世田谷パブリックシアター『Needles and Opium 針とアヘン~マイルス・デイヴィスとジャン・コクトーの幻影~』10/09-12世田谷パブリックシアター

針とアヘン
針とアヘン

 「映像の魔術師」と呼ばれるカナダはケベック出身の世界的演出家、ロベール・ルパージュの1991年初演作が東京へ。改訂されて2013年から世界ツアー中の作品なんですね(当日配布パンフによると、1993年に日本のパナソニック・グローブ座で上演されたそうです)。メルマガ10月号で今月のお薦め3本としてご紹介していました。とっても良かった~~~♪ ルパージュ作品の過去レビュー⇒

 1分半の映像↓だと、ジャズのBGMでアンニュイなムードですが、軽い笑いもいっぱい!回転するキューブ型の装置とプロジェクション・マッピングの技術、そして俳優の演技のコンビネーションが見事です。練度が高く、洗練されていて、上品で、それでいて人懐っこい。心の内側と地球の外側を旅して、そのシンクロニシティを感じられる幸せな演劇体験でした。デートにぴったりだと思います♪

 英語上演、日本語字幕付きです。私は1階席上手ブロックでした。字幕のディスプレイは上下(かみしも)にあるので、私は中央と右側に目をキョロキョロさせていました。三階席から観た友人が全く問題なかったと言ってたので、A席5,500円(3階席)にチャレンジするのもいいかも(その方が全体が観られるかも?)。学生なら半額だから2,750円です!上演時間はカーテンコール込みで約1時間45分。

撮影:青木司
撮影:青木司

 ⇒CoRich舞台芸術!『Needles and Opium 針とアヘン〜マイルス・デイヴィスとジャン・コクトーの幻影〜

 ≪あらすじ≫ ネタバレしています。読んでから観てもそんなに問題ないかと思います。
 ケベック州の俳優のロベールは米仏共同製作の番組のアフレコの仕事で、アメリカとフランスを行き来している。3週間前に恋人の女優と別れたばかりで、まだその傷心の真っただ中にいた。ホテルからニューヨークに居る彼女に電話をしてみるが、すぐにはつながらない。
 番組はというと、米国のジャズトランペット奏者マイルス・デイヴィスを、サンジェルマン・デ・プレの著名人(サルトルやポール・ヴェルレーヌら)に紹介し、彼の恋人にもなったフランス人女性、ジュリエット・グレコについてのもの。
 舞台にはマイルス・デイヴィスの他に、アメリカに短期滞在したフランスの詩人ジャン・コクトーも登場する。ロベールは1989年の夢と1949年の幻を見る。
 ≪ここまで≫

 終演後に友達と感想を話し合ったんです。映像や装置の仕組みはすぐに種明かししてくれる。それでもずっと面白く観てられるのは一体なぜなんだろうって。まず、俳優の演技がうまいからだと思います。そして私の勝手な想像に過ぎないのですが、何年もかけて色んな試行錯誤を重ねた末にたどり着いた完成度があるからじゃないでしょうか。日本からもこのレベルの現代劇が生まれて、世界中で上演されたらいいな~と思いました。

 当日配布の無料パンフレットにルパージュ作品の来日予定が記載されていました。2016年6月下旬から7月上旬に、『887』が東京芸術劇場プレイハウス、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館にて上演されるようです。これも世界を回っているレパートリーなのでしょうか。凄いなぁ…。

撮影:青木司
撮影:青木司

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 主役のロベールを演じる俳優がジャン・コクトーも演じます。マイルス・デイヴィス役の俳優はトランペットを吹きますが(録音か生音かは不明)、セリフはしゃべりません。一瞬、ジュリエット・グレコ役の女性が登場するけれど、男性2人芝居ですね。

 黒人のマイルス・デイヴィスは自ら身を引き、白人女性のジュリエット・グレコを置いて米国に帰国しますが、傷心ゆえにアヘンに手を出してしまいます。ジャン・コクトーも恋人のレーモン・ラディゲが20歳の若さで死んでしまい、アヘン中毒に。コクトーは「アヘンの方が健康よりも自分を幸せにしてくれる」「アメリカ人は夢は必ず覚めるものと思ってるけど、夢こそが生きている時間だ」という意味のことを言います。その夢の時間こそ演劇だと思うので、私はコクトーに共感します(アヘン中毒は嫌だけど!)。

 ロベールも失恋の病にかかっていたので、天才2人と自分を重ね合わせます。仕事がまともにできなくなって睡眠治療のクリニックに行ったロベールは、自分の傷心の理由などとあわせて、1950年以降のケベック独立運動についても医師に話すことになりました。フランス語圏と英語圏の対立があるんですね。ロベールは「離婚したのに一緒に住む夫婦」等とたとえていました。個人間の亀裂と国家の分裂は、その大きさは異なりますが、人間の心が張り裂けるという意味では同じだと思います。装置の全面が星空になって宇宙を想像させるので、アヘンの夢と国家規模の傷心が、宇宙サイズに広がるように感じました。

 ところで、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」↓はマイルス・デイヴィスが即興で音楽をつけたんですね。映画は見たことあるんですが、知らなかった~。

死刑台のエレベーター ブルーレイ [Blu-ray]
角川書店 (2012-11-22)
売り上げランキング: 11,556

 それで彼のアルバム↓もあるのか~!

死刑台のエレベーター(完全版)
マイルス・デイヴィス
ユニバーサル ミュージック (2014-10-08)
売り上げランキング: 26,220

 「死刑台のエレベーター」の映像を見ながら、アヘン中毒から復帰したマイルス・デイヴィスが即興で演奏する場面がありました。そこでロベールがルイ・マルと会話をします。「仲間が支えてくれたから、作品を作ることができた」というルイ・マルの言葉を聴き、ロベールはもう一度アフレコの仕事場へと向かいます。作品創作が人間を生き返らせる、共同製作が人間同士をつなぎとめるのだなと思いました。先日観たこまつ座『マンザナ、わが町』でも描かれていたことです。人間にはものづくりが必要なんだと思います。これもパンフレットに書かれていたんですが、コクトーもココ・シャネルの助けでアヘン中毒を克服したそうです。

 ジャン・コクトーの「アメリカ人への手紙」が何度か語られていました。「地球はまだ若い」という希望が持てそうな表現もありましたが、「やがて警察に支配される」という今の日本に重なるような不穏な言葉もあり、予言めいていました。

 2回目のカーテンコールで裏方のスタッフの方々が舞台上に一列に並びました。たぶん10人以上!日本人が多い!海外からの招聘作品も現地スタッフがいるから上演できるんですよね。特にこの作品はあんなに大がかりな装置で、しかもぐるぐる動くんだもの…。本当にありがとうございました!

撮影:青木司
撮影:青木司

※舞台写真は劇場よりご提供いただきました。
[出演] Marc Labrèche and Wellesley Robertson III
[作・演出] ロベール・ルパージュ
[美術デザイン] Carl Fillion
[プロップデザイン] Claudia Gendreau
[照明デザイン] Bruno Matte
[音響デザイン] Jean-Sébastien Côté
[映像デザイン] Lionel Arnould
[衣裳デザイン] François St-Aubin
「英語翻訳」  Jenny Montgomery
[技術監督] 熊谷明人
[プロダクション・マネージャー] 福田純平
[プロダクション・マネージャー助手]木村光晴
舞台監督:山本園子
照明:西倉淳 野木芙侑
音響:柴田未来
舞台:山﨑明史
大道具:有限会社プランニング・アート
映像:ムーチョ村松(トーキョースタイル)
衣裳:下條幸子
字幕操作:近藤強
技術通訳:柴田綾子 寺田ゆい
字幕翻訳:小川絵梨子
宣伝美術:近藤一弥
プロデューサー:穂坂知恵子
制作:和久井彩 永田景子 伊藤彩夏
広報:森明睎子 宇都宮萌 稲山玲
営業・票券:鶴岡智恵子 営業:竹村竜
世田谷パブリックシアター
芸術監督:野村萬斎
劇場部長:安澤哲男
技術部長:熊谷明人
主催:公益財団法人せたがや文化財団
企画・制作:世田谷パブリックシアター
製作:Ex Machina(エクス・マキナ 「機械仕掛け」の意)
一般 S席7,500円(1階席・2階席)
SA席7,000円(1階席前方5列、字幕見切れ席)
SB席7,000円(2階サイド席) A席5,500円(3階席)
高校生以下&U24 一般料金の半額
友の会会員割引 S席7,000円
せたがやアーツカード会員割引 S席7,200円(1階・2階)
※未就学児童のご入場はご遠慮ください。
http://setagaya-pt.jp/performances/20150714-2661.html
http://lacaserne.net/index2.php/theatre/needles_and_opium/

※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガ↓も発行しております♪

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台

   

バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ