マキーフン『髪をかきあげる』12/06-10新高円寺アトラクターズ・スタヂオ

 俳優の藤井咲有里さんがプロデュース・出演するマキーフン(⇒過去レビュー)の第3回公演です。鈴江俊郎さんの岸田國士戯曲賞受賞作『髪をかきあげる』(⇒過去レビュー)を、劇団ajiの島貴之さんが演出されます。期待をはるかに上回る面白さでした!

髪をかきあげる
髪をかきあげる
posted with amazlet at 17.12.06
鈴江 俊郎
白水社
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 島さんの演出作品は一度しか観たことがなかったので、次回が楽しみになりました。そして鈴江さんの戯曲はやっぱりいいですね。肉感があって、胸にギュギュっと突き刺さって。

 主人公役の藤井さんは『フェードル』『日輪の翼』など、出演作の幅が広い俳優だと思っていたのですが、改めて、演技の幅も広いと思いました。いわゆる写実主義的なストレートプレイもバッチリだし、SCOTみたいなセリフも堂々と披露されていたし(笑)。

 “馬”役(笑)の遠山悠介さんの出演作はご縁あって10年以上観てまして、私的には今回が一番魅力的でした。考えてみたら普通に大学生に見えるのも凄い!カンパニーデラシネラでパントマイムなどの身体表現をされていて、俳優指導者のもとでも訓練を継続されています。

 初日はチケットが3000円とお得価格で、終演後は出演者、スタッフ、観客との交流会が設けられ、飲み物と食べ物が振る舞われました。他のお客さんと感想を話し合ったんですが、やっぱり全然解釈が違いました(笑)。私はこの戯曲が書かれた1995年あたりに、日本人が既に失っていた野生(=肉欲)を描いていると思いました。率直に、愚直に他者を求め行動を起こす姿も。できるだけ不恰好に、今、ここの身体をさらして、だからこそ愛らしく映るように。

 『髪をかきあげる』という戯曲について、舞台上の出演者と客席の観客が一緒に考える。そういうコンセプトの演出でもあったそうです(関係者より)。そうするためには、俳優は戯曲を徹底的に立体化する必要があります。その上で、俳優同士はもちろん、俳優と観客も対等に交流し、真ん中(よりちょっと上、または空間全体)に戯曲の世界が立ち上がる。私はこういう観劇体験こそ刺激的で面白いと思いますし、大好きです。

■感想ツイート

 ここからネタバレします。セリフなどは正確ではありません。

 幕開けにマキーフンのテーマソングが流れていたような(笑)。もう3度目のプロデュース公演ですものね。

 セクハラ&パワハラで軽薄な上司・早川(近藤準)に誘われ、彼と休日に喫茶店で会うことにしたトモヨ(藤井咲有里)。「君の顔が好き。髪が長かったらもっといい」と言われ、夜中に出会った見知らぬ夫婦(蛍を探してる:大重わたる、谷村実紀)に「今すぐ髪が伸びて欲しい」と吐露します。早川に惚れたというより、トモヨに起こった反射的な、衝動に近いものではないでしょうか。自分に起こっていることに素直になれたのは、夫婦のおかげだろうと思います。夫婦は子供を失ってから眠れなくなり、夜間に外を徘徊しています。

 幼少期のトモヨは肥満体型でした(この独白がSCOT風、又は大竹しのぶ風)。自分は気にしていなかったのに、親や先生の勧めで縄跳びをして減量に成功。それが学校内で美談になりクラスメートたちに賞賛されてしまいます。その思い出のせいで、彼女は自分を客観視することから逃れられない、冷めた性格になってしまっていました。今、そばにいる中川(遠山悠介)はあくまでもセフレであり、トモヨも性的交渉のためだけの仲だと割り切っています。でも早川は、トモヨの顔が好きだと言ってくれた。外見は生まれ持った自分だけの持ち物ですから、自分自身を、自分そのものを気に入ってくれたと、トモヨは実感したのだと思います。精神(頭脳)から肉体への回帰といったものが表されている気がしました。

 中川はやたらと脱ぎます。緑色のパンツ一丁で、そのパンツの前面には馬蹄の柄が!(笑) 彼はトモヨを愛しているのかどうか…。彼は野生(肉欲)の象徴でもあるでしょうけど、そこには、幼いかもしれないけれど、愛情が伴っているように私には見えました。

 トモヨをさんざん翻弄しておいて、早川は会社を辞めて妻(登場しない)と信州に引っ越してしまいました。農業を始めるとのこと。彼は自然に帰る選択をしたんですね。
 中川の友人でトモヨの同僚である村井(安楽将士)が、中川のドイツ語の生徒である短大生(ナカノキョウコ)に「君と一緒に居たい。家に泊まって欲しい」という直球の告白をします。すがすがしい♪

 中川はたぶん本気でトモヨを愛しています。彼女の家の鍵を勝手に作って入り込むぐらいに(笑)。だけどそれはまだ、トモヨの欲しているものには届かないんでしょうね。トモヨは背もたれが小さい椅子に座り、両手・両足を上げて天を仰いで、詩のようなセリフを絞り出します。「馬よ来い」というセリフがあった気がするのですが、それは中川(または早川などの他者)にもっと近づいて欲しいという意味なのか、自分の中の馬(野生)に目覚めて欲しいという意味なのか。浮かび上がりたいとあがきながら、水底にどんどん沈んでいくようでした。

 「馬」を「ンマ」と発音するのはなぜなんだろう!
 もしかしてシェイクスピア作『リチャード三世』からの引用?

マキーフン vol.3
≪出演≫飯田トモヨ(主人公):藤井咲有里、中川(トモヨのセックスフレンド):遠山悠介、早川(トモヨの上司、妻と信州に引っ越してしまう)近藤準、村井(中川の友人・石井めぐみを好きになる):安楽将士 石井めぐみ(中川のドイツ語の生徒・短大生):ナカノキョウコ、夫(蛍を探している):大重わたる、妻:谷村実紀、
脚本:鈴江俊郎 演出・音響:島貴之 照明:加藤九美(RISE)  制作:江間みずき 写真撮影:古川恭子 宣伝美術:川和田将宏 音楽:西山宏幸 主催・企画・製作:マキーフン
【発売日】2017/11/06
(前売) 一般:3,500円、学生:3,000円
(当日) 一般、学生とも300円増
※全席整理番号付自由席
※未就学児は入場いただけません。
※受付は開演の45分前、開場は30分前、当日券販売は45分前です。
https://maki-fun.jimdo.com/next/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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