カンパニーデラシネラ『ふしぎの国のアリス』06/03-11新国立劇場小劇場THE PIT

 新国立劇場舞踊部門が制作するカンパニーデラシネラの親子向け公演の初日を鑑賞しました。上演時間は約1時間45分(休憩20分を含む)。

 3年前から始まった白い劇場シリーズ(『分身』『椿姫』『小品集』)の若手メンバーが新国立劇場小劇場の舞台に立っている姿を目にして、固定メンバーによる継続活動の成果が証明されたように思いました。

 アーツカウンシル東京で7/11に活動報告会があります。
 ⇒東京芸術文化創造発信助成【長期助成プログラム】活動報告会 第1回
  「カンパニーデラシネラの若手プロジェクト 3年間を振り返る

 ここからネタバレします。

 青いワンピースに黒のライダージャケットを羽織るアリス(崎山莉奈)がルービックキューブをかちゃりと完成させると、ふしぎの国への入り口が開き、穴へと落ちていきます。天板が少し斜めになっている、大小さまざまな大きさの台を手動でくっつけたり、離したり、並べ替えたりして変幻自在に場面転換します。例えば天板の裏面を客席に向けて、舞台の上下(かみしも)を横切るように一直線に並べ、その中でアリスが寝転ぶと、地上(下手)から地下(上手)に落下しているように見えるのです。アリスとは別の空間で優雅に日光浴をするセクシーな美男子(斉藤悠)が「オーストラリアに居る」と言うので、アリスが赤道を通過して南半球に到達したとも想像させます。実はその美男子はアリスの飼い猫のダイナなんですけどね(笑)。いい大人が突然四つん這いになって猫に変身するギャップが可笑しいです。

 青いスモッグを着て頬っ被りをしたアリス(藤田桃子)も登場し、ドアの鍵を探し続けます。ドアを模したキャスター付きの大きなパネルが複数枚、ぐるぐると移動して空間を区切り、無数のドアが立ちはだかる迷宮があらわれます。ドアの大きさは見上げるものから手のひらサイズまであって、空間が伸び縮みします。小瓶の薬を飲んだアリスが巨人化したり、小人化したりもします。映像などは使わない、アナログな手法による見事なイリュージョンです。光る2つの目玉と、小さな電球を仕込んだハンガーで、大きなチェシャ猫も登場。アリスが自分の涙に溺れる場面もあり、意外に原作に忠実でした。

 第二幕は顔を白塗りにした可愛らしい兎(王下貴司)が、招待客(荒悠平)に“女王陛下からの招待状”を届ける場面から始まります。背の高さほどもある大きな招待状の板を使った、2人の男性ダンサーの鍛えられた身体によるアクロバティックなコントに、子供たちも大いに沸いていました。大小のサイズをそろえた椅子の上をアリスが空中歩行していくのは、彼女が足を一歩前に出す直前に、他のダンサーが既に歩き終わって背後にある椅子を持ってくるというスリリングなパフォーマンスです。可動式のテーブルや椅子と戯れるのはカンパニーデラシネラの真骨頂。トランプの女王(藤田桃子)が暴れまわり、気弱な王様(大庭裕介)とナンセンスな会話をします。意味が通らないこと、理由がわからないこと、ふしぎで少し怖いことを面白く見せており、世間や常識にはハマらない何かを全力で肯定する姿勢に共感しました。

 最後はオープニングと同じ形に台が並び、台の上でアリス(崎山莉奈)が目覚めます。上手にも冒頭と同様に寝転がっている女性(仁科幸)がいて、彼女はアリスを起こしに来た姉であり、実は昼寝をしてふしぎの国の夢を観ていたアリスでもあるんですね。スマートな終幕でした。

 カンパニーデラシネラの小野寺修二さんと藤田桃子さんは、もともと水と油というパントマイム集団で活動されており、2003年に朝日舞台芸術賞・寺山修司賞を受賞。小野寺さんはその後、文化庁の海外研修制度で1年間フランスに滞在されて、2011年には第18回読売演劇大賞・最優秀スタッフ賞を受賞。パントマイム、ダンス、演劇といったジャンルに縛られない活動をされています。今作品もダンス公演という枠内ではあるものの、セリフも会話もあるし、ダンスもパントマイムもありました。日常と地続きにある非日常を魔法のように立ち上がらせ、子供たちに手渡しするように届けることができた素晴らしい公演だったと思います。

 20分間の休憩は劇場からの指定で、カンパニーデラシネラとしては初めての試みだったそうです。私はそれが功を奏したように思います。というのも、「夏のこども劇場セット」としてバレエ公演とセットのチケットが販売されており、バレエを習っているお子さんとその親御さんも沢山いらしてたようなんですね。演劇やコンテンポラリーダンスにあまり触れていない観客が、どうやって鑑賞すればいいのかを驚きながら知っていくのが一幕でした。休憩時間は感じたものを咀嚼して、一緒に観ていた人と共有するコミュニケーションの時間になったのではないかと思います。二幕が始まった途端、観客が前のめりになって積極的に舞台に参加しようとしている空気がありました。一幕でしっかり助走し、二幕で飛翔する構造です。初日にはなかったのですが、幕間でオブジェを用いた参加型パフォーマンスもあったそうで、子供たちを楽しませる趣向が徹底されていました。もちろん親御さんも喜んだはずです。終わって客電が点いた瞬間に、私の後方席のお嬢さんが「すごーい!面白かったー!」と声に出していました。

 出演者について。小野寺修二さんと藤田桃子さんはカンパニーデラシネラの顔で、荒悠平さんは初参加。その他は白い劇場シリーズ等に継続的に参加してきた若手です。アンサンブルとして、作品としての充実だけでなく、8人の出演者それぞれの魅力を前面に出していこうという意図が成功していました。団体の強みを増やしているんですね。小野寺さんは人間の魅力のありかをご存じなのだと思います。かっこつけるばかりだとみっともないし、素を晒しすぎるのも、笑いを取るために媚びるのも間違いです。揺れ幅のある柔軟な態度で美醜を行き来して、技術を見せびらかすことなく、観客の懐に入っていく。それを若手に手渡しているのだと思います。

【追加公演日程】2017年6月4日(日)17:00 開演
出演:荒悠平、王下貴司、大庭裕介、斉藤悠、崎山莉奈、仁科幸、藤田桃子、小野寺修二
構成・演出:小野寺修二
演出助手:藤田桃子
美術:石黒猛
照明:吉本有輝子
音響:黒野尚
衣裳:今村あずさ
テキスト:山口茜
音楽監修・音源作成:池田野歩
ヘアメイク:増田佳代
舞台監督:橋本加奈子
アンダースタディー:辻田暁 浅井浩介
制作協力:syuz’gen
芸術監督:大原永子
制作:新国立劇場
チラシイラスト:大野舞
《A席》
大人(高校生以上):5,400円
ジュニア(中学生):4,320円
こども(4歳~小学6年生):2,700円
《B席》
大人(高校生以上):3,240円
ジュニア(中学生):2,592円
こども(4歳~小学6年生):1,620円
※こども料金は、ご観劇当日に4歳~小学6年生の方が対象です(中学生の方は大人料金となりますが、ジュニア割引[20%割引]をご利用いただけます)。また、ご入場時に年齢を確認させていただく場合がございます。
Z席:1,620円
※Z席は舞台が見づらいお席です。予めご了承ください。
http://www.nntt.jac.go.jp/dance/performance/33_007948.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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