【写真レポート・俳優養成】新国立劇場演劇「「かさなる視点―日本戯曲の力―」合同取材会(部分)」11/28新国立劇場5階・会議室

 新国立劇場演劇部門は2017年3月~5月にシリーズ「かさなる視点―日本戯曲の力―」として、昭和30年代の日本の戯曲を3作連続で上演します。演出を手掛ける30代の演出家3人(上演順に谷賢一さん、上村聡史さん、小川絵梨子さん)と、演劇部門芸術監督の宮田慶子さんが登壇する合同取材会に伺いました。

 2016年4月より宮田さんは新国立劇場演劇研修所の所長に就任されました(前所長は栗山民也さん)。上村聡史さんは同研修所のスタジオ・サポート委員で、谷賢一さんと小川絵梨子さんも同研修所でシーン・スタディなどの授業を受け持っていらっしゃいます。

 約1時間の合同取材会の内容から、同研修所についてお答えいただいた部分のレポートです。劇場と研修所の今、そしてこれからの連携について、お話しくださいました。13期生募集の受付は12/20まで、郵送必着です。⇒詳細

 ――『城塞』(演出:上村聡史)以外の2作品には、新国立劇場演劇研修所の修了生がキャスティングされています(『白蟻の巣』(演出:谷賢一)に1人、『マリアの首―幻に長崎を想う曲―』(演出:小川絵梨子)に3人)。宮田さんが演出される2017年6月の『君が人生の時』についても、修了生7人の出演が発表されました。
 宮田芸術監督時代から始まった、修了生にフィーチャーしたシリーズ(2013年『長い墓標の列』、2014年『マニラ瑞穂記』、2015年『ウィンズロウ・ボーイ』)以降も、ミュージカルと『城塞』を除く新作公演には、必ず1人以上の修了生が出ていることになります。
 これからの新国立劇場と、研修所との関係についてお聞きしたいです。

 宮田:研修所長として、修了生が各作品に参加させていただけることに感謝しています。ここの現場の質の良さ、時間のかけ方は自負していますから、彼らがこの劇場でキャリアを踏むことで、とても丁寧に送り出せると思います。慌てて作るのではなく、ちゃんとしっくり作品と向かい合える、この劇場の現場から巣立っていってくれることが嬉しい。そして、皆さん(3人の演出家)がそれを引き受けてくださって嬉しいです。

 :僕自身も野育ちの自覚があるのですが、『白蟻の巣』に出演してくださる平田満さん、安蘭けいさんは出自がそれぞれ違って、野育ち感が凄い。自分の力で、腕で、つかみ取ってきたワイルドさがある方々です。僕は新国立劇場演劇研修所の修了生はエリートだと思うし、「エリートたれ」とも思うんです。彼らに「どうだ貴様ら、野育ちの力はこれだ!」っていう所を見せつけたい。やっぱり現場で戦い抜いてきた人たちは、とても賢くて、力強い。それと触れることで、「こんな力があったのか!」と彼らにも伝わると思う。それが同期や先輩、後輩に伝われば、いい刺激になるんじゃないか。そこに期待したいですね。

左から(敬称略):小川絵梨子、上村聡史、谷賢一、宮田慶子
左から(敬称略):小川絵梨子、上村聡史、谷賢一、宮田慶子

 上村:個人的なことで言えば、最近「継承」についてよく考えるんです。現代演劇は伝統芸能ではないので、「継承」というと「技」の継承になるかと思いますが、「精神」も含めたものについて。それこそ(今回のシリーズ3作では)戦後の体験を演劇の表現によって継承していくわけです。そういった精神の継承とは、どういうことなんだろうと。
 僕が所属する文学座(⇒創立80周年記念ページ)には、かなり幅広い世代の演出者、俳優がいて、作品を作っていない時でも交流ができます。でも新国立劇場演劇研修所は開所から年数が経っていないから(2005年開所で今は12年目)、(ベテランの演劇人との)交流は授業でしか得られないかもしれない。
 ただ、修了生が2名出演していた『アルトナの幽閉者』(2014年、上村演出)は、プロデュース公演だけれど、新国立劇場側のソフトを作る態勢が非常に風通しが良かった。辻萬長さんや岡本健一さんが修了生に「こうした方がいいんじゃない?」とアドバイスしたりして、劇団のような風通しのいい空気感があったんです。これはなかなか経験できることではない。だから僕は劇場側のソフトに修了生が出ることで、過去の表現を知っている方々から精神的なことが継承されていく機会がどんどん増えていけばいいと思ってます。

 小川:オーディションをさせていただいて、修了生に出て頂けることになりました。劇場付属の研修所とはいえ卒業されているので、ちゃんと一人の俳優として扱うことが、すごく重要なんじゃないかと思っています。一人の俳優として扱われることで、俳優としての自尊心や自立心が育まれていくものだと思うので。
 台本によっては一言、二言しかセリフがない役って、結構あるんですよね。私はそういう台本が苦手で、セリフ量が基本的にほぼ均等か、多少の偏りがあっても許容できる範囲のものを選んできました。でも今回の『マリアの首』はそうではなく…。
 たとえばセリフが3つしかない役に、主役級の俳優をキャスティングすることは、なかなかできない。キャスティングってすごく難しいなと思います。そういう役に修了生が興味持って、やってくださるのはありがたいです。逆に「都合がいいから使ってる」なんて風に、こっちがちょっとでも思っちゃったら、とんでもなく失礼なことだと思います。

 上村:でも僕は、そういう所からどんどん間口を広げていったらいいと思います。こんなに充実したカリキュラムを持ってる養成所は、他にないですよね。演劇は自分の人生の経験値とリンクする所があるから、短いスパンで、すぐに目立った活躍をするのは難しい。もちろん日本全体の演劇状況も同様で、長い目で見ていかなくちゃいけない。だから劇場と養成が連動していくことが大切です。はじめはセリフが少ない役かもしれないけど、そこから修了生自身もキャパシティを広げていけばいい。お互いの相互作用にもっと可能性があると思います。

 宮田:上村さんや私は劇団育ちだから「まずはセリフ一言からだよ!」という思いもあります(笑)。セリフが少なくても学ぶことは山のようにありますから。大丈夫! 皆ちゃんと、先輩の芝居を見て学んでいきますよ。


■谷賢一さんの新国立劇場演劇研修所および人材育成に関するツイート

出席者:谷賢一、上村聡史、小川絵梨子、宮田慶子(演劇芸術監督)
『白蟻の巣』作:三島由紀夫 演出:谷賢一 2017年3月2日~19日 @新国立劇場小劇場
『城塞』作:安部公房 演出:上村聡史 2017年4月13日~30日 @新国立劇場小劇場
『マリアの首―幻に長崎を想う曲―』作:田中千禾夫 演出:小川絵梨子 2017年5月10日~28日 @新国立劇場小劇場

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