花まる学習会王子小劇場連続WS企画「カチコミ」11月企画「ディレクターズ・ボイス・ワークショップ~少人数限定! 1DAYコース~」11/02ココキタ

 ボイストレーナーの金末順(きむまるすん)先生のワークショップを見学させていただきました。
 知り合いの俳優さんたちから、きむ先生のお噂はかねがね伺っていたのです。花まる学習会王子小劇場の企画には見学枠(受講料3,000円)が設けられていたので、とうとうお目にかかれました!
 ⇒きむ先生とゆかりの深い方々からのメッセージをぜひお読みください。

 初めてお会いしたきむ先生は…パワーの塊! 参加者一人ひとりに積極的にかかわり、はっぱをかけていく姿は“肝っ玉母さん”みたい!(笑) 写真や資料を使って声の仕組みを解説しながら、参加者に正しい姿勢を伝え、実際に声を出すワークを指導していきます。終盤は、朗読を繰り返すことで変化を確かめ、目指す声の感触を知っていきました。きむ先生が自らさまざまな声を出して比較してくださったのが、私にはとてもわかりやすかったです。

 きむ先生が目指す声の最終目標は、「聞く人に勇気と元気と明日への希望を感じさせる声をつくる」こと。今回のワークショップでは主に、腹式呼吸によって体の前方へと出す声(上昇呼気)の訓練が行われました。その逆は、胸からの呼吸で背中の方に出す声(下降呼気)。相手に伝わる言葉は前者です。後者は聞いているだけで少しもやっとするというか…気分が悪くなってくるから不思議…。
 ※上昇呼気と下降呼気はきむ先生による造語です。

 舞台上の俳優が相手役と会話する場面で、本物のコミュニケーションが行われていないように見えることは、残念ながら少なくありません。私は俳優が他者と会話をしている振りをしている、つまり嘘をついているように感じて、腹立たしく思ったりするタイプなのですが(気難しい客ですよね)、きむ先生によれば「俳優は嘘をついているのではなく、単に声の出し方を知らないだけ」かもしれないとのこと。いやー…目からうろこが落ちる思いでした。俳優さん、ごめんなさい。

 今回は基本的に演出家を対象にした声のワークショップでした。なぜ演出家向けなのか。それは稽古場でのパワハラ、モラハラをなくしたいから。俳優だけでなく演出家も声の仕組み、効果、出し方を学んで実践していけば、互いに元気を与え合う健康的な場になるのではないか…という、きむ先生のお考えに賛同します。また今回のワークショップで、声にはその力があると実感できました。

 きむ先生はご自身のスタジオで個人向けに指導をされています(現在は新しいレッスン生の募集はされていません)。レッスン生の方々が数名、助手として参加し、朗読のお手本も披露してくださいました。参加者の励みになったのではないでしょうか。やり続ければ、いつかはできる(はず)。

 俳優の成河さんは長年の縁があるレッスン生で、彼が出演したTPT『エンジェルス・イン・アメリカ』でのエピソードがこちら。
 きむ先生:成河が演出のロバート・アラン・アッカーマンに私を紹介した際、「自分のボイス・トレーナーだ」と言ったら、アッカーマンに「Good Job!」と言われた。俳優の体から離れた言葉が景色をつくり、客席に届く。体から離れた声は劇場を支配する。成河はそれができる俳優。彼のおかげで私は大言壮語ではなくなった(笑)。

 以下、きむ先生のご発言を項目ごとにわけて記録しました。

■基礎

・声の出し方、息の使い方をマスターできれば、色んなことができるようになる。基礎力がないと、言葉が言葉として生きてこない。基礎ができれば次に行ける。基本があって初めてオプションがある。基礎がないとデフォルメはできない。標準装備を身に着けよう。

・体、息、声、言葉がつながること(=基礎)。それだけでは一本調子だが、まずは基礎が大事。それができて初めて変化が出てくる。
・声を出すための訓練はとても地味。定着させるには時間がかかる。声は私が思っているほど簡単なものじゃない。

■声

・体から離れる声を出したい。楽器から音が離れて客席に届くように。声が体から離れると、劇場を支配できる。
・息に声を乗せる。言葉が前へ、前へと出ていることが必要。
・しっかりと大きく強く息を出せば、大きい声が出る。大きい声でも小さい声でも、出る息のコントロールをする。まずは大きい声をきちんと出すことが先。

■腹式(○) VS 胸声(×)

・腹の底の底を動かして呼吸するのが腹式呼吸。腹式の反対が胸声(きょうせい)。
・舌の奥から呼気を出すと、腹が動き始める。そうすると腹から出る声(腹式)になる。
・活舌が悪い時、口の形を直すだけだと、胸声の発語になる。

■上昇呼気(○) VS 下降呼気(×)
 ※上昇呼気と下降呼気はきむ先生による造語です。

・上昇の声は人を元気づける。(舞台俳優は観客に)元気を与え、勇気を与えたい。(観客は)わくわくしたい。
・下降の声は相手を傷つける。体重をかかとに乗っけると下降の呼気になる。
・下降の呼気から出る言葉は聞きづらいし、届かない。腹が動いていない。活舌も悪くなる。舌の奥を使うべき。
・“下降の林(下降呼気の発声をする人々の集団)”の中に入ると、埋もれる。素人は周囲に合わせようとする。そうすると背中にしょってしまう(下降呼気になる)。

■“腹式”の“上昇呼気”を出すための姿勢

・声が出る呼吸をしやすい体をつくる。立ち方を変える。アグレッシブな立ち方に。
・下半身だけで立つ。丹田(たんでん/おへその下のあたり)から下で立つ。
・上半身は力を抜く。本当の意味でリラックスした状態で、楽な体になる。

・体を変えれば声が変わる。しっかり骨盤を立てること。骨で立つイメージ。
・聴く体と伝える体は異なる。聴きたいと意識すると下降呼気になる。聴いている体のまましゃべると(下降呼気になるので)伝わらない。腰を立てるだけで言葉が伝わるようになる。

・足のかかとの中心と足の中指が、同じ直線状にある状態で、足の裏の土踏まずで立つ。
・土踏まずに力を入れて足の裏全体で立つ。土踏まずから足が伸びているイメージ。内転筋(内ふとももの筋肉)に力が入り、お腹が動きやすくなる。

・骨盤が下がって、尻がペタンとなっている状態は、かかとに体重が乗っている。下降呼気になる。ミュージカル俳優でもそういうタイプがいる。

・こういう基礎的なところから呼吸を考えて声のトレーニングをやっていくべきだが、(私が知る限りでは)それを教える研修所がない。

■舌

・舌の使い方が悪いと、腹が動かないから腹式呼吸にならない。舌が使えていないと、背中から出す声(下降呼気)になる。舌の奥が動くことによって、自然に腹が動く。舌と腹は連動している。
・舌を動かすと、知的なしゃべり声になる。
・舌先と唇でやろうとするからセリフを噛む。しっかり舌を動かせるようになれば、噛まなくなる。

■考えず、ただ出す

・言葉のイメージをはっきり伝えるためには、考えないこと。自分をジャッジしないこと。考えると声によどみが出る。ただ言葉を出すだけにする。飲んだり引いたりせず、ただ自分は出すだけ。そういう習慣を持つこと。

・自分だけが感じてはだめ。相手に感じさせる。抱えない。考えない。感じない。全部出す。表に表す。そうすれば景色が見える。やろう、出そうと意識するのではなく、ただ出すこと。前にしっかり出していく。

■二音目

・(セリフの)文頭の音を強く出さない。声が体から離れなくなってしまうから。
・二音目をしっかり伝えることにより、感情が乗る(「あいうえお」というセリフがあった場合、二音目は「い」)。二音目を出すことで言葉が伝わる。二音目がちゃんと出ると、最後まできちんと出る。二音目を飲んだり、引いたりすると、言葉(セリフ)が泣く。二音目はぐっと押し出す感じで。二音目のうちにある母音が出てくること。

■相手に伝えること

・会話とは、息の交流。それが芝居の面白さ。流す息に言葉が乗っている。吐く息に音が、言葉が、ひとつずつ乗っていく。
・暗記するだけではだめ。大事なのは相手に伝えること。相手とコミュニケーションを取りたいと思えばいい。

■はっきりと表明することが「表現」

・俳優に自信がないから声が出ない。舞台俳優として自分に自信があることが大事。日本ではそういう声は(日常生活で)好まれないようだけれど。舞台では必要だろう。

・語尾をちゃんと出すのは難しい。(日本の一般人には)語尾を緩める習慣/癖がある。
・舞台表現としての言葉は、日常の言葉とは違う。

・「私は○○だと思う」と(主語をはっきりさせて語尾までちゃんと)言うのが表現。「俺はこう思っている」と伝えること。それが表現。聴き手に委ねたり、語尾を曖昧にするのは、かっこよく見えるかもしれないが、それはどうなの?(表現ではない)。

■演出家

・役者が演出家を育てる。自主性のない役者でいてもらっては困る。演出家にもそういう意識を持ってもらいたい。
・(日本人は)普段から出していないから、語尾を消す傾向がある。語尾をはっきり言わないのは、自分で意思決定をしないで、相手に決めさせようとすること。語尾を濁すことで相手の取り方次第にするのはよくない。表現者としてきちんと声を出すこと。

・声の秘密を知っていれば、パワハラ、モラハラが解消、解決される。対人関係がかなり改善できるはず。
・演出家の言葉の出し方で、稽古場の雰囲気が変わる。演出家には、自分の声に自覚的になってほしい。

■声優

・高性能マイクがあるのでメディア(ラジオや、アニメなどの映像分野の仕事)では大きな声を出すことは不要になってきた。
・声優に、しっかりと深い声を出す芝居をする人は少ない。
・声優は(セリフを、声を)盛りすぎる傾向がある。盛りすぎると景色は見えない。
・メディアに出る時は声の届く距離が違うから、使い分ける。

連続WS企画「カチコミ」11月企画
『ディレクターズ・ボイス・ワークショップ~少人数限定! 1DAYコース~』
【日時】2019年11月2日(土) 10時30分~18時
【会場】ココキタ(北区文化芸術活動拠点) ※ご参加の確定後、詳細をご連絡いたします。
【テーマ】
・発声のメカニズム
・体と息と声と言葉をつなぐことが可能になると何が生まれるのか!
・演出の感性を演者によって表出させられる声と言葉とは
【対象】自らを若手と思う演出家/演出家志望の方/演劇に携わっていて声に興
【定員】5名~10名程度/見学:若干名
【料金】一般:4,000円 カチコミ学園生:3,500円 見学:3,000円
ボイスワークショップのお申し込みは、王子小劇場まで。
http://ojikachikomi.blogspot.com/2019/10/11-1day.html

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