Bunkamura『世界』01/14-28 Bunkamuraシアターコクーン

 赤堀雅秋さんが作・演出、そして出演されるBunkamuraシアターコクーンでの新作。上演時間は約2時間15分、カーテンコール3回込み。

 ※1/11夜、12昼、13昼、14昼は出演者がインフルエンザを発症したため公演中止。

≪あらすじ≫ 公式サイトより
千葉県船橋市。郊外のうら寂れた一角のとある家族を中心とした物語。
足立家の人々。誰彼構わず噛みつく父・義男(風間杜夫)は工場を経営しているが、実質は息子の健二(大倉孝二)にまかせている。愚痴や噂話を喋り続けるばかりの義男の妻・節子(梅沢昌代)は、ある日突然に離婚を切り出し、家を出る準備を進めている。健二は8年前に妻・美紀(青木さやか)と結婚したが、スナックのママ宏子(鈴木砂羽)と浮気中。
自宅に隣接する工場では、義男が知人の親に頼まれ、預かった引きこもり青年・辺見(早乙女太一)と、工場同様くたびれた風情の服部(福田転球)が働いている。
彼らが仕事終わりにたむろするのは、宏子と夫・坂崎(赤堀雅秋)が営むスナックである。
一方、美紀のパート先であるスーパーの店員・諸星(和田正人)は風俗嬢のあずみ(広瀬アリス)に片思いをしている。
親子の確執、夫婦の問題、浮気、離婚、嘘など様々な波紋が広がっていく中、逃れられない小さな人間関係の機微、生々しい日常は、細い糸で結び合い絡まって・・・
≪ここまで≫

 ある地方都市のとても小さなコミュニティーで生きる、市井の人々の日常を描く群像劇で、かなり笑わせてもらいました。
 俳優さんは皆さん、良かったです。パンフレット(1500円)のインタビューなどにあるように、赤堀さんは俳優がストイックに劇中の世界に“在る”ことを目指す稽古を積まれたようです。

 手のひらのスマホで国を越えて文字通り世界に無料でアクセスできるようになりましたが、読むのはヤフーニュースのゴシップだし、自分が選んだツイッターのタイムラインだけだし、気になるのは地元の天気予報だし。人間はどこまでもドメスティックです。あるドキュメンタリー映画で「自分の周囲5m以内の人が幸せでないと、自分は幸せになれない」とおっしゃった女性がいました。その方は東京電力福島第一原発事故のために自宅から避難されており、避難所の一区画にボランティアで花を植えていらっしゃいました。その行為に人間の幸せがあり、世界平和があるのではないか…そんなことを考えました。

 赤堀さんの映画「その夜の侍」、いいですよ。

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 映画「葛城事件」も赤堀さんがご自身のお芝居を監督されました。

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 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

・詳しい目のあらすじ(間違ってたらごめんなさい)

 回り舞台(盆)の上には4つほどの部屋があり、回転して場面転換。義男夫婦とその息子の健二夫婦が暮らす家の居間、義男らが毎日のように通う坂崎とその妻・宏子が経営するスナック、宏子と健二が逢引するラブホの一室、健二の妻・美紀が働いているスーパーでアルバイトする諸星の、一人暮らしをしている部屋。スーパーの控室も終盤で現れる。
 家財道具は緻密に作り込まれている。その上には舞台の上下(かみしも)を横切る歩道橋のセットがあり、人が行き来する。回る部屋が地球で歩道橋はそれを俯瞰する神の視点だとすれば、舞台上に「世界」があることに。神は登場せず人間が居るだけだからこそ、「世界」なのだとも言える。

 リタイアした義男は家でも外でも威張り散らし、いかにも団塊の世代の男性らしい(私の父のよう)。たとえば息子の健二が義男の後を継いで工場を建て直したが(「シンナーの一斗缶を3つ盗まれた」エピソードあり。塗装工場?)、義男は「俺が建てた家だ、気に入らないなら出て行け」と言い放つ。義男の妻・節子は離婚を決心し、アパートを探して家を出る準備中。義男とは顔も合わせない。
 節子はくしゃみをしたせいで肋骨に小さなヒビが入り、夜中に救急車で病院へ。床に横になって苦しんでいた節子に、優しい声さえかけない義男。節子は静かに「私、あなたのことが、本当に嫌い」とつぶやく。

 家事全般を引き受け、パートで働いてもいる健二の嫁・美紀はテレビをよく見ていて、スマホでヤフーニュースをチェックする、ごく普通の女性。健康的で清潔そうで朗らかなので、周囲の人たちに好かれそう。そんな奥さんがいるのに健二はスナックのママ・宏子と浮気中。両親の仲の悪さは絶望的で、工員が2人だけしかいない職場が家の隣りなのだ。息が詰まるのも無理はない。

 高知出身で俳優志望の34歳(たぶん)男性の諸星は、ゲームセンターで偶然出会った辺見と意気投合し、ファミレス(たぶん)で5時間も話し込んだ。辺見は平日、諸星の部屋で昼食(コンビニのスパゲッティ)を取ることが日課になる。諸星は好きになったデリヘル嬢のあずみ(源氏名・22歳)を辺見に紹介したくて、昼に彼女を家に呼んだところ、なんと、あずみと辺見は代々木アニメーション学院の同級生だった。2人はその夜、急接近して、なんと明け方には付き合うことに(あずみが辺見にコクる)。ネットカフェで夜を明かした2人はそのまま諸星の家に行き、交際を報告。ショックを受ける諸星と罪悪感ゼロの2人。30代と20代の世代の差がよく出ている。

 船橋のラブホで会うだけの関係が嫌で、宏子は健二に別れ話を切り出すが、体を合わせたらやはり離れたくない。宏子に「旅行に行きたい、温泉に行きたい、熱海とか湯河原でいい、ここから車で2時間でしょ?!」と泣きつつかれ、健二は覚悟を決めて、「明日の朝10時にセブンイレブンの前の駐車場で会おう」と提案。翌日、朝10時よりもずっと前から、歩道橋の上で待ち合わせ場所を見守っていた宏子だが、彼は待ち合わせ場所には現れなかった。その夜、いつもどおりスナックに来た健二を、彼女は責めない。

 諸星がバイトをしているスーパー(「さかな、さかな、さかな~」の歌が流れている)で義男が練りワサビを万引きしようとしてつかまった。控室でも悪態をつき、諸星に「バイトの分際で命令するな、店長を呼べ」などと暴言を吐く義男。同じスーパーでパートをする美紀からの連絡で、すぐに健二がやってきた。「盗んでない」「記憶がない」と怒鳴って部屋から出ようとする義男を、健二が抑え込む。足を引きずられ、床につっぷす義男は弱弱しい。練りワサビは諸星が受け取り、義男は家に帰る。美紀も後で帰宅するが、万引き事件については節子には黙っている。義男自ら切り出そうとするが、飛行機の騒音(?)にかき消され、タイミングを失う。老い(体が弱る、記憶力が衰える)は誰にも訪れる。

 キャスター付きの小さな旅行鞄を横に置いて、歩道橋で健二を待っていた宏子に、デリヘル嬢のあずみが声をかけた(諸星の部屋からの帰りだろう)。自殺するのかと思ったからだ。初対面の女性同士の軽い会話が始まる。「若いわね、私にそのぐらいに娘がいてもいいぐらい」「私、母がいないので」「聞いてないわよ(笑)」など。「娘とランチなんていいわね、中華?パスタ?何がいい?」という流れで、宏子が本気で「お蕎麦を一緒に食べに行かない?」と誘うと、あずみは泣き出した。そのまま号泣して、止まらない。

 あずみが「彼氏ができてもデリヘルはしばらく辞めない。だって他にいいバイトがないから」と言っていた意味がわかった。親がいないから声優になる夢(宝くじに当たるより難しいと辺見が言う)のために、自分で稼がなくてはならないのだろう。
 偶然出会った他者との交流のエピソードはデュエット曲「居酒屋」と同じ。ゲームセンターでの諸星と辺見の出会いも、辺見とあずみの再会も偶然だ。ほんの少し勇気を出して、他者と触れ合おうとすることの尊さ。そして触れ合いが生む変化の面白さ。平凡なようでいて、一人の人間の人生はいつも揺れ動いている。

 ある日の朝食の風景から、その翌日の夜のスナックでのカラオケ合唱までを描く、たった2日間の話なのだ。2日目の夜も、1日目と同じように、同じメンツが集まって、同じ話(宏子の夫、坂崎(赤堀雅秋)が尿管結石で救急車で運ばれた話)。無断欠勤した辺見もやってきた。先輩工員の服部(福田転球)が優しく問いただすと、「心の中では何度も電話した」「悪気はない」「辞める気はない」と、相変わらずの開き直り。一度は激昂した健二だが、宏子が「戻ってきたんだから、いいじゃないの」と間に入り、丸く収まる。健二と広子が「居酒屋」をデュエットし始めると、既に酔ってふらふらの義男もやってきて、マイクを奪う。タンバリンを鳴らしたり、ともに歌ったり。

 夜が更けて粉雪が降り出した。先にスナックから出た義男が、歩道橋の上で「気象庁の背広の連中、やるじゃないか(雨じゃなくて雪だけど、予報は当たった)」と嬉しそうにつぶやく。雪は下にある部屋にも降り注いでいた。終幕。

・勝手なつぶやき

 スナックのカラオケで歌うデュエット曲が「居酒屋」(1982年)で最高です(作詞:阿久悠 作曲:大野克夫)。「銀座の恋の物語」とか「別れても好きな人」とかじゃなく。
 

 赤堀さんが歌うモーニング娘「LOVE MACHINE」(1999年)もたまりませんね。「日本の未来は WOW WOW WOW WOW 世界がうらやむ YEAH YEAH YEAH YEAH」だもん。

 ラジオから松田聖子「渚のバルコニー」(1982年)が流れる中、カップラーメンをすする節子(梅沢昌代)。沁みる…。

 出演者は皆、個性が生かされていて、魅力的でした。当て書きなのか、演出、演技の賜物なのかはわかりませんが、とにかく全員が適役だと思いました。

 赤堀雅秋さん演じる坂崎は“ちょっとした土地持ち”(パンフレットより)で、不動産業にも詳しいのか、節子の新居探しも手伝っていました。おそらく妻・宏子と健二の仲も知った上で、黙っている様子。狭いコミュニティーで小さな幸せをともに守る知恵があると思いました。

 早乙女太一さん。22歳(たぶん)の元ひきこもりのイケメンで、代々木アニメーション学院も途中で退学する、根性のない若者。自分のダメなところに気づかず、振り返らず、最初から開き直ってる尊大さがとても今風。それをさらりと演じてくださっています。1000円払ってデリヘル嬢をハグする場面の色っぽさったら!(赤堀さんのラブシーンはほんとにセクシー♪) いくつか観てきた彼の舞台ではじめて、「もっと殺陣を観たい」という気持ちが湧いてきませんでした。

 鈴木砂羽さんの魅力が大いに発揮されていたように思います。女性らしさをひけらかすような服装とヘアメイクで、実際にスタイル抜群で、ちょっとバカな美人(毎朝パンを食べてるのに小麦断ちしてるとか言い出すような。うどんの原材料が小麦なのも知らなかった)。プンプンしても怒り過ぎない。泣くけど叫ばない。子供(おそらく女子中高生?)がいるけど、自分も少女のように可愛いらしい。それでいて母のような抱擁力もある。無敵の愛嬌ですよね。

出演:風間杜夫、大倉孝二、早乙女太一、広瀬アリス、青木さやか、和田正人、福田転球、赤堀雅秋、梅沢昌代、鈴木砂羽
脚本・演出:赤堀雅秋 美術:土岐研一 照明:杉本公亮 音響:高橋克司 衣裳:坂東智代 ヘアメイク:鎌田直樹 演出助手:渡邉さつき 舞台監督:南部丈 稽古場代役:駒井健介 
[テレビ東京]松迫由香子 山田倫生 伊藤淳也 宮下祐佳里
[Bunkamura]エグゼクティブ・プロデューサー:加藤真規 チーフ・プロデューサー:松井珠美 チーフ・プロデューサー:森田智子 プロデューサー:岡本由紀夫 プロデューサー:佐貫こしの 制作助手:間所珠世 票券:岡野昌恵 劇場舞台技術:野中昭二
[主催]Bunkamura、テレビ東京
[企画・製作]Bunkamura
【発売日】2016/10/29
<全席指定>
S席:\10,000
A席:\8,000
コクーンシート:\5,000
※コクーンシートは、特にご覧になりにくいお席です。ご了承の上ご購入ください。
※未就学児童のご入場はご遠慮いただいております。
※本公演は喫煙シーンが多く登場いたします。ご了承の上、ご観劇をお願いいたします。
※1/11夜、12昼、13昼、14昼は公演中止となりました
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/17_sekai/
http://stage.corich.jp/stage/79610

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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