【非公式レポート】アジア舞台芸術祭2015「ラウンドテーブル、クリエーション公演、ワークショップ作品上演会」11/14東京芸術劇場内

 11/14(土)は「アジア舞台芸術祭2015」が開催されている東京芸術劇場にずっと滞在することになりました。アーティストが多数登壇するラウンドテーブルから始まり、公演を2つ拝見。どれも無料(要予約だけど予約なしでも氏名、電話番号を記入すれば入場可)のイベントでした。

 プロデューサーの宮城聰さんが先日おっしゃっていたのですが(⇒F/T15記者会見)、「アジア舞台芸術祭(通称あじぶ)」は10年も継続されているんですね。同時代を生きるアーティストとその周辺の人々(観客も含む)が、自分にとって「外国人」である人々と、作品を通して顔と顔を突き合わせる機会。それが毎年続いていることに感謝しました。ともに創作をした俳優、演出家の方々にとっては、色んな意味で濃厚な体験なのだろうと思います。

 ※『黄金のごはん食堂』は明日も公演があり、APAFアートキャンプは来週も続きます。

■APAFアートキャンプのテーマ『共同創作の意義を考える』
11月14日(土)東京芸術劇場 シンフォニースペース
13:00-15:00 ラウンドテーブル
「コラボレーションの意義、その可能性」
登壇者:
 ショーネッド・ヒューズ Sioned Huws(イギリス/ダンサー、振付家)
 多田淳之介(演出家、<東京デスロック>主宰)
 チョイ・カファイ CHOY KA FAI(シンガポール/演出家、マルチクリエーター)
 フィリップ・ブスマン Philip Bußmann(ドイツ/ビデオアーティスト、舞台美術家)
 丸岡ひろみ(TPAM in Yokohama ディレクター、国際舞台芸術交流センター理事長)
 宮城聰(演出家、芸術総監督、アジア舞台芸術祭プロデューサー)
 司会:藤原ちから(批評家、編集者、BricolaQ主宰、本牧アートプロジェクト2015プログラムディレクター)
【発売日】2015/10/05 無料・要予約
http://www.butai.asia/j/home/info2015-3.html
CoRich舞台芸術!:http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=69159

 以下、私がメモした内容です。正確性は保証できません。

 カファイ:シンガポールで生まれ育ったが今はドイツに滞在。コラボレーションをする前に相手と仲良くなることがポイント。1,2年かけて人柄を理解した後で、組むかどうか考える。

 ヒューズ:ウェールズからロンドンを経て今は日本に滞在中。作品を作るために各国に移り住み続けている。青森で滞在製作をした。私にとってプロフェッショナリズムとは(創作に)安全な環境を作ること。

 ブスマン:ドイツ生まれでニューヨークで長く滞在していた。外国に長く滞在すればするほど、ドイツが恋しくなる。どんな作品創作もコラボレーションと呼べるが、成功するのは簡単ではなく、5年に1度ぐらいの割合で奇跡的な作品ができたりする。

 多田:2008年から韓国人と共同製作を始めて、1年に2か月は韓国で滞在することを続けて7年になる。最初の作品がブスマンさんがおっしゃる5年に1度レベルの成功だった。韓国人と日本人との創作は、他の外国人と比べたらストレスは少ないと思う。ただし、歴史の話をしなければ。
 今は文化的背景の違いを踏まえ、新しい文化背景を作ろうとしている。コラボレーションから始まり、コラボレーションでなくなることを目指している。コラボレーションする時はまず共通することを探すのが大切。最初に共有できるものを探して、後から相違点を探す。(作品への観客の反応が韓国人と日本人ですごく異なる点について)韓国で上演する時は韓国演劇、日本で上演する時は日本演劇だと思っている。

 宮城:国際的なコラボレーションでは母国語という問題が大きい。母国語が違う人と作品を作ることに私は大きな意味を見出している。昔は「日本だけでなく海外でも活動したい」というのが外国人と共同創作する動機だった。それは幼稚な考えだった。
 なぜ外国人とやろうと思ったのか。外国人と創作すると「日本的なものとは何か?」を突きつけられる。それが面白いのだと思っていた。でも「日本的なものなど存在しない」という結論に達したので、その問いは消滅した。
 ク・ナウカ時代から海外の演出家を招いて創作をしていた。『ムネモシュネの贈りもの』という作品でインドネシア人のユディさんと組んだ。インドネシアには300の言語があると言われているので、「インドネシア人」とひとくくりにできるわけではないが。その舞台でインドネシアの俳優が立ったり座ったりするだけで私は面白かった。なぜなのか。ひとことで言えば彼らの体に謎があるからだ。その謎とは、どこが不思議なのかを言い表せないほど、微細な謎。日本の俳優とあからさまに違うわけじゃないのに、確かに違う。自分が知らない要素がある。「何が不思議かがわからない不思議さ」がある。こんなに面白いことはないと思った。
 不思議の原因はおそらく2つ。1つは言語。どんな言語を使って考えているかが、その人の動きに影響を及ぼしている。もう1つは気候と風土からくる、食事も含めた生活習慣。家で靴を脱ぐかどうか、家の中の部屋に壁やドアがあるかどうか、稽古場の床が木の板か、それとも石か。個人差を超えた大きな違いとして、母語と気候・風土がある。
 コラボレーションの意義は、そういった人間の体の微細な不思議、もしくは差異に、興味を持つこと。他人に対してデリケートになること。見方が細かくなること。大雑把にひとくくりにせず、一人一人を細かく見るクセがつく。それが意義だと思う。人間は疲れないで過ごそうとするから、自分を鈍感にしようとするものだ。

 丸岡:皆さんもご存じのとおり、今日パリでテロがあった。オバマ大統領が声明を出した。「普遍的な価値観を狙ったもの」といった内容だが、果たして「普遍的な価値観」など存在するのかどうか、というのが今日の問題意識である。
 国際的なコラボレーションにおいては、お互いの違いを知る以上の何かを生むことに重きを置くべきだと思う。

 宮城:コラボレーションとは人間というものを微細にのぞき込むためのツール。作品が上手くできたかどうかは、観客が微細にのぞき込むことが出来たかどうかでわかる。そこがスポーツと違うところ。スポーツは人間技とは思えない(普通の人にはできない)技を見せればいい。舞台芸術の場合は「何が不思議かわからないのに不思議」なものを見せること。それを観客が微細に見分けられるようになる(ことが、舞台が果たせる役割)。

 ヒューズ:観客が存在することが作品の必要条件。観客がいない作品は作品として存在しない。信頼関係を作る方法は、皆を平等に扱い、ビジョンを平等に伝えること。誤解が生まれたら、その都度、瞬間瞬間に対応する。IT技術が発達し、創作段階や作品そのものにさまざまな機材を利用するようになった点について。私は顔と顔を見合わせたコミュニケーションが大切だと思っている。

 カファイ:コラボレーションとは「交換」の意味もある。維新派の松本雄吉さんにインタビューをした。外国人だから聴けることがある(「なぜ同じスタイルを守り続けているのですか?」など)。
 IT技術を使った国際共同製作は数年前にあった。映像を通じて離れた場所(ドイツとアジアの国)のパフォーマンスをつなげる(同時に上演する?)ものだった。でも今は活動をしていないようなので、やはり(機械を介在させず)実際に顔を突き合わせる方がいいのだろう。

 ブスマン:舞台芸術は常にコラボレーション。一人芝居でもスタッフがいるし、観客もいるのだから。コラボレーションに誤解はつきもの。成功するのは互いの誤解を取り除いている公演。IT技術やその道具については、自分も使うだろうしいつか使いたいとも思っている。ただ、人間同士の間でさえ誤解が生じるのに、その間に機械が入ると二重に誤解が生まれる可能性がある。機械自体を誤解することもあるだろう。そもそも舞台芸術は観客と直接共有するものだ。

■アジア舞台芸術祭2015・国際共同クリエーション公演『黄金のごはん食堂 Gold Rice Restaurant』
11/13-15東京芸術劇場シアターイースト
出演:猪俣三四郎<ナイロン100℃>、小山萌子、遠藤祐太朗、高田賢一<TheatreMUIBO>、小林亜美<俳優座>、林大樹、出崎洋樹
脚本・演出:ソ・ジヘ<ProjectIsland>代表(韓国) 身体表現アドバイザー:ティラワット・ムンウィライ<B-floor>共同設立者、芸術監督(タイ) 演技指導:ナム・ドンジン(韓国)
無料・要予約
http://www.butai.asia/j/home/info2015-1.html
CoRich舞台芸術!:http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=68994
オーディション:http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2015/0828110523.html

■アジア舞台芸術祭2015・国際共同制作ワークショップ作品上演会『雨 Rain』
11/10(火)水天宮ピット 小スタジオ1・2
 11月10日(火) 14:30
11/13(金) ~14(土) 東京芸術劇場シアターイースト
 11月13日(金)16:30
 11月14日(土)19:00 
無料・要予約
http://www.butai.asia/j/home/info2015-2.html
CoRich舞台芸術!:http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=69154
オーディション:http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2015/0828110523.html

 【しのぶの感想】
 「雨」という共通テーマで、これほどまでに異なる作品が生まれるのだなと、少々驚きを持って拝見しました。身体能力の高い俳優が多かったのが強く印象に残りました。オーディションは狭き門だったそうです。勝ち取った皆さん、おめでとうございます。
 この実績が果たして次につながるのか、具体的な成果とは何なのかといった評価は、一観客の私ができることではないと思います(わからないし)。ただ、日本人俳優が国際共同製作の場に参加して、2週間弱の創作を経験することそのものが、価値だし意味なのだろうと思いました。初めて体験する若い俳優さんもいらっしゃったようなので、毎年新しい出会いがあるだけでも十分なのではないでしょうか。俳優の心身に記憶として残り、いつか俳優それぞれの未来に生かされるでしょう。観客にも舞台芸術シーンにも恵みをもたらす、有望な種を蒔いてくださっているのだと思います。

[1]『焦土 Purgatory』
出演:ツェンペイ<シャインハウスシアター>(台湾)、鈴木麻美、東龍之介、杉山賢
演出:ジョン・ボーユエン<シャインハウス・シアター>主宰(台湾)

[2]『ペットボトルの中の雨 Rain in Plastic Bottles』
出演:さくままゆ、花島大樹、原田真歩、細谷あいり
演出:イベッド・スルガナ・ユガ芸術監督(インドネシア)

[3]『TERU TERU!』
出演:秋本雄基<アナログスイッチ>、永瀬泰生、西村由花<無隣館>、デルフィーヌ・ブエンカミノ<タンハラン・ピリピーノ>(フィリピン)
演出:タックス・ルタキオ<フィリピン文化センター所属タンガラン・ピリピーノ>アソシエート芸術監督(フィリピン)

【アジア舞台芸術祭2015】
プロデューサー:宮城聰 アートキャンプコーディネーター:植松侑子 制作オフィス:久我晴子 西崎萌恵 鶴野喬子 木村孔三 木皮成
http://www.butai.asia/shared/pdf/apaf2015.pdf

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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