンは40歳(45歳?)。モーリーンは男性経験がなく「20年間、たった2人とキスしただけ(母に縛られているせいで)」と言う。マグは「2人で十分!(汚らわしい!)」と言い返す。母娘の会話とは思えない悪口雑言が交わされるが、モーリーンがふと「ドライブに行こう」と誘うと、マグは喜んで同意する。2人はこの上なく憎み合っているが、実のところは持ちつ持たれつのかけがえのない家族なのだ。

 パーティーの夜、モーリーンはパトを連れて帰宅した。パトはモーリーンを「美しいリーナンの女王」と呼び、二人は約20年振りに親交を深め、男女の仲になったようだ。モーリーンはパトがパーティー会場で、アメリカ人女性のドロレスにちょっかいを出していたことを指摘するが、パトははっきりと「君の方がいい」と言う。居間でキスをして抱き合う2人。

 翌朝、起きてきたマグは、パトがいることに驚愕する。モーリーンはわざとスリップ姿で部屋から出てきて、2人が昨晩愛し合ったこと、自分は処女ではなくなったことをマグにさんざん自慢する。その仕返しにマグはパトの前で、モーリーンがイギリスの精神病院に1か月入院していたことを暴露した。モーリーンは25歳の時に清掃員の仕事をしていたが、アイルランドの田舎者だと馬鹿にされいじめられていた。同じくいじめられていた同僚の黒人女性を頼りにしていたが、彼女がいなくなった後はいじめが自分に集中し、それが原因で心を病んでしまったのだ。マグが保護者としてモーリーンを病院から引き取って、今の暮らしがある。
 パトは取り乱すモーリーンを優しくいたわり、自分の気持ちは昨晩と変わっていないと言うが、モーリーンはにわかには信じられない。パトはイギリスから手紙を書くと言って去った。
 

 ≪休憩10分≫

 舞台に一人でいるパトがモーリーンに宛てた手紙を独白する。「ただ働いて寝るだけで、友人もいないイギリスの暮らしはひどく寂しく辛いものだ。あの夜は(セックスが)うまくいかなくて、あなたの初めての男になれなかったけど、精神病院のことは全然気にしていないし、今も僕の気持ちは変わっていない。アメリカのおじさんがボストンで仕事を世話してくれることになった。一緒に来てほしい。お姉さんが2人もいるんだから、あなたが今後もずっとリーナンに縛られる必要はない。お母さん(マグ)には老人ホームに入ってもらえばいいんじゃないか。しばらくしたら荷物をまとめるためにリーナンに一度帰るから、その時に返事が欲しい」。パトはこの手紙を弟のレイに送り、モーリーンに直接手渡すようにと、書中で何度も念を押した。

 レイが手紙を届けにやってきたが、またモーリーンは不在で、マグしかいない。待てども待てどもモーリーンは帰って来ず、しびれを切らしたレイは悪口を言い始める。昔、親に買ってもらった野球のボールで友達と遊んでいたら、モーリーンの家の庭に入ってしまい、返してもらえなかったと。マグは「そのボールのせいでモーリーンが庭で飼っていた鶏が死んでしまったからよ」と言うが、レイは同意しない。ボールを返してくれなかったのを根に持っているのだ。レイはマグに「手紙を開封せず、必ずモーリーンに渡して」と何度も言って去る。快く引き受けたマグだが、当然、すぐに封を開けて読み、読み終わるなり暖炉に捨てた。
 
 アメリカへと出発するパトのお別れパーティーの夜。マグもモーリーンもいつも通り家にいる。マグは「パトがパーティーに誘ってくれなくて残念だったわね」と白々しくモーリーンを攻める。「自分が彼を振った、彼とのセックスは良かったし、それで満足だ」と強がってみせるモーリーンを、鼻で笑うマグ。2人でショートブレッドを食べて「形がペニスに似てる」などと言い合いながら、ありもしない男性経験をひけらかすモーリーンを眺め、マグはにやにや笑いが止まらない。

 いつもと違う母をいぶかしく思ったモーリーンは、ある瞬間に、マグが自分の秘密(パトとはセックスをしていないこと)を知っていることに気づいた。慣れた手つきで油を大量に鍋に注ぎこみ、火にかけるモーリーンの様子は尋常ではない。「なぜお母さんが知ってるの!?」と激昂し、おびえるマグの手を引っ張ってコンロに押し付け、火傷させる。さらには沸騰した油をマグの腕にかけたり、腹にかけたりして、パトからの手紙の内容とそれを捨てたことを白状させた。モーリーンは大急ぎで服を着替えて、助けを呼びながら床でのたうち回るマグを置き去りにして、パーティー会場へと飛んで行った。

 薄暗い照明のもと、モーリーンが独白する。列車に乗ったパトに会い、何度も愛を確かめて、ボストンでの再会を誓ったのだと。彼女の手には暖炉に薪をくべるための金属製の火かき棒が握られている。ロッキングチェアに腰掛けていたマグが、ぐらりと揺れて背もたれから離れ、前かがみになった。頭部に真っ赤な血の跡が見える。「自分で足を踏み外して、階段から落ちたのよ」とモーリーンはつぶやいた。

 マグの葬儀を終えて、喪服姿のモーリーンが帰宅した。長女と次女は家には寄らずそのまま帰るらしい。警察はマグの検死をしたが事故として処理したのだろう。リーナンはそういう町なのだ。モーリーンはマグが食べていた粉とおかゆの素を暖炉に放り込み、ボストン行きの荷造りを始める。するとレイがやってきた。モーリーンが兄のパトのお別れ会に来なかったことを責めるので、モーリーンは「列車で会った」と言うが、レイは「パトはタクシーで行った(列車で会ったはずがない)」と反論する。さらにレイは続けた。パトはアメリカ人女性のドロレスと婚約し、数か月後にはボストンで結婚するのだと。モーリーンはショックのあまり立ち尽くす。やがて火かき棒を手に取りレイに向かって振り下ろそうとするが、タイミングを逸した。

 レイはテレビの裏に、すっかり古くなった野球のボールを見つけた。「親が買ってくれたのにほんの短い期間しか遊べなかった。こうやってボールを自分のものにしてずっと隠し持って、僕に意地悪をし続けて、あなたは悪い人だ」と。ロッキングチェアに腰掛けてレイにこまごまと命令するモーリーンは、マグに似ているとも。レイはモーリーンに「その火かき棒を売ってくれ」と言う。マグに会った時にも「いい火かき棒だから欲しい」と言っていたのだ。しかしモーリーンは「思い出があるから売れない」と断る。母を殴り殺した思い出だろうか。そしてモーリーンはレイにパトへの伝言を頼んだ。「美しいリーナンの女王から、さようなら」。

 レイが去った後、マグが好きだった昔の音楽がラジオから流れた。71歳の誕生日を祝って、長女と次女がラジオ局にリクエストをしていたのだ。母の面倒を妹に押し付けて何もしなかったくせに、ぬけぬけと大っぴらに誕生祝いをするなんて…(と私は想像した)。モーリーンは「姉2人は今年の母の誕生日も忘れていた」と悪口を行っていたが、それも彼女の妄想で、忘れていたのは彼女自身だったのだ。モーリーンはパトにもらったマフラーも暖炉にくべてしまった。無人のロッキングチェアが揺れる。“美しいリーナンの女王”とはマグのことでもあったのだ。今はモーリーンがそれを引き継いだ。終幕。

 ■他の観客の感想

 ■関係者のツイート

風姿花伝プロデュースvol.4
≪東京、香川≫
出演:那須佐代子、吉原光夫、内藤栄一、鷲尾真知子
脚本:マーティン・マクドナー(Martin Mcdonagh)
翻訳・演出:小川絵梨子
美術:島次郎
照明:松本大介
音響:高橋巖
衣裳:髙木阿友子
ヘアメイク:鎌田直樹
演出助手:大澤遊
演出部 :稲葉賀恵
舞台監督:梅畑千春
美術助手:沼田かおり
照明操作:桐山詠二
音響操作:玉置はる美
フライヤーデザイン:福岡英輝
WEB:小林タクシー(ZOKKY)
絵画提供:佐和子
上演ライセンス:シアターライツ
大道具製作:C-COM舞台装置
票券:会沢ナオト
制作助手:鴨居千奈
制作:斎藤努/水流あかね/加藤恵梨花
風姿花伝スタッフ:中山大豪
プロデューサー:中嶋しゅう/那須佐代子
助成:平成29年度芸術文化振興基金
企画・製作:シアター風姿花伝
【発売日】2017/10/28
一般:
序 [12/10(日)~12/13(水)]:5,100円
破 [12/15(金)~12/19(火)]:5,300円
急 [12/20(水)~12/24(日)]:5,500円
※全公演同じ演目ですが、公演日によって料金が異なりますので、早めのご来場がお得となっております。
シニア(65歳以上):4,900円
学生:2,000円
高校生以下:1,000円
当日料金は各500円UP
※会場にて簡単なお飲物を販売しております。ご観劇のお供に是非ご利用くださ
http://www.fuusikaden.com/leenane/
http://stage.corich.jp/stage/83363

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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