KAAT×Nibroll『イマジネーション・レコード』08/29-09/03 KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ

 ダンサー、振付家、演出家で、岸田國士戯曲賞受賞作家でもある、矢内原美邦さん率いるNibrollの新作。オーディションも行われました。初日の上演時間は約1時間10分、休憩なし。チケットは完売です。

≪作品紹介≫ 公式サイトより
『イマジネーション・レコード』
私たちはなにもかも留めておきたくて簡単にシャッターを切っては、どうでもいいことを記録する。
でもそこに私たちが探している本当の風景はあるのだろうか?
記録した風景は何十億にも重なり、やがては曖昧なただの残像になっていくだろう。
失われた時間をつなぎとめてくれるのは私たちのイマジネーションだけかもしれない。
そこには、楽しいことも悲しいことも理性も暴力も現実も、またその逆もある。理想では描ききれない明確な線がある。
私たちは、いま目のまえにある風景をレコードしなければと思う。このなんでもない日々を。いまそこを流れていく時間を。
そして、記録しても記録しても消えてしまうものについて考えなければと思う。
手を伸ばしても届かない時間について。距離について。風景について。
≪ここまで≫ 

 以下、いつもの「です・ます調」のレビューではありません。なんとなくそうなりました。

 ぐるぐると円を描いて同じ方向に走る出演者たちを見て、学校、軍隊、戦場、奴隷…を想像し、それがあまりに生々しくて涙が出てきた。やがて、確かにあったけれど失われていく風景の話が始まって、あぁ人間は生きていくしかないし、生きている現在しかない、過去も未来もないのだなぁと開き直れて、清々しい気持ちになり、笑顔になれた。

 ↓矢内原さんの岸田國士賞受賞戯曲はこちら。

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矢内原 美邦
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 ここからネタバレします。

 映像には生中継も録画の再生もあって、混ざりあったりするから、映像というものの不確かさが浮き彫りになる。目の前でぜーぜー言いながら動いたり、走ったり、ぶつかったり、へしゃげたり、叫んだりしている出演者の存在の確かさと現前性が強調される。特に俳優は動きが不恰好で、ダンサーに比べると皆、み目麗しくないから、とても愛らしい。

 舞台に描かれた円の周囲を俳優が走り、その円の内と外に映像が映し出される。直線、曲線が何本も引かれていくが、もくもく、ぶくぶくと大きくなる雲(のような絵)によって、上からかき消されていく。曲線が経線、緯線に見えたなら円は地球で、雲は排気ガス、細菌とも解釈できる。直線を人生ととらえたら、迫ってくる雲は死や腐敗。命の記憶、記録が死によって浸食され、消滅し、再び生まれる命も想像できた。そららが一瞬にして起こり、繰り返される。

 制御と暴走、知性と野生、秩序と無秩序などの相反するものが多数、さまざまな方法で提示されていたように思う。その中でも不確定要素が多いのが人間(出演者)。いや、照明や音響のオペレーションだって人間がやっているのだから、何が起こってもおかしくない。そして私を含む観客もまた、何をしでかすかわからないのだ。その意味でも静と動の拮抗状態にあったのだと思う。

 最初は黒、灰色、白のモノトーン調で、丸柄の衣装だった。銃弾で穴だらけ、もしくは何らかの多数の欠損がある存在のように見えた。ファッショナブルだけど、暗い。ルールにがんじがらめになって、悲鳴を上げながらも従順に従っている、矛盾をはらんだ人生の象徴のよう。
 やがてカラフルな衣装に切り替わる。縦のストライプ柄と、横のボーダー柄が重なって、格子柄になる。上着を交換しても、格子柄になるのは変わらない。これも経線と緯線に見えて、一人ひとりが星なのだとも思えた。またはルール(=格子、牢屋)に縛られながら、もがく人体とも。

 映像、照明、衣装が活発に、リズミカルに楽しませてくれたし、常に前のめりで必死で、連帯を忘れない出演者たちの姿も微笑ましくて、最初に涙した後の私は、ずっと明るい気持ちだった。面白い、楽しいと感じながら、集中して観続けられた。膨大な数のきっかけに対応する、つまりルール通りに緻密に仕事をする姿もまた、贅沢な見世物だった。

 「約束してないけど人を待つ/待ち続ける(藤村昇太郎)」「狼が来る/来た(中西良介)」「飼っていた鳥がいなくなった/きっと帰ってくるはず(村岡哲至)」などのセリフが、記号的にならずに、感情や意志をともなった言葉になっていたのがとても良かった。ミクニヤナイハラプロジェクトの公演を昔に観た時、長いセリフを早口で怒鳴るように発射し続けるのが、私には合わなかったのだけれど、今回は違う方向性だったので受け取るものが全面的に変わったのだと思う。

 藤村昇太郎さんのストンと真っ直ぐで透明感のある、素朴な言葉が耳に入りやすかった。オーディションで受かった俳優の中に新国立劇場演劇研修所の修了生が2人(中西良介、村岡哲至)。俳優自身の感覚、感情、気分、意志といったものが、制御されず(制御できず)漏れ出ているところが、人間らしさに見えて良かった。

KAAT Dance Series 2017 / Nibroll結成20周年
出演:浅沼圭 石垣文子 大熊聡美 中西良介 藤村昇太郎 皆戸麻衣 村岡哲至
振付・演出:矢内原美邦
映像:高橋啓祐
音楽:SKANK/スカンク
衣装デザイン:田中洋介
照明:梶谷剛樹 音響:徳久礼子 舞台監督:藤田有紀彦
技術監督:堀内真人 宣伝美術:岡本健+、高橋啓祐
主催:KAAT神奈川芸術劇場
企画制作:株式会社precog
【発売日】2017/06/10
▽全自由席・入場整理番号付
・一般3,500円
・U24チケット(24歳以下)1,750円
・高校生以下割引(高校生以下)1,000円
▽KAAT Dance Series 2017
3演目セット券9,000円(一般のみ)
①Nibroll「イマジネーション・レコード」(8/29~9/3)
②島地保武×環ROY「ありか」(9/8~9/10)
③小野寺修二・カンパニーデラシネラ「WITHOUT SIGNAL!(信号がない!)」(9/29~10/1)
※別々に買うと10,500円のところ、上記①②③セットで9,000円、チケットかながわのみの取扱(枚数限定)
※未就学児入場不可
http://www.kaat.jp/d/nibroll

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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