【レポート】セルゲイ・チェルカッスキー講演「スタニスラフスキー・システムの世界的発展と現代の俳優トレーニング」08/16世田谷文化芸術情報センター・セミナールーム(5階)

 2015年に続き来日されたセルゲイ・チェルカッスキーさんの講演を拝聴しました。2006年2007年のレクチャー2015年、2017年と、私がお会いするのは4度目になるのでしょうか。東京での公募のワークショップは3回だけだと思いますが、他にクローズドでも行われており(ジョコ演劇学校などで)、セルゲイさんは親日派のロシア人でもあります。

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 2015年に未來社から出版されたセルゲイさんの著作「スタニスラフスキーとヨーガ」を読んでから伺ったのですが、セルゲイさんはまた新著“Acting: Stanislavsky – Boleslavsky – Strasberg: History, Theory and Practice” を上梓されており、なんとその書籍は2016年のロシア最優秀図書賞(Theatre部門)を受賞されていました。403枚もの写真を掲載した816ページの大作です。

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 以下は私がメモした内容です。2時間半におよぶ講座のごく一部です。通訳は上世博及さん東京ノーヴイ・レパートリー・シアター)。上世さんはこのワークショップの通訳もされています。

 ※質問以外、すべてセルゲイさんのご発言です。私がメモしたことなので正確性は保証できません
 ※5年間、セルゲイさんのもとで学んだ日本人の女優さんも参加されていました。

■「スタニスラフスキー・システム」はジャンルにとらわれない俳優の訓練システム

 私は実演家で演出家で、(資格を取って10年前から)演技コーチ。色んな演劇の地図を作りたいと思い、たとえばスタニスラフスキーとメイエルホリド両者の重なっているところや、歌舞伎との共通点など、演技の系譜を調査して本を書いた。

 「スタニスラフスキー・システム」については誤解が多い。スタニスラフスキーは演劇の様式に関係ないところで、俳優を訓練する方法を見つけた。ギリシャ悲劇やドイツの現代演劇にも通用するし、シェイクスピア戯曲の説明台詞でも使える。

 「スタニスラフスキー・システム」とは俳優の訓練システムで、学んだ俳優は全く違うタイプの芝居にも出演できる。なのに自然主義の芝居しかできないと思われている。それは誤解。スタニスラフスキーは客観的な法則を研究した。人が公の場に立った時にどうやって人として自然に居られるかを、心理学的、生理学的に研究した。
 たとえば1922年に、スタニスラフスキーの弟子ワフタンゴフが「トゥーランドット」を演出し、(自然主義的ではない)素晴らしいおとぎ話を作り上げた。つまり具体的なジャンルに限られるものではない。

■歴史

1989年:モスクワ芸術座創設
1902年:スタニスラフスキーが俳優芸術の文法を書こうと決心。
1906年:スタニスラフスキーは、自分が舞台上で演じながら他のこと(例えばギャラの計算など)を考えていることを自覚し、観客を騙している気した。17~18世紀のヨーロッパでは、「嘘つきだから」という理由で俳優は教会に埋葬されなかったこともある。スタニスラフスキーは俳優自身が自分を正当化できるようにしたかった。俳優の心理状態、神経系統の研究から始め、俳優の心理の方法を書き留めていく。

1909年:スタニスラフスキーは「システム」という言葉を初めて使い始める。ロシアの科学者メンデレーエフが元素の周期律表を作成したが、元素は今も発見され続けている。研究は終わらない。

1911年:スタニスラフスキーはモスクワ芸術座・第1スタジオを立ち上げる。「スタジオ」という名称は革命的。自然の創造を研究する場所という意味。経験を積んだ俳優は勉強をしたくなくなるのが常。だからスタニスラフスキーは研究を続けるためにスタジオを作った。
 彼は、まず訓練すべきは「情緒の記憶」と考え、内面のテクニックを研究する。

1915年:モリエールの芝居を上演。
1917年:ドストエフスキーの作品を上演。

 モリエールとシェイクスピアは同じ技術では演じられないと気づき、スタニスラフスキーは外面の研究に向かう。研究要素は二倍以上に。彼は「行動」が重要と考え「身体的行動のメリット」を考え始める。

1922~24年:2年にわたるモスクワ芸術座のアメリカ公演。「スタニスラフスキー・システム」の世界的な広がりが始まる。スタニスラフスキーは帰国後、「俳優の仕事」の執筆を開始。

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1928年:モスクワ芸術座の30周年で、スタニスラフスキーは『三人姉妹』のベルシーニンを演じていたが、舞台上で発作を起こし、俳優として舞台に立てなくなる。以降、家に学生を呼び、研究し始める。

 スタニスラフスキーの研究対象は「内面⇒外面⇒身体⇒心理」という順に進み(※メモなので正確性は保証できません)、「身体と心理は切り離せない」という発見に至る。その後、即興形式の稽古を始める。テーブル稽古に時間をかけると、俳優が座ったままなので(眠くなるし)、分析中に戯曲が体に入って行かないからだ。
 ゴーゴリ作『検察官』の稽古から、設定のみを確認して、すぐに演技を試すという方法を取り始めた。俳優は自分の言葉で、台本とは違うセリフを話してもいい。だんだん、設定の状況をわかっていないことに気づいていく。繰り返すうちに、俳優は台本と似たセリフを言い始める。

1930年代:スタニスラフスキーは「心理と身体が一体となった行動が一番大切」と言い始める。行動とは心理と身体が一体となったプロセスである。ある一定の目標達成に向かって、与えられた状況において、障害を乗り越えながら、空間の中で生きる。

1938年:スタニスラフスキー死去

■「スタニスラフスキー・システム」の世界への広がり

 「スタニスラフスキー・システム」は前期と後期に分かれており、28~30年代が後期の研究と言われる。

 1922~24年のアメリカ・ツアーで、「スタニスラフスキー・システム」(が有効なの)はリアリズム演劇だけだという誤解が広まる。ゴーリキーやチェーホフの作品を上演していたから。ソビエト時代のロシアでも「スタニスラフスキー・システム」はリアリズムのみと言われていた。
 1930年代はスターリン政権下で検閲が始まる。唯物哲学からかけ離れた表現は削除するという検閲で、たとえば「ヨガ」という言葉も使用禁止。神秘的なことは言えない状況だった。「情緒記憶」もブルジョワ的と批判された。
 また、政治的に「リアリズム演劇をやれ」という指令があった。国家のイデオロギーに反していなければOK。「スタニスラフスキー・システム」は「社会主義リアリズムの模範」と広められていく。全体主義のスターリンもヒットラーも、自然主義リアリズムのみを推奨していた。なぜならリアリズムは検閲しやすいから。詩や象徴主義は検閲しにくい。

 「スタニスラフスキー・システム」はいわば建物も爆弾も作れる数式。前期と後期に分かれていて、「後期は大人、前期は子供」と言われていた。前期を学んだ俳優の方が天才的な人が多い。たとえばワフタンゴフやマイケル・チェーホフなど。世界的に有名になった理由は、弟子がアメリカに渡って教え始めたから。

 スタニスラフスキーは前期の時点で、既に基本は分かっていた。だから私(=セルゲイ)は前期を研究し、米国でどう伝わったのかを調べ始めた。

■ルイシャルト・ボレスワフスキー Richard Boleslawski (1889–1937)

 弟子のルイシャルト・ボレスワフスキー(Ryszard Bolesławski リチャード・ボレスラウスキーとも呼ばれる)は1923年にアメリカでラボラトリー・シアターを開設した(1930年まで活動)。リー・ストラスバーグ(Lee Strasberg)、ステラ・アドラー(Stella Adler)などの名教師を輩出した。1947年にアクターズ・スタジオ、1969年にリー・ストラスバーグ演劇映画学校ができる。
 ボレスワフスキーはモスクワ芸術座の第1スタジオで、最初の作品を演出したポーランド人。1917年のロシア革命の後にポーランドに亡命し、1923年に米国に移住。彼が作った映画はアカデミー賞に10回ノミネートされている。出演した女優はグレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒなど。

 たとえばクラーク・ゲーブル主演の映画「Men in White」はボレスワフスキー監督作品。

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 1934年、ステラ・アドラーがスタニスラフスキーに会いにパリに来た。5週間に渡りスタニスラフスキーはアドラーに後期システムについて教えた。そのため、ラボラトリー・シアターは分裂。情緒訓練を重視したストラスバーグと、行動訓練に移ったステラ・アドラーの確執は約50年続く。2人の関係は商業的対立にもなっていったが、(セルゲイさんにとっては)どちらも正しい。方法は違うが、目的も心理も身体も同じだから。
 ストラスバーグ:とても物静かな人だった。(感情の)スイッチが入る瞬間を研究していた。
 アドラー:彼女自身が感情的な人だった。行動の論理を立てて行った(それで成功した)。

 私は米国でストラスバーグの家にも行った。壁中、本だらけだった。彼は映画「ゴッド・ファーザー Part Ⅱ」に出演しており(パートⅡのハイマン・ロス役)、撮影中はLAとNYを行ったり来たり。LAとNYの両方に同じ本を置いていたほどの読書家。法則にしたがって訓練し、研究していた。
 ステラ・アドラーはユダヤ人の演劇系の家系。7歳で初舞台。同時に18か所で家族の誰かが舞台に出てるような(演劇人だらけの家庭で育った)。

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 スタニスラフスキー著「芸術におけるわが生涯」は最初に米国で、英語で出版された。私が韓国に行った時、スタニスラフスキー・システムの本はすべて韓国語に訳されていると言われたが、ロシア語⇒英語⇒日本語⇒韓国語という翻訳順だった。「俳優の仕事」は21世紀に入ってようやく原語から日本語に翻訳された。
 

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■俳優訓練の現在

 俳優訓練は振り子のように動いている気がする。時代によって注目する場所が変わってくる。1960~90年代のロシアでは行動に重きが置かれていた。行動分析にかまけて、生きた人間がやっていることが置き去りにされた。今、基本を振り返っている。初期システムはストラスバーグが発展させた。「スタニスラフスキー・システム」はロシアで発展したと考えられがちだが、メソードは米国で。ただ便宜上そうしてるだけ。人間研究なのだから、システムもメソードも同じ。

 演技コーチを10年やってきて感じるのは、色んなアプローチが重要だということ。ロシアの演劇大学は基本的に4~5年制。私は(俳優の)入学から卒業まで4年周期で研究している。今年からカリキュラムにヨガを入れた。2012-2016年は情緒記憶をメインに教育した。俳優芸術は色んな方向から試さなければいけないと気づいてきた。

 ※ロシア国立サンクト・ペテルブルグ演劇大学は演出家が5年制、俳優が4年制。演出家が1年学んだ後に俳優が入学してくる。俳優の入学試験を同じ学年になる演出家が見ることもある。俳優が入学してから2年間は、演出家も俳優と同じカリキュラムで学習する。最後の2年間は俳優とともに演出家として学ぶ(セルゲイさんのもとで学んだ日本人の女優さんから聞きました)。

 スタニスラフスキーは1911年にヨガと出会い、ヨガのおかげで人間は頭脳と身体に分けられるものではなく、統一して存在しているととらえられた(西洋では頭脳と身体を分けるのが通常だったため)。

■質疑応答

質問:ブレヒトの演劇とリアリズム演劇について。

セルゲイ:どんな芝居でも俳優の注意力は必要。私はブレヒトの弟子のワグナーさんと会って話したことがある。ブレヒトが紙に書いて(後世に)残したものと、実際の演出は違っていたそうだ。知性だけで感情がないという演技は(好ましく)ない。知性からアプローチして、人(の感情)が爆発するようにしなければならない。
 私は自分の生徒を色んな種類の劇団で活躍できるように育てた。2月に来日したレフ・ドージン演出『たくらみと恋』にも、9月に利賀村のSCOTサマー・シーズン2017に参加するヴァレリー・フォーキン演出『ハムレット』にも、教え子が出演している。両方とも全く違う演劇。俳優を本質から育てて、ユニバーサルに活躍できるようにしている。

質問:私はロシアの演劇大学で学んだ後、ルーマニアの演劇祭で働いてきた。ロシアの演劇は人間的行動にあふれていたが、ルーマニアで観た作品で、映像が流れる中、人がパンを焼くだけというものがあり、退屈で寝てしまった。

セルゲイ:劇場という枠が外れてきているように感じる。パフォーマンス・アートと呼ばれたりするようになってきた。できたら(そういう作品には、演劇とは)別の名前を付けてもらいたい。

 テレビのスイッチを入れれば素晴らしい映画を見られる。演劇は金銭的に映画の比較にならない。俳優の質も映画とは争えない。映画はいい俳優を集めて撮る事ができる(高額のギャラを支払えるから)。では、なぜ観客は劇場に行くのか?生きたエネルギーの交換を観るため。劇場では、今、ここで、何かが起こっているから。

 (演技、演劇の)手法はいくらでもある。でも俳優の仕事とは、今、ここに、存在すること。スタニスラフスキーにはできなかったことだ。1906年に、彼は舞台でセリフを言いながら、頭の中ではお金を数えていた(ことを自覚してしまった)。俳優は今、ここに、居なきゃいけない。本当にそこに存在することは、すごく難しい。勉強が大切。舞台上の俳優を観ていて、その演技を信じられないなら、それがなぜなのかを研究しなくちゃいけない。日本にはお金を払って勉強をする俳優が多い。何を勉強するのかという目標を持たなければいけないし、(俳優である以上)責任がある。スポーツ選手と一緒。

 では、俳優は何をすべきなのか? 単純。シンプル。与えられた状況で、生理学的レベルまで、自分に責任を持てるようにすること。
 私は脳科学研究(の学部)と一緒に研究をしている。2つのグループで『ハムレット』の場面を演じてもらった。1つは俳優、2つは一般の人。頭や肌に心拍数などを計る計器を付けて、恋人のハムレットが兄ティボルトを殺したことを知るオフィーリアを演じる。俳優は心拍数が上がり、汗がにじみ出て、体が震えたりしてくる。一般の人は「あー!ティボルトが!ハムレット、なんてことを!」などと大声を出して嘆くような素振りをするけれど、計器は反応しない。つまり、頭で信じていても、体で信じられていないからだ。

 ブレヒトでも歌舞伎でも、(演技には)人間としての生理的な状態が関係する。俳優自身が生理的レベルで自分(の演技)を信じられていないと、お客さんも信じてくれない。人間のコミュニケーションの8割が振る舞いで行われる(言葉だけじゃない)。原始時代から変わっていない。

■受講者など

■公式

会場:世田谷文化芸術情報センター セミナールーム(5階)
定員:70名
WS全日5日間&レクチャー (¥39,000)
WS全日5日間 (¥39,000)
WS単発 (1日¥10,000)
聴講全日5日間&レクチャー (¥20,000)
聴講全日5日間 (¥17,500)
レクチャー (¥2,500)
聴講 (1日¥3,500)
<申込み>
ワークショップ、レクチャー共に、お申込みは下記メールフォームからどうぞ。
http://www.humansky.co.jp/workshop/form.html
<問い合わせ>
S-WorkTokyo事務局  
株式会社ヒューマンスカイ
TEL 03-6914-2620  MAIL  S-WorkTokyo(アットマーク)humansky.co.jp

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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