劇団俳優座『城塞』01/06-17シアタートラム

城塞
城塞

 眞鍋卓嗣(まなべ・たかし)さんが安部公房戯曲を演出。戯曲も目当てですが、昨年8月の『壊れた風景』(作:別役実)がすごく良かったので、眞鍋さんの演出に期待して伺いました。

 『城塞』…面白い戯曲でした…。やっぱり安部公房は凄いなぁ…。俳優さんの演技はもっと感情が小刻みに揺れ動いて、行動の振れ幅が大きい方が、スリリングで私好みです。他者をシャットアウトして逃げ込んだ心の隠れ家(=城塞)を、恐る恐る、でもこれ以上ないほど乱暴に、ぶち壊してほしい。上演時間は約2時間半(休憩15分を含む)。

 これからご覧になる方は「禁治産者(きんじさんしゃ)」の意味を知っておいた方がいいと思います。公式サイトによると「自分の財産を管理することや処分することを禁じられている人のこと」です。

 ⇒CoRich舞台芸術!『城塞

≪あらすじ≫ 公式サイトより
舞台はあるブルジョア家族の邸宅の居間。
時は現在(初演:1962年)、数時間の間の出来事。
和彦という名の「男」の「父」は、拒絶症*である。
現在(1962年)、父の跡を継いで会社の経営者になった「男」は、自分の時間を止めてしまった父のために、その場面を再現するごっこ芝居を行う。その時だけ、父は正気に戻って、母と妹を置き去りにして、男二人で帰国する理由の正当化をはじめるのだ。実の妹はその場で自殺しているため、妹役は男の「妻」の役目であったが妻の拒否から、今回はストリッパーの「若い女」を雇うことになる。このごっこ芝居にあきれていた妻は、父親の入院治療に同意するか、さもなくば、男を禁治産者*として経営から手をひかせると男を脅す。
そして父の入院に同意した男は最後のごっこ芝居を強行する。

*拒絶症:終戦直後、朝鮮半島から脱出する直前で時間が止まり、それ以上進むのを拒絶している状態
*禁治産者:自分の財産を管理することや処分することを禁じられている人のこと。
≪ここまで≫

 舞台は3つの頑丈な木製の扉に囲まれたクラシックな洋室。登場人物が5人しかいない、密度の高い会話劇です。

 一対一で闘う会話がスリリングで面白かったです。年配の俳優さんを見ると、ありがたいなぁとつくづく思うようになりました。長く俳優業を続けてくださってることに感謝します。

 ここからネタバレします。

 過去の思い出を再現するお芝居の中でだけ、父は正気に戻ります。息子はその時だけ父とちゃんと会話ができるし、妹が生きていた昔を愛おしく、懐かしく感じて、楽しんでいたんだろうと思います。「ユートピアは劇場の中にしかない」という井上ひさしさんの言葉が思い浮かびました。私たちは劇の中で一緒に夢を見て、興奮して、楽しんで、ショックを受けて、考える。そして、そもそも劇(=虚構)なのだと受け止め、自分から外に出る。それを繰り返しているんだなと。

 関東軍と癒着して軍需工場を拡大し、屍の上に巨万の富を築いた父。父に反抗しつつも、狂った父の夢(=お芝居)の中で青臭い若者の主張をし、その愉しみに17年間も耽溺してきた息子。2人にただ盲目的に仕えてきた、ことなかれ主義の初老の執事。息子の妻は資産家の娘で、男たちの“お芝居”で死んだ妹役を演じることがほとほと嫌になった。息子は妻の代わりに妹にそっくりの若いストリッパーを雇う。自分の代役として下賤な女を家に入れたことに激怒した妻は、夫(=息子)を会社の経営から退かせようとする。「それが嫌なら、お父さんを精神病院に入れて」という脅しに屈した息子は、最後に父とちゃんと話をするために“お芝居”を始めた。しかし、いつものようにはせず、父の夢をことごとく壊す現実を突きつけたのだ。朝鮮から日本に飛ぶ飛行機はもう来ないし、そもそもここは朝鮮ではなく、暴動も起こっていない。青白い顔の従順な少女だった妹はもういない。いるのは裸で踊り、みだらに男をあおるストリッパーだ。

 息子はシスコンでファザコンで、プライドの高い甘えたのぼんぼんです。現代の私たちと重なります。リアリストの妻が彼に三下り半を突きつけて、それに折れるのもまた愚か。でも「武器で儲けたくない」という純な心の持ち主でもあった。だからもっと可愛げが欲しい。父を追い詰める場面では快感、興奮、罪悪感などが混じり合っていて欲しいし、父を壊すことは自分を壊すことだという覚悟、そして恐怖も併せ持っていて欲しい。
 ストリッパーが何の支配も受けない野生の象徴だとすると、もっと下品なところがあっていいのでは。最後のストリップ・ダンスは悦に入って、激しくエロティックに、太陽のように輝く主役になって、舞台をかっさらってほしい。

劇団俳優座公演No.327
【出演】男の父:中野誠也、男の妻:清水直子、従僕:斉藤淳、男:齋藤隆介、踊り子:野上綾花
脚本:安部公房
演出:眞鍋卓嗣
美術:杉山至
照明:榊美香
効果:木内拓
衣裳:樋口藍
舞台監督:宮下卓
制作:下哲也
前売り開始 2015年11月16日(月)
一般:5400円 学生:3780円
※前売り・当日共通 未就学児童入場不可
http://tinyurl.com/pydy2ha
http://setagaya-pt.jp/performances/20160106haiyuuza.html

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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