カムヰヤッセン『レドモン(再演)』04/06-10吉祥寺シアター

レドモン(再演)
レドモン(再演)

 王子小劇場芸術監督の北川大輔さんが作・演出されるカムヰヤッセン。2011年3月に拝見した『サザンカの見える窓のある部屋』以来です。

 『レドモン』は2009年初演で7年振りの再演。上演時間は約2時間。ロビーで戯曲(1,000円だったかな…)を購入しました。

 「CoRich舞台芸術まつり!2016春」の審査員として拝見しました(⇒109本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました。

 『サザンカの見える窓のある部屋』も「CoRich舞台芸術まつり!2011春」審査員として拝見してました。今年も応募してくださってありがとうございます。

 ⇒CoRich舞台芸術!『レドモン

 ≪あらすじ・作品紹介≫ CoRich舞台芸術!より
初演はオバマが大統領に決まり、宇宙人ジョーンズが
地球の調査を始めた頃だった気がします。
「そこの宇宙人、待てい」はどこか呑気で、
登場人物たちが過酷な状況の中でも逞しく楽しく
生きている様子を描きたいと思っていました。
地球全体が、もしかすると共存と共生に向けて歩みを
進めうるのではないか、という淡い期待もあって、
人間そっくりの宇宙人の話にしました。

あれから7年たちました。
まだ地球人は地球人相手に相手とどう違いどう同じかを
探すことに躍起です。多くの人々が貧相な装備で海を渡り、
美しい街はテロリストの標的になりました。
弱い立場にいる人々が強かであろうとする話を書こうにも、
私たちはもう人の強さを軽々と超えてくる大きい悲しみが
世界中にあふれていることを知っています。

満を持して吉祥寺シアターで再演します。
今の私たちの現在地を、是非劇場で御照覧あれ。

脚本・演出 北川大輔
 ≪ここまで≫

 ■宇宙人との共生を描くSFに現代を映す

 地球にやってきた宇宙人“レドモン”と人間、そしてその混血(マジリ)との共生の可能性を、ホットかつウェットな人間ドラマで探っていく近未来ファンタジーでした。地球人の体制側がレドモンを母星へと強制送還させようとすることで、人々の暮らしに大きな亀裂が生まれます。初演は2007年ですが、今、まさに起こっているヘイトスピーチなどの人種差別や難民問題と、ヴィヴィッドに重なっていきました。

 ガランとした天井の高い空間に、鉄骨のような背の高い柱がそびえたつ舞台美術でした。柱と柱の間をつなぐ透明のホースが、目には見えない境界線を示すかのようで、俳優がホースを外したり、つなげたりして場面転換をするのも含意があって良かったです。
 
 ここからネタバレします。

 冒頭の、レドモンと人間の歴史について説明する群舞がとてもわかりやすく、絵的にも見栄えがする場面になっていました。赤いスカーフをレドモンの赤い尻尾に見立てて踊るのもきれい。暗黒舞踏にたとえるギャグも可笑しかったです。

 新聞社という企業の中の人間関係や、サラリーマン家庭の普段の暮らしを描くので、観客は「自分がもしレドモンだったら…」と想像しやすかっただろうと思います。目の前で起こるフィクションを通じて自分自身について考えるのは、観劇の醍醐味です。私は特に通称レドモン法(純潔維持法)の賛否の議論や、施行後のことを想像できて面白かったですね。レドモンは強制送還されるけれど、人間の血が通っているマジリは地球にとどまることができます。つまり家族は引き裂かれてしまう。血って一体何なのか、そんなに価値があるのだろうかと、自分のルーツである日本や地球の歴史について振り返って考えられました。

 ただ、脚本および演技には疑問点が多く、それらが喉に刺さった小骨のように引っかかったまま、最後まで観劇することになってしまいました。
 主人公の立川(辻貴大)は新聞社に勤める30代ぐらいの男性です。彼はレドモンの妻(穴泥美)とその間に生まれた14歳の娘ルルカ(ししどともこ)と三人暮らしですが、会社では独身だと偽っています。大手新聞社で家族構成を隠せるわけがないから、彼は非正規雇用の人材なのかも…なのになぜ、あんなに上司に対して自由に発言できるのだろう…などと余計なことを考え続けてしまいました。

 ルルカは尻尾を脱色する事件を起こします。それが原因の親子ゲンカは腑に落ちませんでした。立川はルルカに対して「(親の気持ちも)ちょっとは考えてくれよ!」と言い放ちます。それは娘のセリフですよね。混血として生まれて尻尾が生えてきたばかりの思春期の娘の方が、地球人の父よりもずっと複雑な状況を生きています。なのになぜか母(=立川の妻)までもが自分のことを棚に上げ、ルルカに「(お父さんに)謝りなさい」と言い出す始末…。立川はその後の場面で「反抗期だから、(ルルカは)聞く耳なんか持ちませんよ」とも言っていました。ここまで幼稚で身勝手な親なら、娘は最後に離れ離れになって良かったなと思いました。私のこの受け取り方は、脚本の意図からはきっと、かけ離れているだろうと思います。

 終演後に関係者から、初演では立川の子供は5歳の男児だったと聞きました。それは大きな変更ですね。単純に考えて子育て経験が約10年も違うことになりますから、立川とその妻のキャラクターづくりは刷新する必要があっただろうと思います。

 出演者の中では厚生労働省の“純潔維持課”で働く女性、成城なつめ役の工藤さやさんが良かったです。仕事の内容も、隠れレドモンの中塚記者(木山廉彬)への恋も信じられたし、おとりになって彼を騙す場面もスリリングでした。

第13回公演
武蔵野文化事業団 提携公演/CoRich舞台芸術まつり!2016春 最終選考通過作品/平成28年度芸術文化振興基金助成事業
【出演】:小島明之、辻貴大、工藤さや、小林樹、ししどともこ、橋本博人、大橋昌広(劇団くるめるシアター)、帯金ゆかり、笠井里美(アマヤドリ)、木山廉彬、工藤史子(ロリータ男爵)、宍泥美、前田隆成、松本みゆき、ヨシケン(動物電気)、渡邊りょう(悪い芝居)
脚本・演出:北川大輔
舞台監督:杣谷昌洋
舞台監督補佐:鈴木弥子
照明:黒太剛亮(黒猿)
音響:中村光彩
舞台美術:平山正太郎(センターラインアソシエイツ)
衣裳:中西瑞美
スチール:原絵里子
記録映像:鈴木トオル
宣伝美術:安藤理樹
演出助手:金子賢太朗(演劇集団・演人の夜)、瀧啓祐(演劇ユニットこわっぱちゃん家/リーディングカンパニーくらじぇむ)、中嶋マユコ、 羽賀優天、福井貴浩、笠浦静花(やみ・あがりシアター)
制作 萩原深雪(カムヰヤッセン)
当日運営:高橋ゆうき
制作補佐:川本ナオト
提携:公益財団法人 武蔵野文化事業団
主催・企画・製作:カムヰヤッセン
【発売日】2016/02/01
一般 前売3,000円、当日3,300円
学生 前売2,500円、当日2,800円
高校生以下 前売当日ともに500円(要予約・枚数限定)
早割り 前売当日ともに各300円引き(一般・学生のみ)
リピーター割り 1,500円(当日券のみ・要半券提示)
アルテ友の会会員 2,700円(武蔵野文化事業団にて取扱・前売のみ)
日時指定・全席指定
学生・高校生以下:要学生証提示
未就学児童入場不可
http://kamuyyassen.daa.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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