劇団昴ザ・サード・ステージ『THE GREEKS(グリークス)』07/22-08/07 Pit昴(サイスタジオ大山第一)

THE GREEKS
THE GREEKS

 劇団昴が文学座の上村聡史さんを演出に迎え、小劇場で『THE GREEKS(グリークス)』三部作を一挙上演。客席数74席、総出演者数は36人。ものすごく贅沢です。これぞ小劇場演劇の醍醐味。

 新国立劇場演劇『ヘンリー六世』もそうしたのですが、私は1部ずつ別の日に観るタイプ。全部続けて観る楽しみも大いにあると思いますが、記憶が薄れてしまうし、体力が持たないので(汗)。結論は…毎日同じ劇場に通って、中央の席を陣取って(笑)、しっかり味わえてよかったです♪

 全体の感想としては、上村さんの演出がとても面白かったです。美術、衣装を乗峯雅寛さんが担当されており、作品に統一感があります。演技の方向性、登場人物の配置、役割などから意図がしっかり受け取れました。場面ごとの鮮やかな変化を楽しみながら、巧みだな~とうなりました。それに比べると俳優は力量不足の印象でした。ただ、私が観たのは最初の三日間ですので、これから進歩、更新されていくことと思います。

 以下、ざっとしたあらすじと感想などです。ネタバレしています。だ・である調とです・ます調が混在。雑ですが、ご参考になれば。※間違いがあればご指摘いただけると助かります。

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■第一部:戦争

 約2時間25分(途中休憩15分を含む)。

 横長のプロセニアム舞台。鉄パイプで二階建てに組まれた装置で、1階部分の奥には海と砂浜が描かれたカーテンが全体を覆うように吊られている。下手側には壁に向かって数段のぼる大きな階段があり、踊り場の行き止まりの壁には人の背丈の高さの鏡あり。鏡には黒い布がかけられることもあり、鏡が露出している場面の舞台はギリシャであるようだ(トロイアや他の場面では鏡は黒布で隠されている)。※後に、ギリシャとも限らないことがわかる。つまり鏡を見せる/隠す意図はわからなかった。

 男性は軍服に勲章、スーツなどまとい、機関銃やピストルを持つ。女性はギリシャ風…なのか、黒い布を頭からかぶったりもしている。

 顔に落書きをするように筆で色を塗っていて、白はギリシャ人、黒はトロイア人、金色は神々という色分けになっている。

1.プロローグとアウリスのイピゲネイア

 アガメムノン(石田博英)はトロイアに侵攻するにあたり、16歳の長女イピゲネイア(落合るみ)を生贄にすると決める。女神アルテミスがそう望んだのだ(でなければトロイアへ向かうために必要な風が吹かない)。妻クリュタイムメストラ(服部幸子)とイピゲネイアに、イピゲネイアをアキレウス(加藤和将)を結婚させると嘘をついて、2人を呼び寄せた。最初は抵抗したが、イピゲネイアは自ら進んで生贄になり、クリュタイムメストラは末っ子の赤子オレステスを抱いてギリシャに帰る。

 伝令タルテュビオス(町屋圭祐)がイピゲネイアの死について「首を斬られて横たわっていたのは(イピゲネイアではなく)牝鹿だった」などと報告するが、クリュタイムメストラは信じない。

2.アキレウス

 女神テティス(林佳代子)と人間の間に生まれた兵士アキレウス(加藤和将)は兵士パトロクロス(近藤瑞希)を愛するが、女も手あたり次第にものにしていた。アキレウスは勇者ではあるが、母に甘える弱さもある若者。
 アガメムノンがアキレウスの女が欲しいと言い出して2人は仲たがいする。トロイアとの戦争はギリシャが圧倒的不利に。アキレウスが神アポロンにギリシャが不利になるよう祈ったからだ(しかし、最終的には「木馬作戦」でギリシャが勝つ)。

 休憩15分。

3.トロイアの女たち

 ギリシャ軍に蹂躙されるトロイアの街。黒いヒジャブ(?)をまとった女たちが迷彩服の兵士たちに強姦される。高らかに流れるTHE BEATLESの”Hello Goodbye”。

 死んだトロイア王プリアモス(金房求)の妻ヘカベ(小沢寿美恵)、ヘカベの長女で預言者のカッサンドラ(大坂史子)、アキレウスに殺されたトロイヤの総大将ヘクトルの妻アンドロマケ(高山佳音里)はギリシャで奴隷にされる。

 戦争の原因である美女ヘレネ(市川奈央子)がマリリン・モンローみたいだった。

 カーテンコールでTHE BEATLESの”All You Need Is Love”が流れる。前奏がイギリス国歌「女王陛下万歳」だから衝撃が大きい。イラク戦争にアブグレイブ刑務所で起きていた捕虜虐待等を思い出した。

■第二部:殺人

 約1時間45分休憩なし。

4.ヘカベ

 1階部分の手前に半透明のビニール製のカーテンが、全体を覆うように吊られている。第一部と違う印象。

 トロイアの女王ヘカベは末娘ポリュクセネ(箱田好子)が(アキレウスの遺言のせいで)生贄として殺された後、幼い息子ポリュドーロスも殺されたことを知る。ポリュドーロスを預けていたトロキア王ポリュメストル(江﨑泰介)がトロイア陥落後に手をかけたのだ。ヘカベはポリュメストルとその息子(笹井達規)を罠にかけて殺し復讐を遂げるが、両眼をつぶされたポリュメストルの呪いの予言のせいで、犬になって死んでしまう。

 第一部でも活躍していたギリシャ軍の伝令タルテュビオス役の町屋圭祐さんが良い。

5.アガメムノン

 10年の歳月を経て、トロイアを征服して凱旋した夫アガメムノンを妻クリュタイムメストラ(服部幸子)と侍女たちが迎える。クリュタイムメストラはロフトの上。上手側にいた侍女たちの会話は、ひそひそとした内輪話にも見えるし、観客に伝える独白にもなったりする。その構成が巧み。

 アガメムノンのそばにはトロイアの王女カッサンドラの姿が。彼女はアガメムノンの奴隷(情婦)になったのだ。クリュタイムメストラは玄関に絹の布を敷き、その上を歩いて家に入るようにアガメムノンに勧めるが、アガメムノンは神の怒りを恐れて素足になってからその布の上を歩く。舞台上の布は絹ではなく血まみれのビニールで、床全体に広がっている。

 カッサンドラはアガメムノンの家の血塗られた過去と未来を予言。やがてクリュタイムメストラがアガメムノンとカッサンドラを殺す。彼女は生贄にされた長女イピゲネイアの敵を取ったのだ。実はアガメムノンの従兄弟アイギストス(佐々木誠二)との策略でもあった。

 クリュタイムメストラ役の服部幸子さんが素晴らしい。

6.エレクトラ

 アガメムノンに代わってアイギストスがクリュタイムメストラの夫となり、国を治めるようになった。次女エレクトラは母と新しい父への反抗心を隠さない。

 クリュタイムメストラの衣装は毎度変わっており、今回はエレガント。次女エレクトラ(村松妙子)は灰色のカジュアルな(貧相な)ワンピースに黒い革ジャンと黒い長ブーツで不良っぽい。三女クリュソテミス(広瀬和)はバサっとしたニットにジーンズというダサい格好。この姉妹の服装は既視感あり。どこかで観た気がするなぁ…でもわかりやすく、入り込みやすくていいと思った。オレステス(矢﨑和哉)は軍服でぽっちゃり体型。ドジでまぬけなキャラになっていた(笑)。全体が家族の痴話げんかみたいに見えるのがいい!母クリュタイムメストラと次女エレクトラの言い争いは特に笑えた。ここでもクリュタイムメストラ役の服部幸子さんがとても良い。

 オレステスは神アポロンの予言を得て、エレクトラも彼を手助けし、母とアイギストスを殺す。血まみれのオレステスは犯した罪の重さを恐れる。エレクトラもまた。

 床に敷かれた血まみれのビニールの四隅が釣り上げられて、天井になる。客席と舞台が近いのですごい迫力!布使いの巧みさは鵜山仁さんの新国立劇場『ヘンリー六世』(2009年)を思い出したり。

■第三部:神々

 約2時間35分(途中休憩15分を含む)。

7.ヘレネ

 ヘクトルと浮気してトロイアに行ったはずのヘレネ(市川奈央子)だが、実は女神(アプロディーテ?)によって、エジプトに連れ去られていた。そこに海を放浪していた夫メネラオス(宮島岳史)が流れ着き、ヘレネに求婚していたその地の王テオクルメノス(江﨑泰介)を騙し、脱出を図る。

 トロイアに居たヘレネは幻で、実体はエジプトにいた。だとすると10年間のギリシャとトロイアの戦争は一体何だったのか…。神々に振り回されただけなのか、戦争の本当の目的は違うところにあったのか(ギリシャはトロイアの豊かな財宝が目当てだった等)。

 ヘレネ登場のBGMは映画「お熱いのがお好き」の”I Wanna Be Loved by You”。手前のカーテンが全面、銀色のシートになっていて、奴隷の女性たちの衣装も露出度の高い銀色素材で、目もとを横一直線に青白く塗るメイク。青、緑、ピンクなどのカラフルな照明が銀色に反射して宇宙もののSFのよう。演技も大仰で、王テオクルメノスは一体、何風キャラだったのか…(笑)。

8.オレステス

 7の明るいムードから一転、どん底にいるエレクトラとオレステス。白塗りメイクが激しくて骸骨のよう。市民らの多数決で死刑の判決を受けた彼らは、友人ピュラデス(加賀谷崇文)と策略を巡らす。帰国したヘレネを殺害し、メネラオスの娘ヘルミオネ(立花香織)を人質に取る。戦争の元凶で嫌われ者のヘレネを殺害して市民の支持を得て、メネラオスに死刑取り消しを迫るという計画だ。

 しかし殺したはずのヘレナは姿を消し、代わりに天使を連れたアポロン(樋山雄作)が現れた。アポロンは腰だけに衣装をまとってほぼ全裸。全身が金色だ。お腹には「LOVE ≠ SEX」という文字がデカデカと描かれている…かなり…滑稽(笑)。しかも言うことが矛盾してるのでオレステスやエレクトラなどから「ええ?」と何度もつっこみを入れられる。しかし、誰もが彼に従い、丸く収まる。あまりに強引なので観客もあっけにとられる結末(笑)。頭脳警察「さようなら世界夫人よ」が流れて、また心がかき乱される。

 休憩15分。

9.アンドロマケ

 演技スペースの天井に、銀色の金属の棒が10数本、ランダムに吊り下げられる。来訪者がそれに触れると体に電気が走るという設定。神殿の中。

 アンドロマケ(高山佳音里)はトロイアの総大将ヘクトルの妃だったが、夫をアキレウスに殺され、アキレウスの息子ネオプトレモスの妻となった。ネプトレモスとの間に息子を生むが、後妻となったヘルミオネ(立花香織)に命を狙われ、息子を隠し、自分も女神テティス(林佳代子)の神殿にこもる。

 女神テティスはアキレウスの母親で夫はペレウス(星野亘)。アンドロマケはメネラオス(ヘルミオネの父)に殺されかけるが、ペレウスに助けられる。これまでの主要登場人物がぞくぞく登場して、ちょっと頭がこんがらがったけど、混沌っぷりが面白かった。

 アンドロマケ役の高山佳音里さんは濃い色のコートを羽織って登場。コートの前をはだけるとなんと黒い下着姿で網タイツ。細くてセクシー。ヘルミオネ役の立花香織さんの鍛えられたお腹も素敵。ほんとに衣装の露出度が高いっ!!女優さん、美しい。

10.タウリケのイピゲネイア

 なんと、アガメムノンの長女イピゲネイア(落合るみ)が生きていた!物語はこちらに詳しいです。

 父アガメムノンの命令で生贄にされ、イピゲネイアの首が斬られる瞬間、太陽神アポロンと双子神である狩猟の女神アルテミスが、つまり生贄を欲しがった本人が、牝鹿と取り換えたのだ。イピゲネイアはアルテミスによってタウリケに飛ばされ、アルテミス神殿の巫女となって暮らしていた。仕事は漂着したギリシャ人の処刑など。生贄にされた日から17年の月日が経っていた。

 ある日、2人のギリシャ人が連れて来られた。なんとそれはアポロンの命令で女神アルテミスの像を探して旅をしていたオレステス(矢﨑和哉)とピュラデス(加賀谷崇文)だった。3人は像を奪った上で脱出を図る。しかしタウリケの王トアス(石田博英)は寛容ではなかった。

 コロスたちの願いが叶い、女神アテナ(服部幸子)が降臨。イピゲネイアたちのために必要な風を起こし、トアスにも彼らを許すよう説得する。アテナは知力と武力の神様なので、大きな銃を持ち、弾薬を肩から下げている。いずれも金色。アテナ役の服部幸子さんの堂々たるはじけっぷりが気持ちいい。

 アテナ役の服部さんはクリュタイムメストラ役でもあったので、コロス役としてその場にいたエレクトラ役の村松妙子さんがアイコンタクト。徐々に舞台全体が白黒に見えるライト(色としては黄色)で染められ、人々は袖へと去って行き、最後に一人の影だけを中央に残して、完全暗転して終幕。

 イピゲネイア役の落合るみさんは第一部でも一番良かったですが、第三部もそうでした。オレステスとの再会シーンに涙。

 ■ポスト・ショー・トーク ※メモ程度ですので正確性は保証できません。

 出演:竹村叔子(10場中、8場に出演・最多登場) 要田禎子(コロスの長役) 落合るみ 矢﨑和哉 司会:高山佳音里

 高山:36人の出演者。ヘカベ役の小沢寿美恵さんが80代で、今回初舞台の20代の役者が4人いる、年齢層が幅広い座組み。奥に楽屋があるがとても狭い。男性は2階で着替えたりも。何十という衣装があり、靴は60足。ギリシャの人々の衣装は60年代の設定。

 高山:稽古期間について。昨年12月にオーディション、今年1月に読み稽古。本格的な稽古は6月から。1か月半あったが、3本分なので短かかった。各場面に割ける時間が少ない。
 落合:1度稽古に出たら、次は10日後だったり。あっという間にテクリハの日がやってきた。
 
 高山:昴では以前に森新太郎さんを演出に迎えた(『汚れた手』『谷間の女たち』)。上村聡史さんと同年代。
 要田:お二方とも明確なイメージを持っていて信頼できる。
 高山:森さんは腰をぐっと抱いて進む方向へと強引にさらっていくタイプ。上村さんは手を繋いで(または肩を組んで)一緒に歩いていってくれるタイプ。森さんに比べると、俳優を待ってくれる。

 高山:演出家から「ギリシャものなので体を少し整えておいて」という依頼があった。ただしオレステス役(矢﨑和哉)を除く。この戯曲は女性中心に描かれている。たとえば男性のコロスが全員女性に書き換えられていたりする。オレステスは周りの女性や世情に振り回されるダメ男の1つの典型。
 落合:上村さんは「この戯曲の男は皆だらしない」とおっしゃっていた。

劇団昴ザ・サード・ステージ第34回公演『グリークス』
出演:
小沢寿美恵 石井ゆき 江川泰子 竹村叔子 要田禎子 林佳代子 高山佳音里 服部幸子 大坂史子 落合るみ 市川奈央子 箱田好子 木村香織 木村雅子 脇坂晴菜 広瀬和 村松妙子 秋田奈帆子 望月真理子 田渕真弓
星野亘 金房求 佐々木誠二 石田博英 宮島岳史 江﨑泰介 加賀谷崇文 町屋圭祐 矢﨑和哉 白倉裕人 福永光生 加藤和将 樋山雄作 落合撤 近藤瑞希 笹井達規
<お詫び>
出演を予定しておりました大島大次郎が、諸事情やむを得ず降板の運びとなりました。
出演を楽しみにしていた皆さんにご迷惑をお掛けすること深謝申し上げます。
大島のアキレウス役は加藤和将が、加藤のパトロクロス役は近藤瑞希が演じます。
原作=エウリピデス、ホメロス、アイスキュロス、ソフォクレス 編・英訳=ジョン・バートン ケネス・カヴァンダー 訳=吉田美枝 演出=上村聡史(文学座) 美術・衣裳=乘峯雅寛(文学座) 照明=宮永綾佳 音響=藤平美保子 舞台監督=加賀谷崇文 福永光生 白倉裕人 演出助手=江﨑泰介 木村雅子 望月真理子 小道具=加藤和将 落合撤 近藤瑞希 些細達規 美術・衣裳補佐=竹邊奈津子 脇坂晴菜 秋田奈帆子 票券=市川奈央子 立花香織 パンフレット制作=服部幸子 木村雅子 広瀬和 佐々木誠二 樋山雄作 宣伝美術=福永星 チラシ制作=宮島岳史 制作=劇団昴ザ・サード・ステージ
前売開始 2016年6月1日(水)
入場料金(全席自由席)
◎各公演 一般=3,500円 U24(24歳以下の方)=3,000円
◎通しチケット 同日観劇限定、2~3部の座席優先キープ得点付き=9,500円
※通しチケットがご利用いただけます。各回の上演開始時刻は以下の通りです。
第1部12:00~ 第2部15:30~ 第3部19:00~
http://www.theatercompany-subaru.com/public.html#a7

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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